淮南子 / 泰族訓
輕者欲發,重者欲止,貪者欲取,廉者不利非其有。故勇者可令進鬥,而不可令持牢;重者可令埴固,而不可令淩敵;貪者可令進取,而不可令守職;廉者可令守分,而不可令進取;信者可令持約,而不可令應變。五者相反,聖人兼用而財使之。夫天地不包一物,陰陽不生一類。海不讓水潦以成其大,山不讓土石以成其高。夫守一隅而遺萬方,取一物而棄其餘,則所得者鮮矣,而所治者淺矣。
新字:軽者欲発,重者欲止,貪者欲取,廉者不利非其有。故勇者可令進鬥,而不可令持牢;重者可令埴固,而不可令淩敵;貪者可令進取,而不可令守職;廉者可令守分,而不可令進取;信者可令持約,而不可令応変。五者相反,聖人兼用而財使之。夫天地不包一物,陰陽不生一類。海不譲水潦以成其大,山不譲土石以成其高。夫守一隅而遺万方,取一物而棄其余,則所得者鮮矣,而所治者浅矣。
書き下し
輕き者は發せんと欲し、重き者は止まらんと欲し、貪る者は取らんと欲し、廉なる者は其の有に非ざるを利とせず。故に勇者は進み鬥わしむ可きも、牢を持せしむ可からず。重き者は埴固せしむ可きも、敵を淩がしむ可からず。貪る者は進み取らしむ可きも、職を守らしむ可からず。廉なる者は分を守らしむ可きも、進み取らしむ可からず。信なる者は約を持せしむ可きも、變に應ぜしむ可からず。五者 相い反するも、聖人 兼ね用いて之を財使す。夫れ天地は一物を包まず、陰陽は一類を生ぜず。海は水潦を讓らずして以て其の大を成し、山は土石を讓らずして以て其の高きを成す。夫れ一隅を守りて萬方を遺れ、一物を取りて其の餘を棄つれば、則ち得る所の者 鮮なくして、治むる所の者 淺し。
現代語訳
軽い者は動き出したがり、重い者は留まりたがり、貪る者は取りたがり、廉直な者は自分のものでないものを利としない。だから勇者は進んで戦わせられるが、砦を守らせてはいけない。重厚な者は固く守らせられるが、敵に攻めかからせてはいけない。貪る者は攻め取らせられるが、職を守らせてはいけない。廉直な者は分を守らせられるが、攻め取らせてはいけない。信義の者は約束を守らせられるが、臨機の変化に応じさせてはいけない。五つは互いに反するが、聖人はあわせて用い、加減して使う。天地は一つの物だけを包まず、陰陽は一つの類だけを生まない。海は流れ込む水を拒まないから大きく、山は土や石を拒まないから高い。一つの隅を守って四方を忘れ、一つの物を取ってほかを捨てれば、得られるものは少なく、治められる範囲は浅い。
解説
この章句が説くこと
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『淮南子』泰族訓聖人は天のごとく覆い地のごとく載せ、日月のごとく照らし、陰陽のごとく調え、四時のごとく化す。萬物 同じからざるも、故無く新無く、疏無く親無し。故に能く天に法る。天は時を一にせず、地は利を一にせず、人は事を一にせず。是を以て緒業は多端ならざるを得ず、趨行は方を殊にせざるを得ず。五行は氣を異にして皆な適調し、六藝は科を異にして皆な道を同じくす。
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『淮南子』泰族訓故に大較は智を爲し易く、曲辯は慧を爲し難し。故に治に益無くして、煩に益有る者は、聖人 爲さず。用に益無くして、費に益有る者は、智者 行わざるなり。故に功は約を厭わず、事は省を厭わず、求は寡を厭わず。功 約なれば、成り易きなり。事 省なれば、治め易きなり。求 寡なれば、澹たし易きなり。眾 之を易しとし、以て人に任ずるに於いて、易し。孔子曰く「小辯は言を破り、小利は義を破り、小藝は道を破る。小見は達せず。必ず簡なれ」と。河は逶蛇するを以て、故に能く遠し。山は陵遲するを以て、故に能く高し。陰陽は無爲なるを以て、故に能く和す。道は優遊するを以て、故に能く化す。
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『淮南子』泰族訓故に五子の言は、說を便にし掇取する所以なり。天下の通義に非ざるなり。聖王の政を設け教えを施すや、必ず其の終始を察す。其の法を縣け儀を立つるや、必ず其の本末を原ぬ。苟くも一事を以て一物を備うるのみならず。其の造を見て其の功を思い、其の源を觀て其の流れを知る。故に博く施して竭きず、久しきを彌りて垢れず。水は山より出でて海に入り、稼は田に生じて倉に藏す。聖人 其の生ずる所を見れば、則ち其の歸する所を知る。
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『淮南子』詮言訓『詩』の失は僻、樂の失は刺、禮の失は責なり。徵音に羽聲無きに非ざるなり。羽音に徵聲無きに非ざるなり。五音 聲有らざる莫くして、徵羽を以て名を定むる者は、勝つ者を以てなり。故に仁義智勇は、聖人の備え有る所なり。然れども皆な一名を立つる者は、其の大なる者を言えばなり。陽氣は東北に起こり、西南に盡く。陰氣は西南に起こり、東北に盡く。陰陽の始めは、皆な調適して相い似たり。日々に其の類を長じて、以て侵して相い遠ざかる。或いは熱くして沙を焦がし、或いは寒くして水を凝らす。故に聖人は其の積む所を謹慎す。水は山より出でて、海に入る。稼は野に生じて、廩に藏す。始むる所を見れば則ち終わりを知る。席は雚蕈を先にし、樽は玄酒を上とし、俎は生魚を先にし、豆は泰羹を先にす。此れ皆な耳目に快からず、口腹に適わざるも、先王 之を貴ぶは、本を先にして末を後にすればなり。
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『淮南子』泰族訓英・俊・豪・傑は、各々小大の材を以て、其の位に處り、其の宜しきを得。本に由りて末に流れ、重きを以て輕きを制す。上 唱えて民 和し、上 動きて下 隨う。四海の內、心を一にして歸を同じくし、貪鄙に背きて義理に向かう。其の民を化するに於けるや、風の草木を搖がすが若く、之れ無くして靡かざる無し。今 愚をして知を教えしめ、不肖をして賢に臨ましめば、刑罰を嚴にすと雖も、民 從わざるなり。小は大を制する能わず、弱は強を使う能わざればなり。
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『淮南子』泰族訓水火金木土穀は、物を異にして皆な任ぜらる。規矩權衡準繩は、形を異にして皆な施さる。丹青膠漆は、同じからずして皆な用いらる。各々適する所有り、物に各々宜しき有ればなり。輪は圓く輿は方に、轅は從にして衡は橫なるは、勢施の便なるなり。驂は馳せんと欲し、服は步まんと欲し、帶は新しきを厭わず、鉤は故きを厭わざるは、地に處するの宜しきなり。