長短経 / 三国権
蜀之地、非不險也、髙山尋雲霓、深谷肆無景、束馬懸車、然後能濟、皆言一夫荷㦸千人莫當。及進兵之日、曽無藩籬之限、斬將搴旗、伏屍數萬、乗勝席卷、徑至成都、漢中諸城、皆鳥棲而不敢出。非皆無戰心、誠力不足相抗。至劉禅降服、諸營堡者、索然俱散。今江淮之難、不過劒閣、山川之險、不過岷漢。孫皓之暴、侈於劉禪、吴越之困、甚於巴蜀。而大晋兵衆、多於前世、資儲器械、盛於徃時。今不於此平吴、而更阻兵相守、征夫苦役、日尋干戈、經歴盛衰、不可長乆、宜當時定、以一四海。今若引梁、益之兵、水陸俱下、荆、楚之衆、進臨江陵。平南豫州、直指夏口、徐、揚、青、兖並向秣陵、鼔斾以疑之、多方以誤之、以一隅之吴、當天下之衆、勢分形散、所備皆急。、巴、漢竒兵、出其空虚、一處傾壊則上下震蕩。
新字:蜀之地、非不険也、高山尋雲霓、深谷肆無景、束馬懸車、然後能済、皆言一夫荷戟千人莫当。及進兵之日、曽無藩籬之限、斬将搴旗、伏屍数万、乗勝席巻、径至成都、漢中諸城、皆鳥棲而不敢出。非皆無戦心、誠力不足相抗。至劉禅降服、諸営堡者、索然倶散。今江淮之難、不過劒閣、山川之険、不過岷漢。孫皓之暴、侈於劉禅、呉越之困、甚於巴蜀。而大晋兵衆、多於前世、資儲器械、盛於往時。今不於此平呉、而更阻兵相守、征夫苦役、日尋干戈、経歴盛衰、不可長久、宜当時定、以一四海。今若引梁、益之兵、水陸倶下、荆、楚之衆、進臨江陵。平南予州、直指夏口、徐、揚、青、兗並向秣陵、鼓斾以疑之、多方以誤之、以一隅之呉、当天下之衆、勢分形散、所備皆急。、巴、漢奇兵、出其空虚、一処傾壊則上下震蕩。
書き下し
蜀の地は険しからざるに非ず。高山は雲霓を尋ね、深谷は無景を肆にし、馬を束ね車を懸けて、然る後に能く済る。皆一夫戟を荷えば千人も当たる莫しと言う。兵を進むるの日に及びて、曽て藩籬の限り無く、将を斬り旗を搴り、伏屍数万、勝ちに乗じて席巻し、径ちに成都に至る。漢中の諸城、皆鳥のごとく棲みて敢えて出でず。皆戦う心無きに非ず、誠に力相抗するに足らざればなり。劉禅降服するに至り、諸々の営堡の者、索然として俱に散ず。今、江淮の難は剣閣に過ぎず、山川の険は岷漢に過ぎず。孫皓の暴は劉禅より侈に、呉越の困は巴蜀より甚だし。而して大晋の兵衆は前世より多く、資儲器械は往時より盛んなり。今、此に於て呉を平らげずして、更に兵を阻みて相守らば、征夫は苦役し、日に干戈を尋ね、盛衰を経歴し、長久なるべからず。宜しく時に当たりて定め、以て四海を一にすべし。今、若し梁・益の兵を引きて、水陸俱に下り、荊楚の衆は進みて江陵に臨み、平南・豫州は直ちに夏口を指し、徐・揚・青・兗は並びに秣陵に向かい、鼓旆して以て之を疑わしめ、多方にして以て之を誤らしめば、一隅の呉を以て、天下の衆に当たり、勢い分かれ形散じ、備うる所皆急ならん。巴・漢の奇兵、其の空虚に出で、一処傾壊すれば則ち上下震蕩せん。
現代語訳
蜀の地が険しくなかったわけではありません。高い山は雲と虹に届き、深い谷は光も届かず、馬を縛り車を吊るしてようやく越えられるほどでした。皆、一人が戟を担えば千人でもかなわないと言っていました。ところが兵を進めた日には、垣根ほどの妨げもなく、将を斬り旗を奪い、伏した屍は数万、勝ちに乗じて席巻し、まっすぐ成都に至りました。漢中の城々は皆鳥が巣にこもるように出てきませんでした。戦う心がなかったのではなく、力が張り合うに足りなかったのです。劉禅が降伏すると、各地の砦の兵はあっけなく散りました。いま長江・淮水の難しさは剣閣ほどではなく、山川の険しさは岷山・漢水ほどではありません。孫皓の暴虐は劉禅よりひどく、呉越の苦しみは巴蜀よりひどい。そして大晋の兵は前代より多く、蓄えと武器は昔より豊かです。いまここで呉を平らげず、さらに兵を止めて守り合っていれば、兵は苦役し、毎日戦を探し、盛衰を経て、長くは続けられません。時に当たって定め、天下を一つにすべきです。いまもし梁州・益州の兵を率いて水陸から下り、荊楚の兵は江陵に臨み、平南将軍と豫州の兵はまっすぐ夏口を目指し、徐・揚・青・兗の兵はそろって秣陵へ向かい、太鼓と旗で疑わせ、あちこちから攻めて誤らせれば、一隅の呉で天下の兵に当たることになり、勢いは分かれ形は散って、どこの備えも手薄になります。巴・漢の奇兵が手薄なところに出て、一か所が崩れれば、上下が揺れ動くでしょう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
李衛公問対・卷下分かつべくして分たざるは、縻軍と為る。聚まるべくして聚まらざるは、孤旅と為る。
-
『不動智神妙録』心の置所万事に堅まつたるは偏に落つるとて道に嫌ひ申す事なり、何処に置かうとて思ひなければ、心は全体に伸びひろごりて行き渡りて有るものなり、心をば何処にも置かずして、敵の働によりて当位々々心を其所々にて可用心歟、総身に渡つてあれば、手の入る時には手にある心を遣ふべし、足の入る時には足にある心を遣ふべし、一所に定めて置きたらば、其置きたる所より引出し遣らんとする程に、其処に止りて用が抜け申し候、
-
孫子・虚実篇故に人に形せしめて我に形無ければ、則ち我は専まりて敵は分かる。我専まりて一と為り、敵分かれて十と為らば、是れ十を以て其の一を攻むるなり。則ち我は衆くして敵は寡なし。能く衆を以て寡を撃つ者は、則ち吾の与に戦う所の者、約なり。
-
孫子・虚実篇故に前に備うれば則ち後寡なく、後に備うれば則ち前寡なし。左に備うれば則ち右寡なく、右に備うれば則ち左寡なし。備えざる所無ければ、則ち寡なからざる所無し。寡なき者は人に備うる者なり、衆き者は人をして己に備えしむる者なり。
-
孫子・虚実篇吾の与に戦う所の地知るべからざれば、知るべからざれば則ち敵の備うる所の者多く、敵の備うる所の者多ければ、則ち吾の与に戦う所の者寡なし。
-
『呻吟語』外篇・治道・官は精を貴び多きを貴ばず官は精を貴びて多きを貴ばず。權は一を貴びて分かるるを貴ばず。大都の內、法令行はれざるは、則ち官多く權分かるるの故なり。故に萬事俱に馳る。