長短経 / 七雄略
楚襄王有疾、太子質於秦、不得歸。黄歇説秦相應侯曰、「今楚王疾、恐不起。秦不如歸太子。太子即位。其事秦必謹、若不歸、則咸陽一布衣耳。楚更立太子必不事秦、失一國而絶萬乗之和、非計也、願相國慮之。」應侯為言於秦王、王不肯。乃遁也。〕
新字:楚襄王有疾、太子質於秦、不得帰。黄歇説秦相応侯曰、「今楚王疾、恐不起。秦不如帰太子。太子即位。其事秦必謹、若不帰、則咸陽一布衣耳。楚更立太子必不事秦、失一国而絶万乗之和、非計也、願相国慮之。」応侯為言於秦王、王不肯。乃遁也。〕
書き下し
楚の襄王、疾有り。太子、秦に質たり、帰るを得ず。黄歇、秦の相応侯に説きて曰く「今、楚王疾む。恐らくは起たざらん。秦、太子を帰すに如かず。太子即位せば、其の秦に事うること必ず謹まん。若し帰さずんば、則ち咸陽の一布衣のみ。楚、更に太子を立てば必ず秦に事えざらん。一国を失いて万乗の和を絶つは、計に非ざるなり。願わくは相国、之を慮れ」と。応侯、為に秦王に言う。王、肯んぜず。乃ち遁るるなり。〉
現代語訳
楚の襄王が病んだ。太子は秦に人質になっていて帰れなかった。黄歇は秦の宰相范雎に説いた。「いま楚王が病んでいる。おそらく起き上がれない。秦は太子を帰すに越したことはありません。太子が即位すれば、秦に仕えることを必ず慎むでしょう。もし帰さなければ、咸陽の一介の庶民にすぎない。楚が別の太子を立てれば、必ず秦に仕えない。一国を失って万乗の国との和を絶つのは、よい計ではありません。宰相どうかお考えください」。范雎は秦王に言ったが、王は承知しなかった。そこで逃がした。〉
解説
人質の価値は、その人が本国で誰かであるうちだけ。王が死ねば太子は替えられ、手元に残るのは咸陽の一庶民です。黄歇はその一点を突きました。范雎を動かせたのに秦王が承知しなかったので、最後は逃がしてしまう。交渉が通らないときに実力で動く覚悟まで含めて、この人の仕事でした。握っているものの価値は、外の状況が決めています。
この章句が説くこと
七雄略黄歇范雎楚太子人質価値
関連する章句
-
『墨子』耕柱子墨子曰く、「和氏の璧、隋侯の珠、三棘六異、此れ諸侯の所謂る良寳なり。以て國家を富まし、人民を衆くし、刑政を治め、社稷を安んず可きか。曰く、不可なり。所謂る良寶を貴ぶ者は、其の以て利す可きが為なり。而して和氏の璧、隋侯の珠、三棘六異は、以て人を利す可からず。是れ天下の良寶に非ざるなり。今、義を用いて政を國家に為さば、人民必ず衆く、刑政必ず治まり、社稷必ず安からん。良寶を貴ぶ所以の者は、以て民を利す可ければなり。而して義は以て人を利す可し。故に曰く、義は天下の良寶なり」と。
-
『呻吟語』内篇・應務・所直幾何ぞと曰ふは亂語のみ一介にして必ず吝しむ者有り、千金にして輕んず可き者有り。而るに世の取與を論ずるは動もすれば、直る所幾何ぞと曰ふ。此れ亂語のみ。
-
『呻吟語』外篇・治道・斗珠は升糠に如かず余息して溝壑に在らば、斗珠も升糠に如かず。祼裎して冰雪に臥さば、敗絮も繡縠より重し。舉世の人を用ふるは、皆な珠縠の貴きなり。甚だ高品有り、甚だ清流有らんや。緩急の用に適せずんば、即ち真に急とする所に非ざるなり。
-
『墨子』貴義子墨子曰く、萬事、義より貴きは莫し。今、人に謂いて曰く、「子に冠履を予えて、子の手足を斷たん。子、之を為さんか」と。必ず為さざらん。何の故ぞ。則ち冠履は手足の貴きに若かざればなり。又た曰く、「子に天下を予えて、子の身を殺さん。子、之を為さんか」と。必ず為さざらん。何の故ぞ。則ち天下は身の貴きに若かざればなり。一言を爭いて以て相い殺すは、是れ義を其の身よりも貴べばなり。故に曰く、萬事、義より貴きは莫きなり。
-
『呻吟語』外篇・世運・世の人與に言ひ難し世人は老を賤しむも、聖王は之を尊ぶ。世人は愚を棄つるも、君子は之を取る。世人は貧を恥づるも、高士は之を清しとす。世人は淡を厭ふも、智者は之を味はふ。世人は冷を惡むも、幽人は之を寶とす。世人は素を薄しとするも、有道者は之を尚ぶ。悲しいかな、世の人は與に言ひ難し。
-
『呻吟語』外篇・廣喻・惟だ光明なる者のみ人をして疑はしめず瓦礫の道に在るは、過ぐる者皆な弗ち見ざるなり。之を裹むに紙を以てすれば、人必ず之を拾はん。十たび襲ねて之を櫝せば、人必ず之を盜まん。故に之を藏さば、人は之を亡はんことを思ひ、之を掩へば、人は之を檢せんことを思ひ、之を圍めば、人は之を窺はんことを思ひ、之を障へば、人は之を望まんことを思ふ。惟だ光明なる者のみ人をして疑はしめず。故に君子は其の身を光天化日の下に置く。丑好は我に在り、我飾る無し。愛憎は人に在り、我與る無し。