淮南子 / 齊俗訓
故堯之治天下也,舜為司徒,契為司馬,禹為司空,后稷為大田師,奚仲為工。其導萬民也,水處者漁,山處者木,谷處者牧,陸處者農。地宜其事,事宜其械,械宜其用,用宜其人。澤皋織網,陵阪耕田,得以所有易所無,以所工易所拙,是故離叛者寡,而聽從者眾。譬若播棋丸於地,員者走澤,方者處高,各從其所安,夫有何上下焉!若風之遇簫,忽然感之,各以清濁應矣。夫猿狖得茂木,不舍而穴;狟貉得埵防,弗去而緣;物莫避其所利而就其所害。是故鄰國相望,雞狗之音相聞,而足跡不接諸侯之境,車軌不結千里之外者,皆各得其所安。
新字:故堯之治天下也,舜為司徒,契為司馬,禹為司空,后稷為大田師,奚仲為工。其導万民也,水処者漁,山処者木,谷処者牧,陸処者農。地宜其事,事宜其械,械宜其用,用宜其人。沢皋織網,陵阪耕田,得以所有易所無,以所工易所拙,是故離叛者寡,而聴従者衆。譬若播棋丸於地,員者走沢,方者処高,各従其所安,夫有何上下焉!若風之遇簫,忽然感之,各以清濁応矣。夫猿狖得茂木,不舎而穴;狟貉得埵防,弗去而縁;物莫避其所利而就其所害。是故鄰国相望,鶏狗之音相聞,而足跡不接諸侯之境,車軌不結千里之外者,皆各得其所安。
書き下し
故に堯の天下を治むるや、舜を司徒と為し、契を司馬と為し、禹を司空と為し、后稷を大田師と為し、奚仲を工と為す。其の萬民を導くや、水に處る者は漁し、山に處る者は木し、谷に處る者は牧し、陸に處る者は農す。地は其の事に宜しく、事は其の械に宜しく、械は其の用に宜しく、用は其の人に宜し。澤皋には網を織り、陵阪には田を耕し、有る所を以て無き所に易え、工なる所を以て拙なる所に易うるを得。是の故に離叛する者は寡なくして、聽從する者は眾し。譬えば棋丸を地に播くが若く、員なる者は澤に走り、方なる者は高きに處る。各々其の安んずる所に從う。夫れ何の上下か有らんや。風の簫に遇うが若く、忽然として之に感じ、各々清濁を以て應ず。夫れ猿狖は茂木を得れば、舍てて穴せず。狟貉は埵防を得れば、去らずして緣る。物 其の利とする所を避けて其の害とする所に就く莫し。是の故に鄰國 相い望み、雞狗の音 相い聞こえて、足跡 諸侯の境に接せず、車軌 千里の外に結ばざる者は、皆な各々其の安んずる所を得ればなり。
現代語訳
堯が天下を治めたときは、舜を司徒とし、契を司馬とし、禹を司空とし、后稷を大田師とし、奚仲を工とした。万民を導くにあたっては、水辺に住む者は漁をし、山に住む者は木を扱い、谷に住む者は牧を営み、平地に住む者は農をした。土地はその仕事に合い、仕事はその道具に合い、道具はその使い道に合い、使い道はその人に合っていた。沢では網を織り、丘の坂では田を耕し、あるものと無いものを交換し、得意なものと不得手なものを交換できた。だから離れ背く者は少なく、従う者が多かった。たとえば碁石を地に撒くようなもので、丸いものは低いほうへ転がり、角ばったものは高いところに留まる。それぞれ落ち着くところに従う。そこにどんな上下があろうか。風が簫に当たると、ふっと感じて、それぞれ高い低いの音で応じるようなものである。猿は茂った木を得れば、それを捨てて穴に住まない。狟や貉は土手を得れば、そこを離れて木に登らない。生き物は自分の利になるところを避けて害になるところへ行きはしない。だから隣国が見え、鶏や犬の声が聞こえていても、足跡が諸侯の境まで及ばず、車の轍が千里の外まで延びないのは、みなそれぞれ落ち着くところを得ているからである。
解説
この章句が説くこと
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文子・自然老子曰く、天の覆う所、地の載する所、日月の照らす所、形は殊に性は異にして、各おの安んずる所有り。楽しむ所以の楽しみは、乃ち悲しむ所以なり。安んずる所以の安んずるは、乃ち危うき所以なり。故に聖人の民を牧うや、各おの其の性に便ならしめ、其の居に安んぜしめ、処るに其の能くする所を為し、其の適う所に周くし、其の宜しき所に施す。此くの如くなれば則ち万物一斉にして、相い過ぐる由無し。天下の物は、貴も無く賤も無し。其の貴ぶ所に因りて之を貴べば、物として貴からざる無し。其の賤しむ所に因りて之を賤しめば、物として賤しからざる無し。故に賢を尚ばずとは、魚を木に放たず、鳥を淵に沈めずを言うなり。昔、堯の天下を治むるや、舜を司徒と為し、契を司馬と為し、禹を司空と為し、后稷を田疇と為し、奚仲を工師と為す。其の民を導くや、水に処る者は漁し、林に処る者は採り、谷に処る者は牧し、陵に処る者は田す。地は事に宜しく、事は其の械に宜しく、械は其の材に宜し。皋沢は網を織り、陵坡は田を耕す。是くの如くして外民は有る所を以て無き所に易え、工なる所を以て拙き所に易うるを得たり。
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説苑・君道堯の時に当たりて、舜は司徒と為り、契は司馬と為り、禹は司空と為り、后稷は田疇と為り、夔は楽正と為り、倕は工師と為り、伯夷は秩宗と為り、皋陶は大理と為り、益は禽を敺うを掌る。堯は体力便巧一つも為す能わざれども、堯は君と為りて九子は臣と為る、其れ何の故ぞや。堯は九職の事を知り、九子をして各々其の事を受けしめ、皆其の任に勝えて以て九功を成す。堯遂に厥の功を成して天下に王たり。是の故に人を知る者は王道なり、事を知る者は臣道なり。王道は人を知り、臣道は事を知る。旧法を乱す毋くして天下治まる。
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『淮南子』主術訓堯の天下を有つや、萬民の富を貪りて人主の位に安んずるに非ず。百姓 力もて征し、強 弱を淩ぎ、眾 寡を暴すを以て、是に於いて堯 乃ち身ら節儉の行を服し、而して相愛の仁を明らかにして、以て之を和輯す。是の故に茅茨 翦らず、采椽 斷らず、大路 畫かず、越席 緣どらず、大羹 和えず、粢食 毇かず。巡狩して教を行い、天下に勤勞し、五嶽を周流す。豈に其の奉養 樂しむに足らざらんや。天下を舉げて以て社稷と為し、利有るに非ざるなり。年 衰え志 憫れみ、天下を舉げて之を舜に傳うること、猶お卻行して屣を脫するがごとし。衰世は則ち然らず。一日にして天下の富有り、人主の勢に處れば、則ち百姓の力を竭くして、以て耳目の欲に奉じ、志 專ら宮室台榭、陂池苑囿、猛獸熊羆、玩好珍怪に在り。是の故に貧民は糟糠も口に接せずして、虎狼熊羆は芻豢に厭き、百姓は短褐も完からずして、宮室は錦繡を衣る。人主 茲の無用の功を急にして、百姓黎民、天下に憔悴す。是の故に天下をして其の性に安んぜざらしむ。
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『講孟余話』滕文公上 第四章「堯の時に当りて」云々。堯の天下を治むるの次序、先づ舜を挙げて政治の大体を謀議す。次に益・禹を用ひて民の為に害を除き、稷を用ひて民を養ひ、契を用ひて民を教ふ、是れ其の大体なり。噫、亦至れり尽せり。後の政を為す者、大体を立てずして瑣事末節に汲々たる、何ぞ能く成就する所あらんや。況や人を挙用することを勉めとせず、労して功なき者往々皆然り。又司徒の職を論ずる所、万古人道是れに尽く、所謂五教なり。「放勲曰く」の語、万古教道是れに尽く、所謂寛に在るなり。玩味して一字にても疎かに読むべからず。
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『淮南子』齊俗訓治世の體は守り易く、其の事は為し易く、其の禮は行い易く、其の責は償い易し。是を以て人は官を兼ねず、官は事を兼ねず、士農工商、鄉 別かれ州 異なる。是の故に農は農と力を言い、士は士と行を言い、工は工と巧を言い、商は商と數を言う。是を以て士に遺行無く、農に廢功無く、工に苦事無く、商に折貨無し。各々其の性に安んじて、相い干すを得ず。故に伊尹の土功を興すや、脛を修うる者は之をして钁を跖ましめ、脊 強き者は之をして土を負わしめ、眇なる者は之をして準せしめ、傴なる者は之をして塗らしむ。各々宜しき所有りて、人性 齊し。胡人は馬に便に、越人は舟に便なり。形を異にし類を殊にす。事を易うれば悖り、處を失えば賤しく、勢を得れば貴し。聖人 總べて之を用う。其の數は一なり。
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『淮南子』泰族訓湯の初めて囿を作るや、以て宗廟鮮犞の具を奉じ、士卒を簡び、射禦を習わしめ、以て不虞に戒む。其の衰うるに至るに及びては、馳騁獵射して、以て民の時を奪い、民の力を疲れしむ。堯の禹・契・后稷・皋陶を舉ぐるや、政教 平らかに、奸宄 息み、獄訟 止みて衣食 足り、賢者は善を勸め不肖者も其の德を懷う。其の末に至るに及びては、朋黨 比周し、各々其の與を推し、公を廢して私に趨り、內外 相い推舉し、奸人 朝に在りて、賢者 隱處す。

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