智囊 / 知微・智過・絺疵
智伯曰:「破趙而三分其地,又封二子者各萬家之縣一,則吾所得者少,不可。」智過見君之不用也,言之不聽,出更其姓為輔氏,遂去不見。〔張孟談邊批:正是智過對手。〕聞之,入見襄子曰:「臣遇智過於轅門之外,其視有疑臣之心;入見智伯,出更其姓。今暮不擊,必後之矣。」襄子曰:「諾。」使張孟談見韓、魏之君,夜期,殺守堤之吏,而決水灌智伯軍。智伯軍救水而亂,韓,魏翼而擊之。襄子將卒犯其前,大敗智伯軍而擒智伯。智伯身死,國亡,地分,智氏盡滅,唯輔氏存焉。〔馮述評〕按《綱目》,智果更姓,在智宣子立瑤為後之時,謂瑤「多才而不仁,必滅智宗」,其知更早。
新字:智伯曰:「破趙而三分其地,又封二子者各万家之県一,則吾所得者少,不可。」智過見君之不用也,言之不聴,出更其姓為輔氏,遂去不見。〔張孟談辺批:正是智過対手。〕聞之,入見襄子曰:「臣遇智過於轅門之外,其視有疑臣之心;入見智伯,出更其姓。今暮不撃,必後之矣。」襄子曰:「諾。」使張孟談見韓、魏之君,夜期,殺守堤之吏,而決水灌智伯軍。智伯軍救水而乱,韓,魏翼而撃之。襄子将卒犯其前,大敗智伯軍而擒智伯。智伯身死,国亡,地分,智氏尽滅,唯輔氏存焉。〔馮述評〕按《綱目》,智果更姓,在智宣子立瑤為後之時,謂瑤「多才而不仁,必滅智宗」,其知更早。
書き下し
智伯は曰く、「趙を破って其の地を三分し、また二子に各々万家の県一つを封ずれば、吾の得る所は少なくなる。不可である」と。智過は君の用いぬこと、言が聴かれぬことを見て、出て姓を更めて輔氏となり、遂に去って見えなかった。〔張孟談の辺批に、正に智過の対手である。〕張孟談は聞いて、入って襄子に見え、曰く、「臣は智過に轅門の外で遇いましたが、その視る目には臣を疑う心が有りました。入って智伯に見え、出て姓を更めました。今暮に撃たなければ、必ず後れます」と。襄子は曰く、「諾」と。張孟談を使って韓・魏の君に見えさせ、夜に期して、守堤の吏を殺し、水を決して智伯の軍を灌いだ。智伯の軍は水を救って乱れ、韓・魏は翼して撃った。襄子は卒を将いて其の前を犯し、大いに智伯の軍を敗り、智伯を擒えた。智伯は身は死し、国は亡び、地は分かれ、智氏は尽く滅び、唯だ輔氏が存した。〔馮述評〕《綱目》に按ずるに、智果が姓を更めたのは、智宣子が瑤を立てて後とした時にあり、瑤を「才多くして不仁、必ず智宗を滅ぼす」と謂った。その知は更に早い。
現代語訳
智伯は言った。「趙を破ってその土地を三つに分け、さらに二人に一万戸の県を封じたら、私の取り分は少なくなる。それはできない」。智過は主君が自分の意見を採用せず、言葉も聞き入れられないのを見て、退出して姓を改めて輔氏となり、そのまま去って二度と姿を見せなかった。〔張孟談の欄外の批評に、まさに智過の好敵手とある。〕張孟談はこれを聞いて、趙襄子に会い、言った。「私は智過に軍門の外で出会いましたが、その視線には私を疑う心がありました。入って智伯に会い、出て姓を改めました。今夜撃たなければ、必ず間に合わなくなります」。襄子は言った。「よし」。張孟談を遣わして韓と魏の君主に会わせ、夜に期日を決めて、堤を守る役人を殺し、水を切って智伯の軍に浴びせた。智伯の軍は水の対処で乱れ、韓と魏は両翼から攻撃した。襄子は兵を率いて正面から攻め、智伯の軍を大いに破り、智伯を捕らえた。智伯は身は死に、国は亡び、土地は分けられ、智氏は残らず滅び、ただ輔氏だけが残った。〔馮夢龍の評〕『資治通鑑綱目』によると、智果が姓を改めたのは、智宣子が瑤を跡継ぎに立てたときで、瑤について「才能は多いが不仁であり、必ず智氏の宗家を滅ぼす」と言った。その見通しはさらに早かった。
解説
この章句が説くこと
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『韓非子』解老第二十禍は足るを知らざるより大なるは莫し。
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『淮南子』人間訓智伯 地を魏の宣子に求む。宣子 之に與うるを欲せず。任登曰く「智伯の強きこと、威 天下に行わる。地を求めて與えざるは、是れ諸侯の爲に先ず禍を受くるなり。之に與うるに若かず」と。宣子曰く「地を求めて已まざれば、之を爲すこと奈何」と。任登曰く「之に與えて、喜ばしめば、必ず將に復た地を諸侯に求めんとす。諸侯 必ず耳を植てん。天下と心を同じくして之を圖らば、一心の得る所の者は、直だ吾が亡う所のみに非ざるなり」と。魏の宣子 地を裂きて之に授く。又た地を韓の康子に求む。韓の康子 敢えて予えずんばあらず。諸侯 皆な恐る。又た地を趙の襄子に求む。襄子 與えず。是に於いて智伯 乃ち韓・魏を從えて襄子を晉陽に圍む。三國 謀を通じ、智伯を禽えて其の國を三分す。此れ所謂 人を奪いて反って人の奪う所と爲る者なり。
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戦国策・知伯帥趙韓魏而伐范中行氏知伯、趙・韓・魏を帥いて范中行氏を伐ち、之を滅ぼす。休すること數年、人をして地を韓に請わしむ。韓康子與えんと欲せず、段䂓諫めて曰く、「不可なり。夫れ知伯の人と爲りや、利を好みて鷙復なり、來りて地を請いて與えずんば、必ず兵を韓に加えん。君其れ之に與えよ。之に與うれば彼狃れて、又將に地を他國に請わんとす、他國聽かずんば、必ず之に鄉うに兵を以てせん。然らば則ち韓は以て患難を免れて、事の變を待つ可し。」康子曰く、「善し。」使者をして萬家の邑一を知伯に致さしむ。知伯說び、又人をして地を魏に請わしむ。魏宣子與えんと欲せず。趙葭諫めて曰く、「彼地を韓に請い、韓之に與う。地を魏に請いて、魏與えずんば、則ち是れ魏內自ら強くして、外知伯を怒らすなり。然らば則ち其の兵を魏に錯くこと必せり。之に與うるに如かず。」宣子曰く、「諾。」因りて人をして萬家の邑一を知伯に致さしむ。知伯說び、又人をして趙に之かしめ、蔡・皋狼の地を請わしむ。趙襄子與えず。知伯因りて陰かに韓・魏を結び、將に以て趙を伐たんとす。趙襄子張孟談を召して之に告げて曰く、「夫れ知伯の人と爲り、陽には親しみて陰には疏んず、三たび韓・魏に使いして、寡人與からず、其の兵を移すこと寡人に必せん。今吾安くにか居りて可ならん。」張孟談曰く、「夫れ董閼安于は簡主の才臣なり、世々晉陽を治め、尹澤之に循う、其の餘の政教猶お存す、君其れ晉陽に居を定めよ。」君曰く、「諾。」乃ち延陵王をして車騎を將いて先に晉陽に之かしめ、君因りて之に從う。至りて、城郭を行り、府庫を案じ、倉廩を視、張孟談を召して曰く、「吾が城郭の完きこと、府庫の用に足ること、倉廩の實つること、矢無きは奈何せん。」張孟談曰く、「臣聞く、董子の晉陽を治むるや、公宮の垣、皆狄蒿苫楚を以て之を廧す、其の高さ丈餘に至る、君發して之を用いよ。」是に於て發して之を試むるに、其の堅きこと則ち箘簬の勁も過ぐる能わず。君曰く、「足れり、吾が銅少きこと若何せん。」張孟談曰く、「臣聞く、董子の晉陽を治むるや、公宮の室、皆鍊銅を以て柱質と爲す、請う發して之を用いば、則ち餘銅有らん。」君曰く、「善し。」號令以て定まり、備守以て具わる。三國の兵晉陽の城に乘り、遂に戰う。三月拔く能わず、因りて軍を舒べて之を圍み、晉水を決して之に灌ぐ。晉陽を圍むこと三年、城中巢居して處り、釜を懸けて炊ぎ、財食將に盡きんとし、士卒病み羸る。襄子張孟談に謂いて曰く、「糧食匱しく、城力盡き、士大夫病めり、吾守る能わず。城を以て下らんと欲す、何如。」張孟談曰く、「臣之を聞く、亡びて存する能わず、危うくして安んずる能わずんば、則ち知士を貴ぶ爲し無きなり。君此の計を釋てて、復言うこと勿かれ。臣請う韓・魏の君に見えん。」襄子曰く、「諾。」張孟談是に於て陰かに韓・魏の君に見えて曰く、「臣聞く、脣亡ぶれば則ち齒寒しと、今知伯二國の君を帥いて趙を伐つ、趙將に亡びんとす、亡ぶれば則ち二君之に次たらん。」二君曰く、「我其の然るを知る。夫れ知伯の人と爲り、麁中にして親しむこと少なし、我が謀未だ遂げずして知られなば、則ち其の禍必ず至らん、之を奈何せん。」張孟談曰く、「謀は二君の口より出でて、臣の耳に入る、人之を知る莫きなり。」二君即ち張孟談と陰かに三軍を約し、之と期して曰く、夜、遣りて晉陽に入らしめんと。張孟談以て襄子に報ず、襄子之に再拜す。張孟談因りて知伯に朝して出で、知過に轅門の外に遇う。知過入りて知伯に見えて曰く、「二主殆ど將に變有らんとす。」君曰く、「何如。」對えて曰く、「臣張孟談に轅門の外に遇う、其の志矜り、其の行高し。」知伯曰く、「然らず。吾二主と約すること謹めり、趙を破りて其の地を三分せば、寡人之を親しむ所なり、必ず欺かざらん。子之を釋てて、口より出だすこと勿かれ。」知過出でて二主に見え、入りて知伯に說きて曰く、「二主色動きて意變ず、必ず君に背かん、之を殺さしむるに如かず。」知伯曰く、「兵晉陽に箸くこと三年なり、旦暮に當に之を拔きて其の利を饗くべし、乃ち他心有らんや。不可なり、子愼みて復言うこと勿かれ。」知過曰く、「殺さずんば則ち遂に之に親しめ。」知伯曰く、「之に親しむこと奈何せん。」知過曰く、「魏宣子の謀臣を趙葭と曰い、康子の謀臣を段䂓と曰う、是れ皆能く其の君の計を移す。君其れ二君と約し、趙を破らば二子なる者を封ずるに各々萬家の縣一を以てせよ、是の如くんば則ち二主の心變ぜざる可くして、君其の欲する所を得ん。」知伯曰く、「趙を破りて其の地を三分し、又二子なる者を封ずるに各々萬家の縣一を以てせば、則ち吾が得る所少なし、不可なり。」知過君の用いざるを見るや、言いて聽かれず、出でて其の姓を更めて輔氏と爲し、遂に去りて見えず。張孟談之を聞き、入りて襄子に見えて曰く、「臣知過に轅門の外に遇う、其の視るに臣を疑うの心有り、入りて知伯に見え、出でて其の姓を更む。今暮撃たずんば、必ず之に後れん。」襄子曰く、「諾。」張孟談をして韓・魏の君に見えしめて曰く、「夜堤を守るの吏を殺すことを期し、水を決して知伯の軍に灌がん。」知伯の軍水を救いて亂れ、韓・魏翼にして之を撃ち、襄子將卒其の前を犯し、大いに知伯の軍を敗りて知伯を禽う。知伯身死し、國亡び地分たれ、天下の笑いと爲る、此れ貪欲厭くこと無ければなり。夫れ知過に聽かざる、亦亡ぶる所以なり。知氏盡く滅び、唯輔氏のみ存す。
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『智囊』知微・智過・絺疵張孟談が朝して智伯に因って出ると、智過に轅門の外で遇った。智過は入って智伯に見え、曰く、「二主は殆ど変有るのではありませんか」と。君は曰く、「どういうことか」と。対えて曰く、「臣は孟談に轅門の外で遇いましたが、その志は矜り、その行いは高うございました」と。智伯は曰く、「そうではない。吾は二主と約すること謹んでいる。趙を破れば、その地を三分する、必ず欺かない。子は口に出すな」と。智過は出て二主に見え、入って智伯に説いた、「二主は色が動き意が変わっております、必ず君に背きましょう。今これを殺すに如かず」と。智伯は曰く、「兵が晋陽に着いて三年になる。旦暮に当に抜いてその利を饗けようとするのに、他心が有るなど、あってはならない。子は慎んで復た言うな」と。智過は曰く、「殺さなければ、遂にこれに親しむべきです」と。智伯は曰く、「これに親しむとはどうするのか」と。智過は曰く、「魏桓子の謀臣は趙葭といい、韓康子の謀臣は段規といい、この者らは皆その君の計を移すことができます。君は二君と約され、趙を破れば、二子に各々万家の県一つを封ずると。かくすれば二主の心は変わらずにすみ、君は欲する所を得られます」と。
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『智囊』知微・智過・絺疵智伯が水を行くと、魏桓子と韓康子が驂乗した。智伯は曰く、「吾は今に及んで初めて水が以て人の国を亡ぼし得ることを知った」と。桓子は康子を肘で突き、康子は桓子の跗を履んだ。汾水は以て安邑に灌ぐことができ、絳水は以て平陽に灌ぐことができるからである。絺疵は智伯に謂った、「韓・魏は必ず反きましょう」と。智伯は曰く、「子はなぜそれを知るのか」と。対えて曰く、「人事を以て知ります。そもそも韓・魏に従って趙を攻めるのに、趙が亡べば、難は必ず韓・魏に及びます。今、約して趙に勝って其の地を三分するとし、城の降る日も近いのに、二子には喜ぶ志が無く、憂色が有ります。これが反するのでなければ何でしょうか」と。明日、智伯はその言を二子に告げた。二子は曰く、「これは讒臣が趙氏のために游説し、二家を疑わせて趙を攻めることを懈らせようとするものです。さもなければ、二家は朝夕に趙氏の田を分けて利を得られるのに、どうしてこの危難にして成るべからざることをしようとしましょうか」と。二子が出ると、絺疵は入って曰く、「主はなぜ臣の言を二子に告げたのですか」と。智伯は曰く、「子はなぜそれを知るのか」と。対えて曰く、「臣が見るに、その視ること端しくして疾く趨りました。臣が其の情を得たと知った故です」と。
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『韓非子』十過第十然りと雖も、知伯の人と為りや、麤中にして親しむこと少なし。我謀りて覚らるれば、則ち其の禍必ず至らん。之を為すこと奈何せん」と。張孟談曰く、「謀は二君の口より出でて臣の耳に入る、人之を知る莫きなり」と。二君因りて張孟談と三軍の反を約し、之と日を期す。夜孟談を遣はして晋陽に入れ、以て二君の反を報ず。襄子孟談を迎へて之を再拝し、且つ恐れ且つ喜ぶ。二君約を以て張孟談を遣はし、因りて知伯に朝して出で、智過に轅門の外に遇ふ。智過其の色を怪しみ、因りて入りて知伯に見えて曰く、「二君の貌将に変有らんとす」と。君曰く、「何如」と。「其の行ひ矜にして意高く、他時の節に非ざるなり、君先んずるに如かず」と。君曰く、「吾二主と約すること謹めり、趙を破りて其の地を三分せんとす、寡人の之を親しむ所以なり、必ず侵欺せず。兵の晋陽に著くこと三年、今旦暮に将に之を抜きて其の利を嚮けんとす、何ぞ乃ち将に他心有らんや。必ず然らず。子釈きて憂ふる勿かれ、口に出だす勿かれ」と。明旦、二主又朝して出で、復た智過に轅門に見ゆ。智過入り見えて曰く、「君臣の言を以て二主に告げしか」と。君曰く、「何を以て之を知る」と。曰く、「今日二主朝して出で、臣を見て其の色動き、而して臣を視属す。此れ必ず変有らん、君之を殺すに如かず」と。君曰く、「子置きて復た言ふ勿かれ」と。智過曰く、「不可なり、必ず之を殺せ。若し殺すこと能はずんば、遂に之を親しめ」と。君曰く、「之を親しむこと奈何」と。智過曰く、「魏の宣子の謀臣を趙葭と曰ひ、韓の康子の謀臣を段規と曰ふ、此れ皆能く其の君の計を移す。君其れ二君と約し、趙国を破らば、因りて二子の者を封ずること各々万家の県一とせよ。是くの如くんば、則ち二主の心以て変ずる無かるべし」と。知伯曰く、「趙を破りて其の地を三分し、又二子の者を封ずること各々万家の県一とせば、則ち吾が得る所の者少なし。不可なり」と。
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