淮南子 / 覽冥訓
純溫以淪,鈍悶以終,若未始出其宗,是謂大通。今夫赤螭、青虯之游冀州也,天清地定,毒獸不作,飛鳥不駭,入榛薄,食薦梅,噆味含甘,步不出頃畝之區,而蛇鱔輕之,以為不能與之爭于江海之中。若乃至於玄雲之素朝,陰陽交爭,降扶風,雜凍雨,扶搖而登之,威動天地,聲震海內,蛇鱔著泥百仞之中,熊羆匍匐丘山盤岩,虎豹襲穴而不敢咆,猿狖顛蹶而失木枝,又況直蛇鱔之類乎!鳳凰之翔至德也,雷霆不作,風雨不興,川穀不澹,草木不搖,而燕雀佼之,以為不能與之爭於宇宙之間。還至其曾逝萬仞之上,翱翔四海之外,過昆侖之疏圃,飲砥柱之湍瀨,邅回蒙泛之渚,尚佯冀州之際,徑躡都廣,入日抑節,羽翼弱水,暮宿風穴,當此之時,鴻鵠鶬鸖莫不憚驚伏竄,注喙江裔,又況直燕雀之類乎!此明於小動之跡,而不知大節之所由者也。
新字:純温以淪,鈍悶以終,若未始出其宗,是謂大通。今夫赤螭、青虯之游冀州也,天清地定,毒獣不作,飛鳥不駭,入榛薄,食薦梅,噆味含甘,歩不出頃畝之区,而蛇鱔軽之,以為不能与之争于江海之中。若乃至於玄雲之素朝,陰陽交争,降扶風,雑凍雨,扶揺而登之,威動天地,声震海内,蛇鱔著泥百仞之中,熊羆匍匐丘山盤岩,虎豹襲穴而不敢咆,猿狖顛蹶而失木枝,又況直蛇鱔之類乎!鳳凰之翔至徳也,雷霆不作,風雨不興,川穀不澹,草木不揺,而燕雀佼之,以為不能与之争於宇宙之間。還至其曽逝万仞之上,翱翔四海之外,過昆侖之疏圃,飲砥柱之湍瀨,邅回蒙泛之渚,尚佯冀州之際,径躡都広,入日抑節,羽翼弱水,暮宿風穴,当此之時,鴻鵠鶬鸖莫不憚驚伏竄,注喙江裔,又況直燕雀之類乎!此明於小動之跡,而不知大節之所由者也。
書き下し
純溫にして以て淪み、鈍悶にして以て終わり、未だ始めより其の宗を出でざるがごとき、是れを大通と謂う。今夫れ赤螭・青虯の冀州に游ぶや、天清く地定まり、毒獸作らず、飛鳥駭かず、榛薄に入り、薦梅を食らい、味を噆み甘を含み、步は頃畝の區を出でず。而して蛇鱔 之を輕んじ、以て之と江海の中に爭う能わずと為す。若し乃ち玄雲の素朝に至り、陰陽交々爭い、扶風を降し、凍雨を雜え、扶搖して之に登れば、威は天地を動かし、聲は海內を震わす。蛇鱔は泥に著くこと百仞の中、熊羆は丘山盤岩に匍匐し、虎豹は穴を襲いて敢えて咆えず、猿狖は顛蹶して木枝を失う。又た況んや直だ蛇鱔の類をや。鳳凰の翔るや至德にして、雷霆作らず、風雨興らず、川穀澹かならず、草木搖がず。而して燕雀 之を佼り、以て之と宇宙の間に爭う能わずと為す。其の曾て萬仞の上に逝き、四海の外に翱翔し、昆侖の疏圃を過ぎ、砥柱の湍瀨を飲み、蒙泛の渚に邅回し、冀州の際に尚佯し、徑ちに都廣を躡み、日に入りて節を抑え、羽翼を弱水にし、暮に風穴に宿るに至れば、此の時に當たりて、鴻鵠鶬鸖 憚り驚き伏し竄れ、喙を江裔に注がざる莫し。又た況んや直だ燕雀の類をや。此れ小動の跡に明らかにして、大節の由る所を知らざる者なり。
現代語訳
純にあたたかく沈み、鈍く重く終わり、はじめから根本を出たことがないようであるのを、大いなる通というのである。いま赤い龍や青い龍が冀州に遊ぶときは、天は清く地は定まり、猛獣は動かず、飛ぶ鳥は驚かず、藪に入り、木の実を食べ、味をかじり甘みを含み、歩みはわずかな畑の区画を出ない。そこで泥の中の蛇やどじょうはこれを侮り、自分たちと大海で争うことはできまいと思う。ところが黒雲の立ちこめる朝になり、陰と陽がせめぎ合い、つむじ風を降ろし、冷たい雨を交え、旋風に乗って登れば、その威は天地を動かし、その声は国じゅうを震わせる。蛇やどじょうは百仞の泥にへばりつき、熊は丘や岩にはいつくばり、虎や豹は穴に隠れて吠えることもできず、猿はつまずいて木の枝を落とす。まして泥の中の蛇の類はなおさらだ。鳳凰が飛ぶときは極みの徳があって、雷も鳴らず、風雨も起こらず、川も谷も波立たず、草木も揺れない。そこで燕や雀はこれを侮り、自分たちと天地の間で争うことはできまいと思う。ところが万仞の高さまで昇り、四海の外を舞い、昆侖の園を過ぎ、砥柱の急流の水を飲み、蒙泛の渚を巡り、冀州のあたりを行き来し、まっすぐ都広を踏み、日の入りとともに歩みをゆるめ、羽を弱水にひたし、暮れには風穴に宿るに至れば、そのときには白鳥も鶴も、はばかり驚いて伏せ隠れ、くちばしを川のほとりに伏せないものはない。まして燕や雀の類はなおさらだ。これは小さな動きの跡にだけ明るく、大きな節の拠ってくるところを知らない者である。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
歎異抄・第十二条たとい自余の教法は勝れたりとも、自らがためには器量及ばざれば、つとめがたし。 我も人も生死を離れんことこそ諸仏の御本意にておわしませば、御妨げあるべからず」とて、にくい気せずは、誰の人かありて仇をなすべきや。
-
人物志・接識故に一流の人は、能く一流の善を識る。二流の人は、能く二流の美を識る。
-
論語・子路篇子曰く、君子は事え易くして説ばせ難きなり。之を説ばすに道を以てせざれば、説ばざるなり。其の人を使うに及びてや、之を器にす。小人は事え難くして説ばせ易きなり。之を説ばすに道を以てせずと雖も、説ぶなり。其の人を使うに及びてや、備わらんことを求む。
-
説苑・臣術楚の令尹死す。景公成公幹に遇いて曰く、「令尹将た焉くにか帰せん」と。成公幹曰く、「殆ど屈春に於いてか」と。景公怒りて曰く、「国人以て我に帰すと為す」と。成公幹曰く、「子の資少なく、屈春の資多し。子義天下の至憂を獲て、而れども以て友と為す。鳴鶴と芻狗と、其の知甚だ少なきも、而れども子之を玩ぶ。鴟夷子皮日に屈春に侍し、損頗友と為る。二人の智、以て令尹と為るに足るも、敢えて其の智を専らにせずして之を屈春に委ぬ。故に曰く、政其れ屈春に帰せんかと」と。
-
説苑・善說子路孔子に問いて曰く、「管仲は何如なる人ぞや。」子曰く、「大人なり。」子路曰く、「昔者管子襄公に說くも、襄公說ばず、是れ辯ならざるなり。公子糾を立てんと欲するも能わず、是れ能無きなり。家齊に殘わるるも憂色無し、是れ慈ならざるなり。桎梏せられて檻車の中に居るも慚色無し、是れ愧無きなり。射る所の君に事う、是れ貞ならざるなり。召忽之に死すれども、管仲死せず、是れ仁無きなり。夫子何を以て之を大とするか。」子曰く、「管仲襄公に說くも、襄公說ばず、管仲辯ならざるに非ず、襄公說ぶを知らざるなり。公子糾を立てんと欲するも能わざるは、能無きに非ず、時に遇わざるなり。家齊に殘わるるも憂色無きは、慈ならざるに非ず、命を知るなり。桎梏せられ檻車に居りて慚色無きは、愧無きに非ず、自ら裁するなり。射る所の君に事うるは、貞ならざるに非ず、權を知るなり。召忽之に死すれども、管仲死せざるは、仁無きに非ず。召忽なる者は、人臣の材なり、死せずんば則ち三軍の虜なり。之に死すれば則ち名天下に聞こゆ、夫れ何為れぞ死せざらんや。管仲なる者は、天子の佐、諸侯の相なり。之に死すれば則ち溝中の瘠と爲るを免れず、死せずんば則ち功復た天下に用いらる、夫れ何爲れぞ之に死せんや。由よ、汝知らざるなり。」
-
十七条憲法 第十四条群臣(ぐんしん)百寮(ひゃくりょう)、嫉妬(しっと)有(あ)ること無(な)かれ。我(われ)既(すで)に人を嫉(ねた)めば、人(ひと)亦(また)我を嫉む。嫉妬の患(うれ)いは、その極(きわ)みを知らず。所以(ゆえ)に智(ち)己(おのれ)に勝(まさ)れば則(すなわ)ち悦(よろこ)ばず、才(さい)己に優(まさ)れば則ち嫉妬す。是(こ)を以(もっ)て五百(いお)の賢(けん)に、乃(すなわ)ち今(いま)一(ひと)りに遇(あ)う。千載(せんざい)にも一人を待(ま)つこと難(かた)し。それ賢を得ざれば、何を以てか国を治めん。