淮南子 / 詮言訓
大道無形,大仁無親,大辯無聲,大廉不嗛,大勇不矜。五者無棄,而幾向方矣。軍多令則亂,酒多約則辯;亂則降北,辯則相賊。故始于都者,常大於鄙;始于樂者,常大於悲;其作始簡者,其終本必調。今有美酒嘉肴以相饗,卑體婉辭以接之,欲以合歡;爭盈爵之間反生鬥,鬥而相傷,三族結怨,反其所憎,此酒之敗也。
新字:大道無形,大仁無親,大弁無声,大廉不嗛,大勇不矜。五者無棄,而幾向方矣。軍多令則乱,酒多約則弁;乱則降北,弁則相賊。故始于都者,常大於鄙;始于楽者,常大於悲;其作始簡者,其終本必調。今有美酒嘉肴以相饗,卑体婉辞以接之,欲以合歓;争盈爵之間反生鬥,鬥而相傷,三族結怨,反其所憎,此酒之敗也。
書き下し
大道は形無く、大仁は親無く、大辯は聲無く、大廉は嗛ならず、大勇は矜らず。五つの者 棄つる無くして、方に向かうに幾し。軍に令 多ければ則ち亂れ、酒に約 多ければ則ち辯ず。亂るれば則ち降北し、辯ずれば則ち相い賊なう。故に都に始まる者は、常に鄙よりも大なり。樂に始まる者は、常に悲よりも大なり。其の作 始め簡なる者は、其の終わり 本 必ず調う。今 美酒嘉肴有りて以て相い饗し、體を卑くし辭を婉らかにして以て之に接し、以て歡を合せんと欲す。爵に盈つるを爭うの間に反って鬥を生じ、鬥いて相い傷つけ、三族 怨を結ぶ。其の憎む所に反る。此れ酒の敗なり。
現代語訳
大いなる道はかたちがなく、大いなる仁は身内をつくらず、大いなる弁は声がなく、大いなる清廉はへりくだらず、大いなる勇は誇らない。この五つを捨てなければ、正しい方向に近い。軍に令が多ければ乱れ、酒席に取り決めが多ければ口論になる。乱れれば敗走し、口論になれば互いに傷つける。だから都で始まったものは、いつも田舎で始まったものより大きくなる。楽しみから始まったものは、いつも悲しみから始まったものより大きくなる。その始まりが簡素なものは、終わりに根本が必ず調う。いま美酒とご馳走で互いにもてなし、身を低くし言葉を柔らかくして接し、歓びを交わそうとする。それが盃を満たす順を争ううちにかえって喧嘩になり、殴り合って傷つけ合い、三族が怨みを結ぶ。憎むものへと裏返る。これが酒の失敗である。
解説
この章句が説くこと
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『淮南子』詮言訓『詩』の失は僻、樂の失は刺、禮の失は責なり。徵音に羽聲無きに非ざるなり。羽音に徵聲無きに非ざるなり。五音 聲有らざる莫くして、徵羽を以て名を定むる者は、勝つ者を以てなり。故に仁義智勇は、聖人の備え有る所なり。然れども皆な一名を立つる者は、其の大なる者を言えばなり。陽氣は東北に起こり、西南に盡く。陰氣は西南に起こり、東北に盡く。陰陽の始めは、皆な調適して相い似たり。日々に其の類を長じて、以て侵して相い遠ざかる。或いは熱くして沙を焦がし、或いは寒くして水を凝らす。故に聖人は其の積む所を謹慎す。水は山より出でて、海に入る。稼は野に生じて、廩に藏す。始むる所を見れば則ち終わりを知る。席は雚蕈を先にし、樽は玄酒を上とし、俎は生魚を先にし、豆は泰羹を先にす。此れ皆な耳目に快からず、口腹に適わざるも、先王 之を貴ぶは、本を先にして末を後にすればなり。
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『淮南子』詮言訓易に非ざれば以て大を治む可からず。簡に非ざれば以て眾を合す可からず。大樂は必ず易く、大禮は必ず簡なり。易し、故に能く天なり。簡なり、故に能く地なり。大樂に怨み無く、大禮に責め無し。四海の內、系統せざる莫し。故に能く帝たるなり。心に憂え有る者は、筐床衽席も、安んずる能わざるなり。菰飯犓牛も、甘しとする能わざるなり。琴瑟鳴竽も、樂しむ能わざるなり。患い解け憂え除かれて、然る後に食 甘く寢 甯く、居 安く遊 樂しむ。是に由りて之を觀れば、生に以て樂しむ有り、死に以て哀しむ有るなり。今 性の樂しむ能わざる所を益すを務めて、以て性の樂しむ所以を害す。故に富 天下を有ち、貴 天子と爲ると雖も、哀の人と爲るを免れず。凡そ人の性、恬を樂しみて憫を憎み、佚を樂しみて勞を憎む。心 常に欲無き、恬と謂う可し。形 常に事無き、佚と謂う可し。心を恬に游ばせ、形を佚に舍き、以て天命を俟つ。內に自ら樂しみ、外に急なる無し。天下の大なりと雖も、以て其の一概を易うるに足らず。日月 廋して志に溉ぐ無し。故に賤しと雖も貴きが如く、貧しと雖も富めるが如し。
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『淮南子』詮言訓故に治 未だ亂れざるに固からずして、事として治を爲す者は、必ず危うし。行い 未だ非無きに固からずして、急に名を求むる者は、必ず挫くるなり。福は禍無きより大なるは莫く、利は喪わざるより美なるは莫し。動の物たるや、損せずんば則ち益し、成らずんば則ち毀れ、利あらずんば則ち病む。皆な險なり。之を道く者は危うし。故に秦は戎に勝ちて、殽に敗る。楚は諸夏に勝ちて、栢莒に敗る。故に道は勸めて利に就く可からずして、寧ろ害を避く可き者なり。故に常に禍無きも、常に福有らず。常に罪無きも、常に功有らず。聖人は思慮無く、設儲無く、來たる者を迎えず、去る者を將らず。人 東西南北すと雖も、獨り中央に立つ。故に眾枉の中に處りて、其の直を失わず。天下 皆な流るるも、獨り其の壇域を離れず。故に善を爲さず、醜を避けず、天の道に遵う。始めと爲らず、己を專らにせず、天の理に循う。豫め謀らず、時を棄てず、天と期を爲す。得るを求めず、福を辭せず、天の則に從う。無き所を求めず、得たる所を失わず。內に旁禍無く、外に旁福無し。禍福 生ぜず、安んぞ人賊有らんや。
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『淮南子』詮言訓天下は智を以て爲す可からざるなり。慧を以て識る可からざるなり。事を以て治む可からざるなり。仁を以て附く可からざるなり。強を以て勝つ可からざるなり。五つの者は皆な人才なり。德 盛んならざれば、一をも成す能わず。德 立てば則ち五つながら殆うきこと無し。五つ見わるれば則ち德 位無し。故に道を得れば則ち愚者も餘り有り、道を失えば則ち智者も足らず。水を渡るに遊數無くんば、強しと雖も必ず沉む。遊數有らば、羸しと雖も必ず遂ぐ。又た況んや舟航の上に托するをや。
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『淮南子』詮言訓凡そ人の性、少なければ則ち倡狂、壯なれば則ち暴強、老いては則ち利を好む。一人の身、既に數ば變ずるなり。又た況んや君 數ば法を易え、國 數ば君を易うるをや。人 其の位を以て其の好憎を通ずれば、下の徑衢、勝げて理む可からず。故に君 一を失えば則ち亂るること、君無きの時よりも甚だし。故に『詩』に曰く、「愆たず忘れず、率ね舊章に由る」と。此れ之を謂うなり。君 智を好めば則ち時に倍きて己に任じ、數を棄てて慮を用う。天下の物 博くして智 淺し。淺きを以て博きを澹すは、未だ能くする者有らざるなり。獨り其の智に任ずれば、失うこと必ず多からん。故に智を好むは、窮術なり。勇を好めば、則ち敵を輕んじて備えを簡にし、自ら負みて助を辭す。一人の力を以て強敵を禦がんとし、眾多に杖らずして專ら身才を用うるは、必ず堪えざるなり。故に勇を好むは、危術なり。與うるを好めば、則ち定分無し。上の分 定まらざれば、則ち下の望 止む無し。若し賦斂を多くして府庫を實たさば、則ち民と仇と爲る。少なく取り多く與うるは、數の未だ之れ有らざるなり。故に與うるを好むは、怨を來たすの道なり。仁智勇力は、人の美才なり。而れども以て天下を治むるに足る莫し。此に由りて之を觀れば、賢能の任ずるに足らずして、道術の修む可きこと明らかなり。
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『淮南子』原道訓夫れ喜怒なる者は、道の邪なり。憂悲なる者は、德の失なり。好憎なる者は、心の過ちなり。嗜欲なる者は、性の累なり。人大いに怒れば陰を破り、大いに喜べば陽を墜す。薄氣は瘖を發し、驚怖は狂を為す。憂悲恚多ければ、病乃ち積を成す。好憎繁く多ければ、禍乃ち相い隨う。故に心憂樂せざるは、德の至りなり。通じて變ぜざるは、靜の至りなり。嗜欲載せざるは、虛の至りなり。好憎する所無きは、平の至りなり。物と散ぜざるは、粹の至りなり。能く此の五つの者あらば、則ち神明に通ず。神明に通ずる者は、其の内を得たる者なり。是の故に中を以て外を制すれば、百事廢れず。中能く之を得れば、則ち外能く之を收む。中の得れば、則ち五藏寧く、思慮平らかに、筋力勁強に、耳目聰明に、疏達して悖らず、堅強にして鞼れず、大いに過ぐる所無くして逮ばざる所無く、小に處りて逼らず、大に處りて窕ならず、其の魂躁がず、其の神嬈れず、湫漻寂寞として、天下の梟と為る。