三略 / 中略
人臣深曉中略,則能全功保身。夫高鳥死,良弓藏,敵國滅,謀臣亡。亡者,非喪其身也。謂奪其威,廢其權也。封之于朝,極人臣之位,以顯其功。中州善國,以富其家,美色珍玩,以悅其心。
新字:人臣深暁中略,則能全功保身。夫高鳥死,良弓蔵,敵国滅,謀臣亡。亡者,非喪其身也。謂奪其威,廃其権也。封之于朝,極人臣之位,以顕其功。中州善国,以富其家,美色珍玩,以悦其心。
書き下し
人臣深く中略に暁かなれば、則ち能く功を全うし身を保つ。夫れ高鳥死して、良弓蔵められ、敵国滅びて、謀臣亡ぶ。亡ぶとは、其の身を喪ふに非ざるなり。其の威を奪ひ、其の権を廃するを謂ふなり。之を朝に封じ、人臣の位を極め、以て其の功を顕はす。中州の善国、以て其の家を富まし、美色珍玩、以て其の心を悦ばしむ。
現代語訳
臣下たる者が中略に深く通じていれば、功を全うしつつ身を守ることができる。高く飛ぶ鳥が射尽くされれば、良い弓はしまい込まれる。敵国が滅びれば、謀を巡らせた臣は用済みとなる。ここで用済みとなるとは、命を奪われるという意味ではない。その威勢を取り上げ、その権限を廃するということである。朝廷では領地を与えて臣下として最高の位につけ、その功績を世に示す。国の中心の良い土地を与えて家を富ませ、美しい者や珍しい宝を与えてその心を喜ばせるのである。
解説
功を立てた臣がどう扱われるかを、冷徹に描いた有名な段です。鳥がいなくなれば弓はしまわれ、敵国が滅べば謀臣の出番は終わる。ただし三略はここで、殺すのではないと言い添えます。位と富と楽しみを与えて厚く遇し、そのかわり実権と威勢だけを静かに取り上げるのだ、と。名誉は与え、力は返させる。功臣の処遇として示されるこのやり方は、報いつつ危険を除くという、権力の機微そのものです。臣下の側から見れば、この構造を知っていることが身を守る術になります。経営でも、創業期を支えた功労者が、事業の段階が変わったあとも同じ影響力を持ち続けることで軋轢が生じる場面があります。功に報いる形と、権限を担う形は別物だと切り分けておくこと。そして功労者自身も、役割の変化を受け入れる潔さを持つこと。双方の自覚が、組織と人の両方を守ります。
この章句が説くこと
狡兎死して走狗烹らる功臣の処遇権力の返上全功保身
関連する章句
-
『韓非子』內儲說下六微第三十一太宰嚭、大夫種に書を遺りて曰く「狡兔盡くれは則ち良犬烹らる。敵國滅ぶれば則て謀臣亡ぶ。」
-
『長短経』懼戒今、足下忠信を行いて以て漢王に交わらんと欲するも、必ず二君の相与するより固きこと能わず。而して事は張黶・陳沢より大なるもの多し。故に臣以為えらく、足下の漢王の己を危うくせざるを必とするも、亦た誤れり、と。大夫種・范蠡は、亡越を存し、勾践を伯たらしめ、功を立て名を成して身死亡す。諺に曰く『野獣尽きて猟狗烹られ、敵国破れて謀臣亡ぶ』と。夫れ交友を以て之を言えば、則ち張耳の成安君に与するに如かず。忠信を以て之を言えば、則ち大夫種の句践に於けるに過ぎず。此の二人の者は、以て観るに足る。願わくは足下深く之を慮れ。
-
『長短経』還師将軍縞素して、罪を君に請う。君曰く「兵の加うる所は、無道の国なり。敵を擒にし勝ちを致す。将に咎殃無し」と。乃ち其の官を尊くして、以て其の勢いを奪う。故に曰く「高鳥死して、良弓蔵れ、敵国滅びて、謀臣亡ぶ」と。亡ぶる者は其の身を喪うに非ず、之を淵に沈むるを謂う。之を淵に沈むる者は、其の威を奪い、其の権を廃するを謂う。之を朝に封じ、人臣の位を極めて、以て其の功を顕わし、中州の善国もて、以て其の心を富ます。仁者の衆は、合すべくして離るべからず。威権は楽しむべくして、卒かに移し難し。
-
三略・中略聖人は天に体し、賢人は地に法り、智者は古を師とす。是の故に三略は衰世の為に作る。上略は礼賞を設け、姦雄を別ち、成敗を著す。中略は徳行を差べ、権変を審らかにす。下略は道徳を陳べ、安危を察し、賢を賊ふの咎を明らかにす。故に人主深く上略に暁かなれば、則ち能く賢に任じて敵を擒にす。深く中略に暁かなれば、則ち能く将を御し衆を統ぶ。深く下略に暁かなれば、則ち能く盛衰の源を明らかにし、治国の紀を審らかにす。
-
三略・中略夫れ人衆は一たび合すれば卒かに離すべからず。権威は一たび与ふれば卒かに移すべからず。師を還し軍を罷むるは、存亡の階なり。故に之を弱むるに位を以てし、之を奪ふに国を以てす、是を覇者の略と謂ふ、故に覇者の作は、其の論駁なり。
-
三略・下略豪傑職を秉れば、国威乃ち弱く、殺生豪傑に在れば、国勢乃ち竭く。豪傑首を低るれば、国乃ち久しかるべし。殺生君に在れば、国乃ち安かるべし。四民用ひて虚しければ、国乃ち儲へ無し。四民用ひて足れば、国乃ち安楽なり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る