茶の本 / 第四章 茶室・花ももみじもなかりけり
見渡せば花ももみじもなかりけり浦のとまやの秋の夕暮れ(二九)その他小堀遠州のような人々はまた別の効果を求めた。遠州は庭径の着想は次の句の中にあると言った。夕月夜海すこしある木の間かな(三〇)彼の意味を推測するのは難くない。彼は、影のような過去の夢の中になおさまよいながらも、やわらかい霊光の無我の境地に浸って、渺茫たるかなたに横たわる自由をあこがれる新たに目ざめた心境をおこそうと思った。
書き下し
見渡せば花ももみじもなかりけり浦のとまやの秋の夕暮れ。その他、小堀遠州のような人々はまた別の効果を求めた。遠州は庭径の着想は次の句のなかにあると言った。夕月夜海すこしある木の間かな。彼の意味を推測するのは難くない。彼は、影のような過去の夢のなかになおさまよいながらも、やわらかい霊光の無我の境地に浸って、渺茫たるかなたに横たわる自由をあこがれる、新たに目ざめた心境をおこそうと思った。
現代語訳
見渡せば花も紅葉もないのだった。入り江の苫屋の秋の夕暮れよ。一方、小堀遠州のような人々はまた別の効果を求めました。遠州は庭の小道の着想は次の句の中にあると言いました。夕月の夜、海が少し見える木の間かな。彼の意味を推し量るのは難しくありません。彼は、影のような過去の夢の中をなおさまよいながらも、やわらかい霊光の無我の境地に浸り、はるか彼方に横たわる自由に憧れる、新たに目覚めた心境を起こそうとしたのです。
解説
二人の茶人が、それぞれ一首を掲げて露地の理想を示します。利休が引いたのは藤原定家の歌で、花も紅葉もない、何もない秋の夕暮れ。完全な静けさです。遠州が引いたのは、木の間から海が少し見える夕月夜。こちらには開けていく感じがあります。同じ露地でも、閉じる方向と開く方向がある。歌を一首示すだけで設計方針が伝わるという、共通の教養に支えられた伝達の仕方です。
この章句が説くこと
露地和歌静寂開放方針
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