茶の本 / 第一章 人情の碗・女媧が天を建て直した
道教徒はいう、「無始」の始めにおいて「心」と「物」が決死の争闘をした。ついに大日輪黄帝は闇と地の邪神祝融に打ち勝った。その巨人は死苦のあまり頭を天涯に打ちつけ、硬玉の青天を粉砕した。星はその場所を失い、月は夜の寂寞たる天空をあてもなくさまようた。失望のあまり黄帝は、遠く広く天の修理者を求めた。捜し求めたかいはあって東方の海から女媧という女皇、角をいただき竜尾をそなえ、火の甲冑をまとって燦然たる姿で現われた。その神は不思議な大釜に五色の虹を焼き出し、シナの天を建て直した。しかしながら、また女媧は蒼天にある二個の小隙を埋めることを忘れたと言われている。かくのごとくして愛の二元論が始まった。すなわち二個の霊は空間を流転してとどまることを知らず、ついに合して始めて完全な宇宙をなす。人はおのおの希望と平和の天空を新たに建て直さなければならぬ。
書き下し
道教徒はいう、「無始」の始めにおいて「心」と「物」が決死の争闘をした。ついに大日輪黄帝は、闇と地の邪神祝融に打ち勝った。その巨人は死苦のあまり頭を天涯に打ちつけ、硬玉の青天を粉砕した。星はその場所を失い、月は夜の寂寞たる天空をあてもなくさまようた。失望のあまり黄帝は、遠く広く天の修理者を求めた。捜し求めたかいはあって、東方の海から女媧という女皇、角をいただき竜尾をそなえ、火の甲冑をまとって燦然たる姿で現われた。その神は不思議な大釜に五色の虹を焼き出し、シナの天を建て直した。しかしながら、また女媧は蒼天にある二個の小隙を埋めることを忘れたと言われている。かくのごとくして愛の二元論が始まった。すなわち二個の霊は空間を流転してとどまることを知らず、ついに合して始めて完全な宇宙をなす。人はおのおの希望と平和の天空を新たに建て直さなければならぬ。
現代語訳
道教徒は言います。始まりのない始まりにおいて、心と物が決死の闘いをした。ついに大いなる太陽の黄帝が、闇と地の邪神である祝融に打ち勝った。その巨人は死の苦しみのあまり頭を天の果てに打ちつけ、硬玉のような青い天を粉砕した。星はその場所を失い、月は夜の寂しい空をあてもなくさまよった。失望した黄帝は、遠く広く天を修理する者を求めた。捜し求めた甲斐あって、東の海から女媧という女帝が、角をいただき竜の尾を備え、火の甲冑をまとって燦然と現れた。この神は不思議な大釜で五色の虹を焼き出し、中国の天を建て直した。しかし女媧は、青い天にある二つの小さな隙間を埋めるのを忘れたと言われています。こうして愛の二元論が始まった。すなわち二つの霊は空間をさまよって止まることを知らず、ついに合わさって初めて完全な宇宙をなす。人はそれぞれ、希望と平和の天空を新たに建て直さなければなりません。
解説
この章句が説くこと
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『列子』湯問篇然らば則ち天地も亦た物なり。物に足らざる有り。故に昔者女媧氏五色の石を練りて以て其の闕を補い、鼇の足を斷ちて以て四極を立つ。其の後共工氏顓頊と帝爲らんことを爭い、怒りて不周の山に觸れ、天柱を折り、地維を絕つ。故に天は西北に傾き、日月辰星焉に就く。地は東南に滿たず、故に百川水潦焉に歸す。
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『淮南子』覽冥訓往古の時、四極廢れ、九州裂け、天 兼ね覆わず、地 周く載せず、火 爁炎して滅せず、水 浩洋として息まず、猛獸 顓民を食らい、鷙鳥 老弱を攫う。是に於いて女媧 五色の石を煉りて以て蒼天を補い、鼇の足を斷ちて以て四極を立つ。黑龍を殺して以て冀州を濟い、蘆灰を積みて以て淫水を止む。蒼天補われ、四極正しく、淫水涸れ、冀州平らかに、狡蟲死し、顓民生く。方州を背にし、圓天を抱き、春陽を和し夏を殺し、秋を約し冬を枕にし、方に寢ね繩に寢ぬ。陰陽の壅沈して通ぜざる所の者は、竅ちて之を理め、氣に逆らい物を戾し、民を傷なうこと厚く積む者は、絕ちて之を止む。此の時に當たりて、臥せば倨倨、興きれば眄眄、一は自ら以て馬と為し、一は自ら以て牛と為す。其の行くこと蹎蹎、其の視ること瞑瞑、侗然として皆な其の和を得、由りて生ずる所を知る莫し。浮游して求むる所を知らず、魍魎も往く所を知らず。此の時に當たりて、禽獸蝮蛇、其の爪牙を匿し、其の螫毒を藏し、攫噬の心有る無し。其の功烈を考うるに、上は九天に際し、下は黃壚に契り、名聲 後世に被り、光暉 萬物に重なる。雷車に乘り、應龍を服駕し、青虯を驂とし、絕瑞を援り、蘿圖を席とし、黃雲を絡とし、白螭を前にし、奔蛇を後にし、浮游消搖し、鬼神を道びき、九天に登り、帝に靈門に朝し、宓穆として太宜の下に休らう。然れども其の功を彰わさず、其の聲を揚げず、真人の道を隱して、以て天地の固然に從う。何となれば則ち、道德 上に通じて、智故 消滅すればなり。
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『茶の本』第一章 人情の碗・まあ、茶でも一口すすろう現代の人道の天空は、富と権力を得んと争う莫大な努力によって、全く粉砕せられている。世は利己、俗悪の闇に迷っている。知識は心にやましいことをして得られ、仁は実利のために行なわれている。東西両洋は、立ち騒ぐ海に投げ入れられた二竜のごとく、人生の宝玉を得ようとすれど、そのかいもない。この大荒廃を繕うために、再び女媧を必要とする。われわれは大権化の出現を待つ。まあ、茶でも一口すすろうではないか。明るい午後の日は竹林にはえ、泉水はうれしげな音をたて、松籟はわが茶釜に聞こえている。はかないことを夢に見て、美しい取りとめのないことを、あれやこれやと考えようではないか。
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『茶の本』第一章 人情の碗・茶は薬用として始まった茶は薬用として始まり、後に飲料となる。シナにおいては八世紀に、高雅な遊びの一つとして詩歌の域に達した。十五世紀に至り、日本はこれを高めて一種の審美的宗教、すなわち茶道にまで進めた。茶道は日常生活の俗事のなかに存する美しきものを崇拝することに基づく一種の儀式であって、純粋と調和、相互愛の神秘、社会秩序のローマン主義を諄々と教えるものである。茶道の要義は「不完全なもの」を崇拝するにある。いわゆる人生というこの不可解なもののうちに、何か可能なものを成就しようとするやさしい企てであるから。
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『茶の本』第一章 人情の碗・一杯のお茶でなんという騒ぎよその目には、つまらぬことをこのように騒ぎ立てるのが、実に不思議に思われるかもしれぬ。一杯のお茶でなんという騒ぎだろうというであろうが、考えてみれば、煎ずるところ人間享楽の茶碗は、いかにも狭いものではないか、いかにも早く涙であふれるではないか、無辺を求むる渇のとまらぬあまり、一息に飲みほされるではないか。してみれば、茶碗をいくらもてはやしたとて、とがめだてには及ぶまい。人間はこれよりもまだまだ悪いことをした。酒の神バッカスを崇拝するのあまり、惜しげもなく奉納をし過ぎた。軍神マーズの血なまぐさい姿をさえも理想化した。してみれば、カメリヤの女皇に身をささげ、その祭壇から流れ出る暖かい同情の流れを、心ゆくばかり楽しんでもよいではないか。象牙色の磁器にもられた液体琥珀のなかに、その道の心得ある人は、孔子の心よき沈黙、老子の奇警、釈迦牟尼の天上の香にさえ触れることができる。
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『淮南子』天文訓天は日月星辰を受け、地は水潦塵埃を受く。昔者共工と顓頊と帝爲るを爭い、怒りて不周の山に觸れ、天柱折れ、地維絕ゆ。天西北に傾く、故に日月星辰焉に移る。地東南に滿たず、故に水潦塵埃焉に歸す。天道は圓と曰い、地道は方と曰う。方なる者は幽を主り、圓なる者は明を主る。明なる者は、氣を吐く者なり、是の故に火を外景と曰う。幽なる者は、氣を含む者なり、是の故に水を内景と曰う。氣を吐く者は施し、氣を含む者は化す。是の故に陽は施し陰は化す。天の偏氣、怒る者は風と為る。地の含氣、和する者は雨と為る。