茶の本 / 第二章 茶の諸流・陸羽と茶経
茶をその粗野な状態から脱して理想の域に達せしめるには、実に唐朝の時代精神を要した。八世紀の中葉に出た陸羽(三)をもって茶道の鼻祖とする。かれは、仏、道、儒教が互いに混淆せんとしている時代に生まれた。その時代の汎神論的象徴主義に促されて、人は特殊の物の中に万有の反映を見るようになった。詩人陸羽は、茶の湯に万有を支配しているものと同一の調和と秩序を認めた。彼はその有名な著作茶経(茶の聖典)において、茶道を組織立てたのである。爾来彼は、シナの茶をひさぐ者の保護神としてあがめられている。
書き下し
茶をその粗野な状態から脱して理想の域に達せしめるには、実に唐朝の時代精神を要した。八世紀の中葉に出た陸羽をもって茶道の鼻祖とする。かれは、仏、道、儒教が互いに混淆せんとしている時代に生まれた。その時代の汎神論的象徴主義に促されて、人は特殊の物のなかに万有の反映を見るようになった。詩人陸羽は、茶の湯に万有を支配しているものと同一の調和と秩序を認めた。彼はその有名な著作『茶経』において、茶道を組織立てたのである。爾来彼は、シナの茶をひさぐ者の保護神としてあがめられている。
現代語訳
茶を粗野な状態から脱して理想の域に達させるには、まさに唐の時代精神が必要でした。八世紀の半ばに出た陸羽をもって茶道の始祖とします。彼は、仏教、道教、儒教が互いに混じり合おうとしている時代に生まれました。その時代の汎神論的な象徴主義に促されて、人は個々の物の中に万物の反映を見るようになりました。詩人である陸羽は、茶の湯に万物を支配しているのと同じ調和と秩序を認めました。彼は有名な著作『茶経』において茶道を体系立てたのです。以来彼は、中国で茶を商う者の守り神として崇められています。
解説
雑多な飲み物が体系になった瞬間が語られます。鍵は、一杯の茶の中に宇宙と同じ秩序を見る、という発想の飛躍です。個別の物に万物が映るという当時の思想があったからこそ、茶をたてる手つきが宇宙の縮図になりえた。体系を作った人が商人の守り神になったという結びも味わい深く、思想が生業を支えるようになった経緯を示しています。師導には道家の書として『老子』『荘子』『列子』も収めており、その世界観がここにつながります。
この章句が説くこと
陸羽茶経体系秩序宇宙
関連する章句
-
説苑・奉使晉楚の君相與に好會を宛丘の上に爲す。宋人をして往かしむ。晉楚の大夫曰く、「趣かに天子の禮を以て吾が君に見えよ、我子の爲に見えん。」使者曰く、「冠弊ると雖も、宜しく其の上に加うべし。履新たなりと雖も、宜しく其の下に居るべし。周室微なりと雖も、諸侯未だ之を易うる能わざるなり。師宋城に升るとも、猶お臣の服を更めざるなり。」揖して之を去る。諸大夫瞿然とし、遂に諸侯の禮を以て之に見ゆ。
-
論語・八佾篇子曰く、『夷狄の君有るは、諸夏の亡きに如かず。』
-
尚書・盤庚上網の綱に在るが若く、条有りて紊れず。
-
人物志・流業是を主道得られて臣道序すと謂い、官方を易えずして、太平用て成る。
-
尉繚子・制談凡そ兵制は必ず先ず制を定む、先ず定まれば則ち士亂れず、士亂れざれば則ち刑乃ち明らかなり。
-
尚書・畢命道は政治に洽く、澤は生民を潤す。