淮南子 / 脩務訓
今夫毛嬙、西施,天下之美人,若使之銜腐鼠,蒙蝟皮,衣豹裘,帶死蛇,則布衣韋帶之人過者,莫不左右睥睨而掩鼻。嘗試使之施芳澤,正娥眉,設笄珥,衣阿錫,曳齊紈,粉白黛黑,佩玉環,揄步,雜芝若,籠蒙目視,冶由笑,目流眺,口曾撓,奇牙出,𩉇酺搖,則雖王公大人,有嚴志頡頏之行者,無不憚悇癢心而悅其色矣。今以中人之才,蒙愚惑之智,被污辱之行,無本業所修,方術所務,焉得無有睥面掩鼻之容哉!
新字:今夫毛嬙、西施,天下之美人,若使之銜腐鼠,蒙蝟皮,衣豹裘,帯死蛇,則布衣韋帯之人過者,莫不左右睥睨而掩鼻。嘗試使之施芳沢,正娥眉,設笄珥,衣阿錫,曳斉紈,粉白黛黒,佩玉環,揄歩,雑芝若,籠蒙目視,冶由笑,目流眺,口曽撓,奇牙出,𩉇酺揺,則雖王公大人,有厳志頡頏之行者,無不憚悇癢心而悅其色矣。今以中人之才,蒙愚惑之智,被污辱之行,無本業所修,方術所務,焉得無有睥面掩鼻之容哉!
書き下し
今 夫れ毛嬙・西施は、天下の美人なり。若し之をして腐鼠を銜み、蝟皮を蒙り、豹裘を衣、死蛇を帶びしめば、則ち布衣韋帶の人 過ぐる者、左右に睥睨して鼻を掩わざる莫し。嘗試みに之をして芳澤を施し、娥眉を正し、笄珥を設け、阿錫を衣、齊紈を曳き、粉白黛黑し、玉環を佩び、揄步して、芝若を雜え、籠蒙として目視し、冶由として笑い、目 流眺し、口 曾撓し、奇牙 出で、𩉇酺 搖がしめば、則ち王公大人、嚴志頡頏の行有る者と雖も、憚悇癢心して其の色を悅ばざる無からん。今 中人の才を以て、愚惑の智を蒙り、污辱の行を被り、本業の修むる所、方術の務むる所無くんば、焉んぞ睥面掩鼻の容有る無きを得んや。
現代語訳
毛嬙や西施は天下の美人である。それでも、腐った鼠をくわえさせ、はりねずみの皮をかぶらせ、豹の毛皮を着せ、死んだ蛇を帯にさせたら、粗末な身なりの通行人でさえ、横目に見て鼻を覆わない者はない。ためしに香油を塗り、眉を整え、簪と耳飾りをつけ、上等の絹を着せ、斉の白絹を引き、白粉と黛で装い、玉環を帯び、しなやかに歩ませ、香草をまとわせ、ほのかに目を上げ、艶やかに笑い、まなざしを流し、口もとをほころばせ、白い歯をのぞかせ、頬をゆらめかせたら、王公大人で厳格を旨とする者でさえ、心をざわつかせてその姿を喜ばない者はない。いま、並みの才で、愚かな知恵をかぶり、恥ずべき行いを身にまとい、修めるべき本業も、努めるべき技もないなら、どうして横目で見られ鼻を覆われないでいられよう。
解説
この章句が説くこと
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『淮南子』脩務訓且つ夫れ身 正しく性 善く、憤を發して仁を成し、帽憑して義を爲し、性命 說ぶ可く、學問を待たずして道に合する者は、堯・舜・文王なり。沉湎耽荒して、教うるに道を以てす可からず、喻すに德を以てす可からず、嚴父も正す能わず、賢師も化する能わざる者は、丹朱・商均なり。曼頰皓齒、形 誇り骨 佳く、脂粉芳澤を待たずして性 說ぶ可き者は、西施・陽文なり。啳𦝢哆噅、籧蒢戚施、粉白黛黑すと雖も美を爲す能わざる者は、嫫母・仳倠なり。夫れ上は堯・舜に及ばず、下は商均に及ばず、美は西施に及ばず、惡は嫫母に若かざるは、此れ教訓の諭す所にして、芳澤の施す所なり。
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荘子・天運故に礼義法度なる者は、時に応じて変ずる者なり。今猨狙(えんそ)を取りて之に衣するに周公の服を以てせば、彼は必ず齕齧(こつげつ)挽裂(ばんれつ)し、尽く去りて而る後に慊(あきた)らん。古今の異なるを観れば、猶お猨狙の周公に異なるがごときなり。故に西施(せいし)心を病みて其の里に矉(ひそ)む。其の里の醜人(しゅうじん)見て之を美とし、帰りて亦た心を捧げて其の里に矉む。其の里の富人之を見て、堅く門を閉じて出でず。貧人之を見て、妻子を挈(たずさ)えて之を去りて走る。彼は矉むの美なるを知りて、矉むの美なる所以を知らざるなり。惜しいかな、而の夫子は其れ窮せんかな」と。
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『淮南子』脩務訓故に夫れ孿子の相い似たる者は、唯だ其の母のみ能く之を知る。玉石の相い類する者は、唯だ良工のみ能く之を識る。書傳の微なる者は、惟だ聖人のみ能く之を論ず。今 新たに聖人の書を取り、之を孔・墨に名づけば、則ち弟子 指を句げて受くる者 必ず眾からん。故に美人なる者は、必ずしも西施の種に非ず。通士なる者は、必ずしも孔・墨の類に非ず。曉然として意 物に通ずる所有り。故に書を作りて以て意を喻し、以て知る者と爲すなり。誠に清明の士、玄鑒を心に執り、物を照らして明白、古今の爲に意を易えざるを得ば、書を攄べ指を明らかにして以て之に示さば、棺を闔ずと雖も亦た恨みざらん。
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