長短経 / 政体
漢景帝詔曰、彫文刻鏤、傷農事者也、錦繡纂組、害女紅者也。農事傷則飢之本也、女紅害則寒之原也。夫飢寒並至而能毋為非者、寡矣。朕親耕、后親桑、以奉宗廟、為天下先、欲天下務農蠶、素有蓄積、以備災害。”《鹽鐵論》曰、“國有沃野之饒、而人不足於食者、工商盛而本業荒也。有山海之貨、而人不足於財者、不務人用而淫巧衆也。”〕
新字:漢景帝詔曰、彫文刻鏤、傷農事者也、錦繡纂組、害女紅者也。農事傷則飢之本也、女紅害則寒之原也。夫飢寒並至而能毋為非者、寡矣。朕親耕、后親桑、以奉宗廟、為天下先、欲天下務農蠶、素有蓄積、以備災害。”《塩鉄論》曰、“国有沃野之饒、而人不足於食者、工商盛而本業荒也。有山海之貨、而人不足於財者、不務人用而淫巧衆也。”〕
書き下し
漢の景帝の詔に曰く「彫文刻鏤は農事を傷つくる者なり。錦繍纂組は女紅を害する者なり。農事傷つけば則ち飢の本なり。女紅害せらるれば則ち寒の原なり。夫れ飢寒並び至りて能く非を為す毋き者は寡し。朕、親ら耕し、后、親ら桑して、以て宗廟に奉り、天下の先と為る。天下をして農蚕に務め、素より蓄積有りて、以て災害に備えしめんと欲す」と。塩鉄論に曰く「国に沃野の饒有るも、人の食に足らざる者は、工商盛んにして本業荒るればなり。山海の貨有るも、人の財に足らざる者は、人用を務めずして淫巧衆ければなり」と。〕
現代語訳
漢の景帝の詔にこうある。「彫刻や透かし彫りは農事を損なうものである。錦の刺繍や組紐は女の手仕事を害するものである。農事が損なわれれば飢えの元であり、女の手仕事が害されれば寒さの元である。飢えと寒さがともにやって来て、それでも悪事を働かずにいられる者は少ない。私は自ら耕し、皇后は自ら桑を摘んで、それを宗廟に供え、天下の手本となる。天下に農と養蚕に励ませ、平生から蓄えを持たせ、災害に備えさせたい」。塩鉄論にこうある。「国に肥沃な土地の豊かさがあっても人々の食が足りないのは、工業と商業が盛んで本業が荒れているからである。山や海の産物があっても人々の財が足りないのは、実用に励まずに凝った細工が多いからである」。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『長短経』政体竭きざるの府に蔵するは、桑麻を養い、六畜を育つるなり。〔漢の景帝の詔に曰く「農は天下の本なり。黄金珠玉は、飢えて食う可からず、寒くして衣る可からず。其れ郡国をして農桑を勧め、益ます樹を種え、衣食の物に充つ可からしめよ。吏、人を発して庸を取り、黄金珠玉を采る者は、賍に坐して盗と為す。二千石、聴す者は罪を同じくす」と。申鑒の論に曰く「人、死を畏れざれば、之を懾すに罪を以てす可からず。人、生を楽しまざれば、之を勧むるに善を以てす可からず。故に上に在る者は先ず人の財を豊かにして、以て其の志を定むるなり」と。〕
-
『帝範』務農第十夫(そ)れ食(しょく)は人(ひと)の天(てん)為(た)り、農(のう)は政(まつりごと)の本(もと)為(た)り。倉廪(そうりん)實(み)つれば則(すなは)ち禮節(れいせつ)を知(し)り、衣食(いしょく)足(た)れば則(すなは)ち㢘恥(れんち)を志(こころざ)す。故(ゆゑ)に躬(みづか)ら東郊(とうこう)に耕(たがや)し、敬(つつし)みて人(ひと)に時(とき)を授(さづ)く。國(くに)に九嵗(きゅうさい)の儲(たくは)へ無(な)ければ、水旱(すいかん)に備(そな)ふるに足(た)らず、家(いへ)に一年(いちねん)の服(ふく)無(な)ければ、寒暑(かんしょ)を御(ふせ)ぐに足(た)らず。然(しか)るに莫(な)くんばあらず、犢(こうし)を帶(お)び牛(うし)を佩(お)び、堅(けん)を棄(す)てて偽(ぎ)に就(つ)く。什一(じゅういち)の利(り)を求(もと)めて、農桑(のうそう)の基(もとゐ)を廢(はい)す。一人(いちにん)耕(たがや)して百人(ひゃくにん)食(しょく)するを以(も)ってすれば、其(そ)の害(がい)為(た)るや、秋螟(しゅうめい)よりも甚(はなは)だし。禁(きん)じて浮華(ふか)を絶(た)ち、耕織(こうしょく)を勸課(かんか)し、人(ひと)をして其(そ)の本(もと)に還(かへ)らしめ、俗(ぞく)をして其(そ)の真(しん)に反(かへ)らしむるに若(し)くは莫(な)し。則(すなは)ち競(きそ)ひて仁義(じんぎ)の心(こころ)を懷(いだ)き、永(なが)く貪殘(たんざん)の路(みち)を絶(た)つ。此(こ)れ務農(むのう)の本(もと)なり。斯(こ)の二者(にしゃ)は、制俗(せいぞく)の機(き)なり。
-
呂氏春秋・上農②后稷曰く、「耕織を務むる所以の者は、以て本教と為せばなり。」是の故に天子親ら諸侯を率いて帝籍田に耕し、大夫・士皆功業有り。是の故に時の務に當りてや、農の國に見えざるは、以て民に地產を尊ぶを教うればなり。后妃は九嬪を率いて郊に蠶し、公田に桑す。是を以て春秋冬夏皆麻枲絲繭の功有るは、以て婦教を力むればなり。是の故に丈夫は織らずして衣、婦人は耕さずして食し、男女功を貿えて以て長生す。此れ聖人の制なり。故に時を敬しみ日を愛し、老ゆるに非ざれば休まず、疾むに非ざれば息わず、死するに非ざれば舍かず。
-
『淮南子』齊俗訓治國の道は、上に苛令無く、官に煩治無く、士に偽行無く、工に淫巧無し。其の事は經にして擾さず、其の器は完くして飾らず。亂世は則ち然らず。行を為す者は相い揭ぐるに高を以てし、禮を為す者は相い矜るに偽を以てす。車輿は雕琢を極め、器用は刻鏤を逐い、貨を求むる者は得難きを爭いて以て寶と為し、文を詆る者は煩撓に處りて以て慧と為す。爭いて佹辯を為し、久しく稽えて訣せず、治に益無し。工は奇器を為り、歲を歷て而る後に成るも、用に周からず。故に神農の法に曰く、「丈夫 丁壯にして耕さざれば、天下に其の飢を受くる者有り。婦人 年に當たりて織らざれば、天下に其の寒を受くる者有り」と。故に身自ら耕し、妻 親ら織り、以て天下の先と為る。其の民を導くや、得難きの貨を貴ばず、無用の物を器とせず。是の故に其の耕 強めざる者は、以て生を養う無く、其の織 強めざる者は、以て形を揜う無し。餘り有ると足らざるとは、各々其の身に歸す。
-
『塩鉄論』園池篇文學曰く、古者は、地を制して以て民を養うに足り、民は以て其の上を承くるに足る。千乘の國、百里の地、公・侯・伯・子・男、各々其の求めを充たし其の欲を贍す。秦は萬國の地を兼ね、四海の富有るも、意贍らず、宇小にして用菲きに非ず、嗜欲多くして下其の求めに堪えざればなり。語に曰く、『廚に腐肉有りて、國に饑民有り、廄に肥馬有りて、路に餧人有り』と。今狗馬の養い、蟲獸の食は、豈に特だ腐肉肥馬の費のみならんや。無用の官、不急の作、淫侈の變に服し、功無くして縣官に衣食する者眾し、是を以て上足らずして下困乏するなり。今其の本を減除せずして其の末を贍さんと欲す、機利を設け、田畜を造り、百姓と薦草を爭い、商賈と市利を爭う、明主の德を明らかにして國家を相くる所以に非ざるなり。夫れ男は耕し女は績むは、天下の大業なり。故に古者は地を分かちて之に處らしめ、田畝を制して之を事とせしむ。是を以て業に食らわざるの地無く、國に作すに乏しきの民無し。今縣官の多く苑囿・公田・池澤を張るは、公家に鄣假の名有りて、利は權家に歸す。三輔は山・河に迫近し、地狹く人眾く、四方並び湊まる、粟米薪菜、相い贍す能わず。公田は轉た假せられ、桑榆菜果は殖えず、地力盡きず。愚以為えらく非なり、と。先帝の開ける苑囿・池は、賦して之を民に歸し、縣官は租稅するのみなるべし。假と稅と名を殊にするも、其の實は一なり。夫れ是くの如くんば、匹夫の力は、南畝に盡き、匹婦の力は、麻枲に盡きん。田野辟け、麻枲治まれば、則ち上下俱に衍かなり、何の困乏か之れ有らん。/大夫默然として、其の丞相・御史を視る。
-
『塩鉄論』通有篇文學曰く、孟子云う、『農時に違わざれば、穀は勝げて食らうべからず。蠶麻時を以てすれば、布帛は勝げて衣るべからざるなり。斧斤時を以てすれば、材木は勝げて用うべからず。田漁時を以てすれば、魚肉は勝げて食らうべからず』と。若し則ち宮室を飾り、臺榭を增し、梓匠は巨を斲りて小と為し、圓を以て方と為し、上は雲氣を成し、下は山林を成さば、則ち材木は用に足らざるなり。男子は本を去りて末を為し、文を雕り鏤を刻み、以て禽獸に象り、物を窮め變を究めば、則ち穀は食らうに足らざるなり。婦女は微を飾り細を治め、以て文章を成し、伎を極め巧を盡くさば、則ち絲布は衣るに足らざるなり。庖宰は胎卵を烹殺し、煎炙齊和して、五味を窮極せば、則ち魚肉は食らうに足らざるなり。當今の世、禽獸の損ぜず、材木の勝げざるを患うるに非ず、僭侈の窮まり無きを患うるなり、旃罽橘柚の無きを患うるに非ず、狹廬糠糟の無きを患うるなり。