長短経 / 懼戒
〔議曰、曹公與邈甚相善、然邈包藏禍心者、廹于事也。故每覽古今所由改趨、因縁侵辱或起瑕釁、若韓信傷心于失楚、彭寵積望于無異、盧綰嫌畏于已㕁英布憂廹于情漏、此事之縁也。由此觀之、夫叛臣逆子未必皆不忠也。或心忿意危、或威名振主、因成大業、自古然之矣。〕
新字:〔議曰、曹公与邈甚相善、然邈包蔵禍心者、迫于事也。故毎覧古今所由改趨、因縁侵辱或起瑕釁、若韓信傷心于失楚、彭寵積望于無異、盧綰嫌畏于已㕁英布憂迫于情漏、此事之縁也。由此観之、夫叛臣逆子未必皆不忠也。或心忿意危、或威名振主、因成大業、自古然之矣。〕
書き下し
〔議に曰く、曹公と邈とは甚だ相善し。然れども邈の禍心を包蔵するは、事に迫らるればなり。故に毎に古今の由りて趨を改むる所を覧るに、因縁侵辱し、或いは瑕釁を起こす。韓信の楚を失うに傷心し、彭寵の異無きに積望し、盧綰の已に同じきを嫌畏し、英布の情の漏るるを憂迫するが若き、此れ事の縁なり。此に由りて之を観れば、夫れ叛臣逆子も未だ必ずしも皆不忠ならず。或いは心忿り意危うく、或いは威名主を振るい、因りて大業を成すこと、古より然り。〕
現代語訳
〔論じて言う。曹操と張邈はとても仲がよかった。それでも張邈が禍の心を抱いたのは、事情に追い詰められたからである。昔から今まで、人が態度を変えた理由を見ると、何かのきっかけで侮辱を受けたり、隙が生じたりしている。韓信は楚王の位を失って心を傷つけ、彭寵は他の功臣と変わらない扱いに恨みを積み、盧綰は同じ立場の者が殺されるのを恐れ、英布は内情が漏れて追い詰められた。これが事の由来である。これで見れば、反逆した臣や子が必ずしも皆はじめから不忠だったわけではない。心が怒りで満ち身が危うくなったり、威名が主君を震わせたりして、そのまま大業を成すことは、昔からあることだ。〕
解説
趙蕤は、反逆者を最初から悪人とは見ません。韓信は王位を奪われて傷つき、彭寵は功に見合わない扱いに恨みを溜め、盧綰は仲間が殺されるのを見て恐れ、英布は秘密が漏れて追い詰められた。皆、何かのきっかけで心が離れた。裏切りには、侮辱、不公平、恐怖、追い詰めという経緯がある。人が離反したとき、その人の性格を責める前に、何が起きていたのかを振り返る必要があります。
この章句が説くこと
懼戒張邈韓信英布離反経緯
関連する章句
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『長短経』懼戒袁紹盟主と為り、驕色有り。陳留太守張邈、正義もて之を責む。紹、曹操をして邈を殺さしめんとするも、操聴かず。邈、心自ら安んぜず。操の東のかた陶謙を撃つに及び、其の将陳宮をして東郡に屯せしむ。宮因りて邈に説きて曰く「今、天下分崩し、雄傑並び起こる。君は十万の衆を擁し、四戦の地に当たり、剣を撫して顧盼すれば、亦た以て人傑と為るに足る。而るに反りて制を人に受く。亦た鄙しからずや。今、州軍東征し、其の処空虚なり。呂布は壮士にして、善く戦いて前無し。君之を迎えて、共に兗州に拠り、天下の形勢を観、時事の変通を俟たば、此れ亦た縦横の一時なり」と。邈之に従いて曹公に反す。
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『長短経』懼戒〔議に曰く、昔、斉の崔杼、荘公を弑す。晏子、君の難に死せずして曰く「人に君たる者は、豈に以て人を陵がんや、社稷を是れ主とす。君に臣たる者は、豈に其の口実の為ならんや、社稷を是れ養う。故に君、社稷の為に死すれば則ち之に死し、社稷の為に亡ぶれば則ち之に亡ぶ。若し己の為に死し、己の為に亡ぶれば、其の親暱に非ずんば誰か敢えて之に任ぜん」と。孟子、斉の宣王に謂いて曰く「君の臣を視ること手足の如くなれば、則ち臣の君を視ること腹心の如し。君の臣を視ること草芥の如くなれば、則ち臣の君を視ること寇讐の如し」と。「君は天なり、天は逃るべからず」と云うと雖も、然れども臣は君恩に縁りて以て等差を為すこと、古より然り。韓信は漢王の遇すること厚きを以て其の徳に背かず。誠に憐れむに足るのみ。〕
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『長短経』懼戒今、足下忠信を行いて以て漢王に交わらんと欲するも、必ず二君の相与するより固きこと能わず。而して事は張黶・陳沢より大なるもの多し。故に臣以為えらく、足下の漢王の己を危うくせざるを必とするも、亦た誤れり、と。大夫種・范蠡は、亡越を存し、勾践を伯たらしめ、功を立て名を成して身死亡す。諺に曰く『野獣尽きて猟狗烹られ、敵国破れて謀臣亡ぶ』と。夫れ交友を以て之を言えば、則ち張耳の成安君に与するに如かず。忠信を以て之を言えば、則ち大夫種の句践に於けるに過ぎず。此の二人の者は、以て観るに足る。願わくは足下深く之を慮れ。
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『長短経』懼戒〔議に曰く、昔、蒯通は韓信に説き、閻忠は皇甫嵩に説き、馮衍は廉丹に説く。此の三人は皆従わず、甘んじて危亡に就くは、何ぞや。対えて曰く、范曄曰く「夫れ事苦しければ、則ち全きを矜るの情薄く、生厚ければ、故に安存の慮り深し。高きに登りて懼れざる者は、胥靡の人なり。坐して堂に垂せざるは、千金の子なり」と。此に由りて之を観れば、夫れ人情は、楽しければ則ち安きを思い、苦しければ則ち変を図る。必然の勢いなり。今、三子は或いは南面して孤と称し、或いは位は将相を極む。但だ自ら安んずるの術を図り、非常の功を慮る無し。勢い疑わるれば則ち釁生じ、力侔しければ則ち乱起こるを知らず。勢い已に疑われたるに、勢いを辞して以て嫌を去ること能わず。力已に侔しきに、力を損じて以て福を招くこと能わず。遅迴猶予して、危亡に至る。其の禍は全きを矜りて反りて其の敗を貽すに在る者なり。語に曰く「心死すれば則ち生き、生を幸えば則ち死す」と。数公は生を幸うと謂うべきなり。〕
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『長短経』懼戒昔、韓信は一飡の遇に忍びずして、三分の業を棄て、利剣以て其の喉を揣るに、方に悔毒の嘆を発する者は、機失われて謀乗ぜらるればなり。今、主上の勢いは劉・項より弱く、将軍の権は淮陰より重し。指揮は以て風雲を振るうに足り、叱咤は以て雷電を興すべし。赫然として奮発し、危うきに因りて頹るるに抵り、恩を崇くして以て先に附く者を綏んじ、武を振るいて以て後に服する者に臨む。冀方の士を徴し、七州の衆を動かす。羽檄は先に前に馳せ、大軍は後に響き振るう。漳河を蹈み流し、馬に孟津に飲う。閹宦の罪を誅し、群怨の積を除く。童児と雖も拳を奮いて以て力を致さしむべく、女子と雖も裳を褰げて以て命を用いしむべし。況んや熊羆の卒を厲まし、迅風の勢いに因るをや。功業已に就り、天下已に順わば、然る後に上帝に請い呼び、示すに天命を以てし、六合を混斉し、南面して制を称す。宝器を将に興らんとするに移し、亡漢を已に墜ちたるに推す。実に神機の至会、風発の良時なり。夫れ既に朽ちたる木は雕らず、衰世の朝は佐け難し。若し佐け難きの朝を輔け、朽敗の木を雕らんと欲せば、是れ猶お坂を逆にして丸を走らせ、流れを迎えて櫂を縦にするがごとし。豈に易しと云わんや。
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『長短経』懼戒〔議に曰く、古人称す、禍を始むる者は死す、と。首めて乱を唱えて先に倡うるを謂う。彼の姦雄不逞の輩、外は義兵に託して以て逆節を除き、内は荒悖を包みて、茲に因りて起こる。皆王に勤め順を助け、時を用いて権を取る者は、廆の謂いなり。〕