淮南子 / 氾論訓
夫今陳卒設兵,兩軍相當,將施令曰:「斬首拜爵,而屈撓者要斬。」然而隊階之卒皆不能前遂斬首之功,而後被要斬之罪,是去恐死而就必死也。故利害之反,禍福之接,不可不審也。事或欲之,適足以失之;或避之,適足以就之。楚人有乘船而遇大風者,波至而自投於水。非不貪生而畏死也,惑於恐死而反忘生也。
新字:夫今陳卒設兵,両軍相当,将施令曰:「斬首拝爵,而屈撓者要斬。」然而隊階之卒皆不能前遂斬首之功,而後被要斬之罪,是去恐死而就必死也。故利害之反,禍福之接,不可不審也。事或欲之,適足以失之;或避之,適足以就之。楚人有乗船而遇大風者,波至而自投於水。非不貪生而畏死也,惑於恐死而反忘生也。
書き下し
夫れ今 卒を陳ね兵を設け、兩軍 相い當たる。將 令を施して曰く、「首を斬れば爵を拜し、屈撓する者は要斬す」と。然れども隊階の卒 皆な前んで首を斬るの功を遂ぐる能わずして、後に要斬の罪を被る。是れ死を恐るるを去りて必死に就くなり。故に利害の反、禍福の接は、審らかにせざる可からざるなり。事 或いは之を欲して、適だ以て之を失うに足る。或いは之を避けて、適だ以て之に就くに足る。楚人に船に乘りて大風に遇う者有り。波 至りて自ら水に投ず。生を貪りて死を畏れざるに非ざるなり。死を恐るるに惑いて反って生を忘るればなり。
現代語訳
いま兵を並べ武器を構え、両軍が向かい合う。将軍が令を出して言う、「敵の首を取れば爵位を授ける。ひるんだ者は腰斬にする」。それでも列の後ろの兵は、進んで首を取る功を遂げられず、あとで腰斬の罪を受ける。これは死を恐れて逃げたことで、確実な死に向かったのである。だから利と害の裏返り、禍と福の接するところは、よく見きわめなければならない。事は、欲したことがそのまま失う理由になり、避けたことがそのままそこへ行き着く理由になることがある。楚の人で船に乗って大風に遭った者がいた。波が来ると自ら水に飛び込んだ。生を惜しまず死を恐れなかったのではない。死を恐れることに惑って、かえって生きることを忘れたのである。
解説
死を恐れて前に出られなかった兵が、その結果として確実に斬られる。「死を恐るるを去りて必死に就くなり」。恐れを避けた動きが、いちばん確実な破滅につながる、という構図です。締めの楚人の話が強烈で、船が揺れたので自分から水に飛び込む。助かりたい一心が、いちばん助からない行動になっている。恐れが判断を裏返す例です。
この章句が説くこと
首を斬れば爵を拝し屈撓する者は要斬す隊階の卒皆な前んで首を斬るの功を遂ぐる能わずして後に要斬の罪を被る是れ死を恐るるを去りて必死に就くなり事或いは之を欲して適だ以て之を失うに足る死を恐るるに惑いて反って生を忘るればなり恐れ
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