淮南子 / 齊俗訓
且富人則車輿衣纂錦,馬飾傅旄象,帷幕茵席,綺繡絛組,青黃相錯,不可為象;貧人則夏被褐帶索,含菽飲水以充腸,以支暑熱,冬則羊裘解札,短褐不掩形,而煬灶口;故其為編戶齊民無以異,然貧富之相去也,猶人君與僕虜,不足以論之。夫乘奇技、偽邪施者,自足乎一世之閒;守正修理、不苟得者,不免乎飢寒之患;而欲民之去末反本,由是發其原而壅其流也。
新字:且富人則車輿衣纂錦,馬飾傅旄象,帷幕茵席,綺繡絛組,青黄相錯,不可為象;貧人則夏被褐帯索,含菽飲水以充腸,以支暑熱,冬則羊裘解札,短褐不掩形,而煬灶口;故其為編戸斉民無以異,然貧富之相去也,猶人君与僕虜,不足以論之。夫乗奇技、偽邪施者,自足乎一世之閒;守正修理、不苟得者,不免乎飢寒之患;而欲民之去末反本,由是発其原而壅其流也。
書き下し
且つ富人は則ち車輿に纂錦を衣せ、馬飾に旄象を傅け、帷幕茵席、綺繡絛組、青黃 相い錯わりて、象と為す可からず。貧人は則ち夏には褐を被り索を帶び、菽を含み水を飲みて以て腸に充て、以て暑熱を支う。冬には則ち羊裘 解け札け、短褐 形を掩わずして、灶口に煬る。故に其の編戶齊民たるに以て異なる無きも、然れども貧富の相い去るや、猶お人君と僕虜のごとく、以て之を論ずるに足らず。夫れ奇技に乘り、偽邪を施す者は、一世の閒に自ら足る。正を守り理を修め、苟くも得ざる者は、飢寒の患を免れず。而して民の末を去りて本に反るを欲するは、是れ其の原を發きて其の流れを壅ぐなり。
現代語訳
そのうえ富める者は、車に錦を掛け、馬の飾りに旄や象牙をつけ、帳や敷物、綾織りや組み紐、青と黄が入り交じって、たとえようもない。貧しい者は、夏には粗い衣に縄の帯、豆をかじり水を飲んで腹を満たし、それで暑さをしのぐ。冬には羊の皮衣が裂けほつれ、短い衣は体を覆わず、竈の口で暖を取る。だから同じ戸籍の民である点では違いがないのに、貧富の隔たりは君主と奴隷ほどで、比べようもない。奇抜な技に乗り、偽りと邪を行う者は、その一代のあいだは満ち足りる。正しさを守り理を修め、いい加減には受け取らない者は、飢えと寒さの患いを免れない。それでいて民に末を去って本に返れと望むのは、水源を掘り開いておいて流れをせき止めるようなものである。
解説
この章句が説くこと
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『淮南子』齊俗訓游ぐ者は溺るるを拯う能わず、手足に急なる所有ればなり。灼くる者は火を救う能わず、身體に痛む所有ればなり。夫れ民 餘り有れば即ち讓り、足らざれば則ち爭う。讓れば則ち禮義 生じ、爭えば則ち暴亂 起こる。門を扣きて水を求むるに、與えざる者莫きは、饒足する所なればなり。林中に薪を賣らず、湖上に魚を鬻がざるは、餘り有る所なればなり。故に物 豐かなれば則ち欲 省け、求め 澹らば則ち爭い 止む。秦王の時、或るひと子を葅にす。利 足らざればなり。劉氏 政を持し、獨夫 孤を收む。財 餘り有ればなり。故に世 治まれば則ち小人も政を守りて、利も誘う能わず。世 亂るれば則ち君子も姦を為して、法も禁ずる能わず。
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『淮南子』齊俗訓故に大路龍旂、羽蓋垂緌、結駟連騎 有れば、則ち必ず穿窬拊楗、抽箕踰備の姦 有り。詭文繁繡、弱緆羅紈 有れば、必ず菅屩跐踦、短褐 完からざる者 有り。故に高下の相い傾くや、短脩の相い形るや、亦た明らかなり。夫れ蝦蟆は鶉と為り、水蠆は𧐟莣と為る。皆な其の類に非ざるものを生ず。唯だ聖人のみ其の化を知る。夫れ胡人は黂を見て、其の以て布と為す可きを知らず。越人は毳を見て、其の以て旃と為す可きを知らず。故に物に通ぜざる者は、與に化を言い難し。
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『淮南子』齊俗訓古者、民は童蒙にして東西を知らず、貌は情に羨れず、而して言は行に溢れず。其の衣は煖を致して文無く、其の兵は戈 銖くして刃無く、其の歌は樂しみて轉無く、其の哭は哀しみて聲無し。井を鑿ちて飲み、田を耕して食らう。其の美を施す所無く、亦た得るを求めず。親戚 相い毀譽せず、朋友 相い怨德せず。禮義の生じ、貨財の貴ばるるに及びて、詐偽 萌興し、非譽 相い紛れ、怨德 並び行わる。是に於いて乃ち曾參・孝己の美有りて、盜跖・莊蹻の邪を生ず。
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『淮南子』齊俗訓夫れ雕琢刻鏤は、農事を傷なう者なり。錦繡纂組は、女工を害する者なり。農事 廢れ、女工 傷つけば、則ち飢の本にして寒の原なり。夫れ飢寒 並び至りて、能く法を犯し誅を干さざる者は、古今の未だ聞かざるなり。故に仕鄙は時に在りて行に在らず、利害は命に在りて智に在らず。夫れ敗軍の卒は、勇武も遁逃す。將も止むる能わざるなり。勝軍の陳は、怯者も行に死す。懼れて走る能わざればなり。故に江河 決して、一鄉を沉むれば、父子兄弟 相い遺れて走り、爭いて陵阪に升り、高丘に上る。輕足なる者 先んじて升り、相い顧みる能わざるなり。世 樂しく志 平らかなれば、鄰國の人の溺るるを見ても、尚お猶お之を哀しむ。又た況んや親戚をや。故に身 安ければ則ち恩 鄰國に及び、志 之が為に滅す。身 危うければ則ち其の親戚を忘れて、人 解く能わざるなり。
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『淮南子』齊俗訓治國の道は、上に苛令無く、官に煩治無く、士に偽行無く、工に淫巧無し。其の事は經にして擾さず、其の器は完くして飾らず。亂世は則ち然らず。行を為す者は相い揭ぐるに高を以てし、禮を為す者は相い矜るに偽を以てす。車輿は雕琢を極め、器用は刻鏤を逐い、貨を求むる者は得難きを爭いて以て寶と為し、文を詆る者は煩撓に處りて以て慧と為す。爭いて佹辯を為し、久しく稽えて訣せず、治に益無し。工は奇器を為り、歲を歷て而る後に成るも、用に周からず。故に神農の法に曰く、「丈夫 丁壯にして耕さざれば、天下に其の飢を受くる者有り。婦人 年に當たりて織らざれば、天下に其の寒を受くる者有り」と。故に身自ら耕し、妻 親ら織り、以て天下の先と為る。其の民を導くや、得難きの貨を貴ばず、無用の物を器とせず。是の故に其の耕 強めざる者は、以て生を養う無く、其の織 強めざる者は、以て形を揜う無し。餘り有ると足らざるとは、各々其の身に歸す。
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『淮南子』齊俗訓故に亂國は盛んなるが若く、治國は虛しきが若く、亡國は足らざるが若く、存國は餘り有るが若し。虛しき者は人無きに非ざるなり、皆な其の職を守ればなり。盛んなる者は人多きに非ざるなり、皆な末に徼むればなり。餘り有る者は財多きに非ざるなり、欲 節にして事 寡なければなり。足らざる者は貨無きに非ざるなり、民 躁がしくして費 多ければなり。故に先王の法籍は、作る所に非ざるなり、其の因る所なり。其の禁誅は、為す所に非ざるなり、其の守る所なり。