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文武訓 / 武訓上

一生れつきに勇怯あり。勇に血氣の勇あり、義理の勇あり。血氣の勇は、つよきをやぶりかたきをくだく事すぐれたり。されど氣つよきのみにて義なければ、節を守らずたのもしげなし。義理の勇は、節義を守りて、大節にのぞみて義を變ぜず、たのもし。たとへば、犬にも勇犬あり義犬あり。勇犬はむかふ所はたらきつよし。されどもあら野猪出でいかれば、身を引きてのがる。義犬は、つねの時は惡性ならず、盜みせず、人をおそる。けものにむかひてはたらき勇大に及ばざれど、たけくいかれる猪にあひても逃げず。人の主君のために、節を守るが如し。

新字:一生れつきに勇怯あり。勇に血気の勇あり、義理の勇あり。血気の勇は、つよきをやぶりかたきをくだく事すぐれたり。されど気つよきのみにて義なければ、節を守らずたのもしげなし。義理の勇は、節義を守りて、大節にのぞみて義を変ぜず、たのもし。たとへば、犬にも勇犬あり義犬あり。勇犬はむかふ所はたらきつよし。されどもあら野猪出でいかれば、身を引きてのがる。義犬は、つねの時は悪性ならず、盗みせず、人をおそる。けものにむかひてはたらき勇大に及ばざれど、たけくいかれる猪にあひても逃げず。人の主君のために、節を守るが如し。

書き下し

一生れつきに勇怯あり。勇に血気の勇あり、義理の勇あり。血気の勇は、つよきをやぶりかたきをくだく事すぐれたり。されど気つよきのみにて義なければ、節を守らずたのもしげなし。義理の勇は、節義を守りて、大節にのぞみて義を変ぜず、たのもし。たとへば、犬にも勇犬あり義犬あり。勇犬はむかふ所はたらきつよし。されどもあら野猪出でいかれば、身を引きてのがる。義犬は、つねの時は悪性ならず、盗みせず、人をおそる。けものにむかひてはたらき勇大に及ばざれど、たけくいかれる猪にあひても逃げず。人の主君のために、節を守るが如し。

現代語訳

生まれつきに勇と怯があります。勇には血気の勇があり、義理の勇があります。血気の勇は、強いものを破り硬いものを砕くことに優れています。しかし気が強いだけで義がなければ、節を守らず頼りになりません。義理の勇は、節義を守って、大事に臨んでも義を変えず、頼もしいのです。たとえば犬にも勇犬があり義犬があります。勇犬は向かう所の働きが強いのです。しかし荒々しい猪が出てきて怒り狂うと、身を引いて逃げます。義犬はふだんは性悪でなく、盗みもせず、人を恐れます。獣に向かっての働きは勇犬に大いに及びませんが、猛り狂う猪に会っても逃げません。人が主君のために節を守るようなものです。

解説

勇気を「血気の勇」と「義理の勇」に分けて、後者こそ本物だと説きます。勇ましく見える犬がいざ猛獣を前にすると逃げ、ふだんおとなしい犬が最後まで踏みとどまる、という喩えが分かりやすい一節です。血気の勇は勢いがあっても、苦しい場面で節を曲げやすいのです。職場でも、威勢のいい人より、ふだんは目立たなくても困難なときに逃げずに責任を果たす人が信頼されます。本当の強さは、正しいことを守り抜く心の中にあるという教えです。

この章句が説くこと

勇義血気節義信頼

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