長短経 / 還師
將軍縞素、請罪于君。君曰、“兵之所加、無道國也。擒敵致勝、將無咎殃。”乃尊其官、以奪其勢。故曰、“髙鳥死、良弓藏、敵國滅、謀臣亡。”亡者非喪其身、謂沈之于淵。沈之于淵者、謂奪其威、廢其權。封之于朝、極人臣之位、以顯其功、中州善國、以富其心。仁者之衆、可合而不可離、威權可樂、而難卒移。
新字:将軍縞素、請罪于君。君曰、“兵之所加、無道国也。擒敵致勝、将無咎殃。”乃尊其官、以奪其勢。故曰、“高鳥死、良弓蔵、敵国滅、謀臣亡。”亡者非喪其身、謂沈之于淵。沈之于淵者、謂奪其威、廃其権。封之于朝、極人臣之位、以顕其功、中州善国、以富其心。仁者之衆、可合而不可離、威権可楽、而難卒移。
書き下し
将軍縞素して、罪を君に請う。君曰く「兵の加うる所は、無道の国なり。敵を擒にし勝ちを致す。将に咎殃無し」と。乃ち其の官を尊くして、以て其の勢いを奪う。故に曰く「高鳥死して、良弓蔵れ、敵国滅びて、謀臣亡ぶ」と。亡ぶる者は其の身を喪うに非ず、之を淵に沈むるを謂う。之を淵に沈むる者は、其の威を奪い、其の権を廃するを謂う。之を朝に封じ、人臣の位を極めて、以て其の功を顕わし、中州の善国もて、以て其の心を富ます。仁者の衆は、合すべくして離るべからず。威権は楽しむべくして、卒かに移し難し。
現代語訳
将軍は白い喪服を着て、君主に罪を請う。君主は言う。「兵を向けた相手は無道の国である。敵を捕らえ勝利をもたらした。将軍に咎めはない」。そして将軍の官位を尊くして、その実権を奪う。だから「高く飛ぶ鳥がいなくなれば良い弓はしまわれ、敵国が滅びれば謀臣は滅びる」と言う。滅びるとは、身を失うことではなく、淵に沈めることをいう。淵に沈めるとは、その威光を奪い、その権力を取り上げることをいう。朝廷で封じて臣下として最高の位につけてその功を顕彰し、中原のよい国を与えてその心を満たす。仁ある者の軍勢は、まとまりやすく離れにくい。威光と権力は楽しいものなので、急には手放しにくい。
解説
戦いに勝った将軍は白い喪服で君主に罪を請い、君主は罪はないと言って、将軍を最高の位につけ、同時に実権を取り上げる。狡兎死して走狗烹らるの言葉を、趙蕤は殺すことではなく、権力を穏やかに淵に沈めることだと解釈します。名誉と富で功に報い、兵を率いる力は手放させる。兵は勝った将軍の下にまとまりやすく、権力は一度味わうと手放しにくい。だから功労者の扱いは、報いと権限の切り離しで行うのです。
この章句が説くこと
還師功臣権限移譲狡兎死して走狗烹らる名誉組織
関連する章句
-
三略・中略人臣深く中略に暁かなれば、則ち能く功を全うし身を保つ。夫れ高鳥死して、良弓蔵められ、敵国滅びて、謀臣亡ぶ。亡ぶとは、其の身を喪ふに非ざるなり。其の威を奪ひ、其の権を廃するを謂ふなり。之を朝に封じ、人臣の位を極め、以て其の功を顕はす。中州の善国、以て其の家を富まし、美色珍玩、以て其の心を悦ばしむ。
-
『韓非子』內儲說下六微第三十一太宰嚭、大夫種に書を遺りて曰く「狡兔盡くれは則ち良犬烹らる。敵國滅ぶれば則て謀臣亡ぶ。」
-
『学問のすゝめ』四編・学者の職分を論ず・これを散ずれば明なりこれを集むれば暗なり私にありては智なり、官にありては愚なり。これを散ずれば明なり、これを集むれば暗なり。政府は衆智者の集まるところにして、一愚人の事を行なうものと言うべし。あに怪しまざるを得んや。畢竟その然る所以は、かの気風なるものに制せられて、人々みずから一個の働きを逞しゅうすること能わざるによりて致すところならんか。維新以来、政府にて学術、法律、商売等の道を興さんとして効験なきも、その病の原因はけだしここにあるなり。しかるにいま一時の術を用いて下民を御し、その知徳の進むを待つとは、威をもって人を文明に強ゆるものか、しからざれば欺きて善に帰せしむるの策なるべし。政府威を用うれば人民は偽をもってこれに応ぜん、政府欺を用うれば人民は容を作りてこれに従わんのみ。これを上策と言うべからず。たといその策は巧みなるも、文明の事実に施して益なかるべし。ゆえにいわく、世の文明を進むるには、ただ政府の力のみに依頼すべからざるなり。
-
司馬法・定爵将は身なり、卒は支(し)なり、伍は指拇(しぼ)なり。
-
『長短経』懼戒今、足下忠信を行いて以て漢王に交わらんと欲するも、必ず二君の相与するより固きこと能わず。而して事は張黶・陳沢より大なるもの多し。故に臣以為えらく、足下の漢王の己を危うくせざるを必とするも、亦た誤れり、と。大夫種・范蠡は、亡越を存し、勾践を伯たらしめ、功を立て名を成して身死亡す。諺に曰く『野獣尽きて猟狗烹られ、敵国破れて謀臣亡ぶ』と。夫れ交友を以て之を言えば、則ち張耳の成安君に与するに如かず。忠信を以て之を言えば、則ち大夫種の句践に於けるに過ぎず。此の二人の者は、以て観るに足る。願わくは足下深く之を慮れ。
-
論語・泰伯篇子曰わく、其の位に在らざれば、其の政を謀らず。