長短経 / 覇図
廣武君曰、「臣聞、智者千慮、必有一失、愚者千慮、必有一得。故曰、『狂夫之言、聖人擇焉。』顧恐臣計未必足用、願効愚忠。夫成安君有百戰百勝之計、一旦而失之、軍破鄗下、身死泜上。今将軍涉西河、虜魏王、禽夏悦閼與、一舉而下井陘、不終朝而破趙二十萬衆、誅成安君、名聞海内、威震天下、農夫莫不輟耕釋耒、工女下機、褕衣甘食、傾耳以待命。若此者、将軍之所長也。
新字:広武君曰、「臣聞、智者千慮、必有一失、愚者千慮、必有一得。故曰、『狂夫之言、聖人択焉。』顧恐臣計未必足用、願効愚忠。夫成安君有百戦百勝之計、一旦而失之、軍破鄗下、身死泜上。今将軍渉西河、虜魏王、禽夏悦閼与、一舉而下井陘、不終朝而破趙二十万衆、誅成安君、名聞海内、威震天下、農夫莫不輟耕釈耒、工女下機、褕衣甘食、傾耳以待命。若此者、将軍之所長也。
書き下し
広武君曰く「臣聞く、智者も千慮に、必ず一失有り。愚者も千慮に、必ず一得有り、と。故に曰く『狂夫の言、聖人は焉を択ぶ』と。顧うに恐らくは臣の計、未だ必ずしも用うるに足らず。愚忠を効さんことを願う。夫れ成安君には百戦百勝の計有り。一旦にして之を失い、軍は鄗下に破れ、身は泜上に死す。今、将軍は西河を渉り、魏王を虜にし、夏悦を閼与に禽にし、一挙にして井陘を下し、朝を終えずして趙の二十万の衆を破り、成安君を誅し、名は海内に聞こえ、威は天下を震わす。農夫は耕を輟め耒を釈かざるは莫く、工女は機を下り、衣を褕し食を甘くし、耳を傾けて以て命を待つ。此くの若き者は、将軍の長ずる所なり。
現代語訳
広武君は言った。「臣が聞くところでは、賢者も千度考えれば必ず一つ失敗があり、愚者も千度考えれば必ず一つ当たりがある、と。だから『狂人の言葉も聖人は選び取る』といいます。思うに私の計は必ずしも用いるに足りないでしょう。それでも愚かな忠を尽くします。成安君には百戦百勝の計がありました。それが一朝にして失われ、軍は鄗の下で破れ、身は泜水のほとりで死んだ。いま将軍は西河を渡り、魏王を捕らえ、夏悦を閼与で擒にし、一挙に井陘を下し、半日もかけずに趙の二十万を破り、成安君を誅した。名は天下に聞こえ、威は天下を震わせている。農夫は耕作をやめて鋤を置かない者はなく、機織りの女は機から下り、良い衣を着て良いものを食べ、耳を傾けて命令を待っている。これが将軍の長所です。
解説

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見るこの章句が説くこと
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・修身・我を攻むるの益に感ず我が過ちを攻むる者は、未だ必ずしも皆な過ち無きの人ならざるなり。苟しくも過ち無きの人の我を攻むるを求めば、則ち終身過ちを聞くを得ざらん。我は當に其の我を攻むるの益に感ずるのみ。彼に過ち有るか過ち無きか、何ぞ計るに暇あらんや。
-
自警録・第二十章 忠告の取捨・正しき時に正しき言を放つは賢人なお他人に忠告するについては、一言したいことがある。たびたび言うとおり聖人君子でないわれわれ凡人に訓戒を与えることははなはだむずかしいし、また与えたところが釈迦、孔子、耶蘇の訓戒でさえもいちいち反応ないのに、われわれの訓戒が功を奏することはおぼつかなく思う。 友人に忠告することは常にあることで、ある意味においては世にありすぎることである。こんなことまで忠告するにおよばんのにと思うことがままある。 しかし忠告する値があることについても、もっとも注意すべきは時を選ぶ一条である。友人の心の畑が耕されているや否や、英国の諺に賢人とは正しき時に、正しき言を放つ者なりとあるが、実にそのとおりで、どんな正しい言でも時ならぬ時に放てば愚人の言にも劣る。おそらく多くの人はみな経験があるだろう。 まじめになって、友人を諫めたためにあるいは友誼を破り、あるいは他人の心に反抗心を惹き起こさせて、いっそう彼を堕落せしむるの機縁となることがある。時ならぬ忠告は有害ならぬまでも、無益におわる場合多ければ、葬式に祝詞を呈し、めでたき折に泣き言を述ぶるに等しきことは常識に任せて謹みたい。 僕のたびたび引用する『菜根譚』に、 「人の悪を攻むるは太だ厳なるなかれ、その受くるに堪うるを思うを要す。人に教うるに善を以てするは、高きに過ぐるなかれ、それをして従うべからしむべし」 とある。
-
『斉家論』上然れども推し出だし儒者とはいはれまじ。又世間に沙汰なき人にも出会うて見れば、経書はいふに及ばず、詩作文章達者なる能き学者あり。又儒者ならねども、少し心がけある人には、汝ぐらゐの学者は町並にも有るべし。其の中にて無縁の講釈すると、口広き事はいはれまじ。夫をもかまはず書付を出だされなば、聴く者もあるべけれど、一度聞きては、素読同前の講釈なりといひ、又口の悪しき者は、あの学問にて講釈するは、笑ふにたらずと譏るべし。たとひ十日廿日入れかはり聴衆ありとも、つづくまじ。其の時に至り、しまはんよりは、今七八年も学問し出でられなば、本望もとげ、恥を受くることも少なからんといはれし人も、過ぎ去りむかしがたりになりぬ。或人のいへるごとく、
-
『呻吟語』内篇・應務・忠告して善く之を道く今子弟の父兄の責を受くるや、尚ほ堪へざる所有り。而るに況んや他人をや。孔子曰く、「忠告して善く之を道き、不可なれば則ち止む」と。此の語は交はりを全うするに止まらず、亦た以て氣を養ふ可し。
-
論語・顔淵篇子貢、友を問う。子曰く、「忠告して善く之を道き、不可なれば則ち止む。自ら辱めらるること毋かれ。」
-
易経・夬卦勝たずして往くは、咎なり。莫夜に戎有るも、中道を得ればなり。君子夬夬たるは、終に咎无きなり。其の行くこと次且たるは、位当らざればなり。言を聞きて信ぜざるは、聡明らかならざればなり。中行なれば咎无しとは、中未だ光いならざるなり。号ぶこと无きの凶は、終に長かるべからざるなり。