塩鉄論 / 通有篇
文學曰:「孟子云:『不違農時、穀不可勝食。蠶麻以時、布帛不可勝衣也。斧斤以時、材木不可勝用。田漁以時、魚肉不可勝食。』若則飾宮室、增臺榭、梓匠斲巨為小、以圓為方、上成雲氣、下成山林、則材木不足用也。男子去本為末、雕文刻鏤、以象禽獸、窮物究變、則穀不足食也。婦女飾微治細、以成文章、極伎盡巧、則絲布不足衣也。庖宰烹殺胎卵、煎炙齊和、窮極五味、則魚肉不足食也。當今世、非患禽獸不損、材木不勝、患僭侈之無窮也、非患無旃罽橘柚、患無狹廬糠糟也。」
新字:文学曰:「孟子云:『不違農時、穀不可勝食。蠶麻以時、布帛不可勝衣也。斧斤以時、材木不可勝用。田漁以時、魚肉不可勝食。』若則飾宮室、增台榭、梓匠斲巨為小、以円為方、上成雲気、下成山林、則材木不足用也。男子去本為末、雕文刻鏤、以象禽獣、窮物究変、則穀不足食也。婦女飾微治細、以成文章、極伎尽巧、則糸布不足衣也。庖宰烹殺胎卵、煎炙斉和、窮極五味、則魚肉不足食也。当今世、非患禽獣不損、材木不勝、患僭侈之無窮也、非患無旃罽橘柚、患無狭廬糠糟也。」
書き下し
文學曰く、孟子云う、『農時に違わざれば、穀は勝げて食らうべからず。蠶麻時を以てすれば、布帛は勝げて衣るべからざるなり。斧斤時を以てすれば、材木は勝げて用うべからず。田漁時を以てすれば、魚肉は勝げて食らうべからず』と。若し則ち宮室を飾り、臺榭を增し、梓匠は巨を斲りて小と為し、圓を以て方と為し、上は雲氣を成し、下は山林を成さば、則ち材木は用に足らざるなり。男子は本を去りて末を為し、文を雕り鏤を刻み、以て禽獸に象り、物を窮め變を究めば、則ち穀は食らうに足らざるなり。婦女は微を飾り細を治め、以て文章を成し、伎を極め巧を盡くさば、則ち絲布は衣るに足らざるなり。庖宰は胎卵を烹殺し、煎炙齊和して、五味を窮極せば、則ち魚肉は食らうに足らざるなり。當今の世、禽獸の損ぜず、材木の勝げざるを患うるに非ず、僭侈の窮まり無きを患うるなり、旃罽橘柚の無きを患うるに非ず、狹廬糠糟の無きを患うるなり。
現代語訳
文学が言った。「孟子はこう言った。『農繁期を邪魔しなければ穀物は食べ切れないほど採れる。蚕と麻を時期どおりに扱えば布は着切れないほどできる。斧を入れる時期を守れば木材は使い切れないほどある。田猟と漁を時期どおりにすれば魚肉は食べ切れないほど採れる』と。ところが宮殿を飾り、高殿を増やし、大工が大きな材を削って小さくし、丸いものを四角にし、上には雲の文様を、下には山林の彫刻を作るとなれば、木材は足りなくなる。男が本業を捨てて末業に走り、模様を彫り細工を刻んで鳥獣をかたどり、あらゆる技巧を極めれば、穀物は足りなくなる。女が細かな飾りに凝って文様を仕上げ、技を極め尽くせば、絹も布も足りなくなる。料理人が孕んだ獣や卵まで殺して煮て、焼いて味を合わせ、五味を極めれば、魚肉は足りなくなる。いまの世で心配すべきは、鳥獣が減らないことでも木材が使い切れないことでもない。度を越した贅沢に際限がないことだ。毛織物や橘や柚がないことではない。狭い小屋も糠や糟すらないことだ」
解説
この章句が説くこと
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言志四録・言志耋録 第百六十八条 本に似たる末事に本末有ること、固より已に分明なり。但だ本に似たるの末有り、末に似たるの本有り。察を致さざるべからず。
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司馬法・嚴位凡そ大善は本を用い、其の次は末を用う。略を執り微を守り、本末は唯(た)だ権(はか)るのみ、戦なり。
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『武治提要』明事物・第4段事物を明にするの道、其本末を知こと先務なり。本末は紀綱の大旨なり、大旨なつて而後其綱目以て審なることを得べし。然れどもこれをなすに準繩あらざるときは、本末亦分べからず。本を末とし、末を本とするときは、大旨亂る。故に條理を分の規矩は、兵法の蘊奧なり。此規矩一たびふるゝときは、萬物の綱目これより分つこと易く、其至るに及では明辨の成功をなすに近し。
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『文武訓』文訓下之末一学者、無用のことをば多く知りて、有用のことを知らざること多し。有用の事をばなさずして、無用のことをなすこと多し。おやにうとくして他人の交したしきあり、急なることはさし置きて、不急なることをつとむ。聖賢の書はつねに読まず、雑書を多く読む。日本の書にうとく、中夏の古事を専に知る、皆是本末緩急を失へり。
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『翁問答』上卷之末体充曰、左様候はゞ武芸文芸はいらぬものにて御座候や。師の曰、それは悪しき心得にて候本を捨てゝ末ばかりを求め学ぶ僻事なりといふ事にて候、根本の仁義を立ての上に文芸武芸に長じぬるは、本末兼備はる多能の君子にて、世俗の諺にいへる花も実もある人なり、本立つての上には文芸武芸ことのほか重宝なり、本末先後のこゝろへ簡要にて候。体充曰、本末兼備はる事ならざるものは、いかゞ仕り候はんや。師の曰、末を捨てゝ本を学びたるがよく候、文芸をしらずして文道をよく行ひ、武芸をしらずして武功を樹てたる人古来多し、これみな本を第一に勤めたる故にて候、よくよく心得べき事なり。
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孟子・告子章句上孟子曰く、「人の身に於けるや、愛する所を兼ぬ。愛する所を兼ぬれば、則ち養う所を兼ぬ。無尺寸の膚も愛せざること無ければ、則ち尺寸の膚も養わざること無きなり。其の善不善を考うる所以の者は、豈に他有らんや。己に於て之を取るのみ。體に貴賤有り、小大有り。小を以て大を害すること無く、賤を以て貴を害すること無かれ。其の小を養う者は小人為り、其の大を養う者は大人為り。今場師有り。其の梧檟(ゴ・カ)を舎てて、其の樲棘(ジ・キョク)を養わば、則ち賤場師と為さん。其の一指を養いて、而も其の肩背を失いて知らざれば、則ち狼疾人と為さん。飲食の人は、則ち人之を賤む。其の小を養いて以て大を失うが為なり。飲食の人も失うこと有る無ければ、則ち口腹豈に適だ尺寸の膚の為のみならんや。」

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