茶の本 / 第七章 茶の宗匠・最後の茶の湯
利休が自己犠牲をすることに定められた日に、彼はおもなる門人を最後の茶の湯に招いた。客は悲しげに定刻待合に集まった。庭径をながむれば樹木も戦慄するように思われ、木の葉のさらさらとそよぐ音にも、家なき亡者の私語が聞こえる。地獄の門前にいるまじめくさった番兵のように、灰色の燈籠が立っている。珍香の香が一時に茶室から浮動して来る。それは客にはいれとつげる招きである。一人ずつ進み出ておのおのその席につく。床の間には掛け物がかかっている、それは昔ある僧の手になった不思議な書であって浮世のはかなさをかいたものである。火鉢にかかって沸いている茶釜の音には、ゆく夏を惜しみ悲痛な思いを鳴いている蝉の声がする。やがて主人が室に入る。
新字:利休が自己犠牲をすることに定められた日に、彼はおもなる門人を最後の茶の湯に招いた。客は悲しげに定刻待合に集まった。庭径をながむれば樹木も戦慄するように思われ、木の葉のさらさらとそよぐ音にも、家なき亡者の私語が聞こえる。地獄の門前にいるまじめくさった番兵のように、灰色の灯籠が立っている。珍香の香が一時に茶室から浮動して来る。それは客にはいれとつげる招きである。一人ずつ進み出ておのおのその席につく。床の間には掛け物がかかっている、それは昔ある僧の手になった不思議な書であって浮世のはかなさをかいたものである。火鉢にかかって沸いている茶釜の音には、ゆく夏を惜しみ悲痛な思いを鳴いている蝉の声がする。やがて主人が室に入る。
書き下し
利休が自己犠牲をすることに定められた日に、彼はおもなる門人を最後の茶の湯に招いた。客は悲しげに定刻待合に集まった。庭径をながむれば、樹木も戦慄するように思われ、木の葉のさらさらとそよぐ音にも、家なき亡者の私語が聞こえる。地獄の門前にいるまじめくさった番兵のように、灰色の燈籠が立っている。珍香の香が一時に茶室から浮動して来る。それは客にはいれとつげる招きである。一人ずつ進み出て、おのおのその席につく。床の間には掛け物がかかっている、それは昔ある僧の手になった不思議な書であって、浮世のはかなさをかいたものである。火鉢にかかって沸いている茶釜の音には、ゆく夏を惜しみ悲痛な思いを鳴いている蝉の声がする。やがて主人が室に入る。
現代語訳
利休が自ら命を絶つことに定められた日、彼は主な門人を最後の茶の湯に招きました。客は悲しげに定刻に待合に集まりました。庭の小道を眺めれば樹木も震えるように思われ、木の葉がさらさらとそよぐ音にも、家なき亡者のささやきが聞こえます。地獄の門前にいる真面目くさった番兵のように、灰色の燈籠が立っています。珍しい香の匂いが一時に茶室から漂ってきます。それは客に入れと告げる招きです。一人ずつ進み出て、それぞれ席につきます。床の間には掛け物が掛かっています。それは昔ある僧の手になった不思議な書で、浮世のはかなさを書いたものです。火鉢にかかって沸いている茶釜の音には、行く夏を惜しんで悲痛な思いを鳴く蝉の声がします。やがて主人が部屋に入ります。
解説

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