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茶の本 / 第一章 人情の碗・茶の普及も反対にあった

この世のすべてのよい物と同じく、茶の普及もまた反対にあった。ヘンリー・セイヴィル(一六七八)のような異端者は、茶を飲むことを不潔な習慣として口をきわめて非難した。ジョウナス・ハンウェイは言った。(茶の説・一七五六)茶を用いれば男は身のたけ低くなり、みめをそこない、女はその美を失うと。茶の価の高いために(一ポンド約十五シリング)初めは一般の人の消費を許さなかった。「歓待饗応用の王室御用品、王侯貴族の贈答用品」として用いられた。しかしこういう不利な立場にあるにもかかわらず、喫茶は、すばらしい勢いで広まって行った。十八世紀前半におけるロンドンのコーヒー店は、実際喫茶店となり、アディソンやスティールのような文士のつどうところとなり、茶を喫しながらかれらは退屈しのぎをしたものである。

書き下し

この世のすべてのよい物と同じく、茶の普及もまた反対にあった。ヘンリー・セイヴィルのような異端者は、茶を飲むことを不潔な習慣として口をきわめて非難した。ジョウナス・ハンウェイは言った、茶を用いれば男は身のたけ低くなり、みめをそこない、女はその美を失うと。茶の価の高いために、初めは一般の人の消費を許さなかった。「歓待饗応用の王室御用品、王侯貴族の贈答用品」として用いられた。しかしこういう不利な立場にあるにもかかわらず、喫茶はすばらしい勢いで広まって行った。十八世紀前半におけるロンドンのコーヒー店は、実際喫茶店となり、アディソンやスティールのような文士のつどうところとなり、茶を喫しながら、かれらは退屈しのぎをしたものである。

現代語訳

この世のすべてのよいものと同じく、茶の普及もまた反対に遭いました。ヘンリー・サヴィルのような異端者は、茶を飲むことを不潔な習慣として口をきわめて非難しました。ジョナス・ハンウェイは、茶を用いれば男は背が低くなり容姿を損ない、女は美しさを失う、と言いました。茶の値が高いために、初めは一般の人が消費することを許しませんでした。もてなし用の王室御用品、王侯貴族の贈答品として用いられたのです。しかしこういう不利な立場にありながら、喫茶はすばらしい勢いで広まっていきました。十八世紀前半のロンドンのコーヒー店は実際には喫茶店となり、アディソンやスティールのような文人が集まる場となって、茶を飲みながら彼らは退屈をしのいだものです。

解説

新しいものは必ず反対に遭う、という一般則が茶で例示されます。不潔だ、背が低くなる、美しさを失う。今から見ればおかしな反対論ですが、当時は真面目に唱えられました。値段の高さで最初は上流の贈答品に限られたという経緯も、新しいものが広まる道筋としてよくある形です。そして文人が集う場になった。飲み物が文化の器になる過程が、コーヒー店の変貌に示されています。

この章句が説くこと

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