文武訓 / 文訓下
一わが輩の作り出せるつたなきふみは、漢字も國字もあさはかなれば、人の見るめも恥しけれど、もとより天地の御めぐみ、殊にふかくかうぶりぬれば、其萬一をむくい奉らんとするも、おほけなくてそらおそろしけれど、字を知らぬ人と、小兒のともがらのために、かゝるよしなしごとを書きつゞけ侍り。凡、人と生れては、官位の高下、財祿の多少によらず、諸人のために、益となることをつとめなすべし。もしわが名をとらんとて、人に益なきことをすゝむるは、世のたからをつひやし、人の補とならず、わが輩恥づべし。もし、民用の助にだにならば、鄙事小說をしるしあらはすとも、いやしみて益なしとすべからず。道學の名を立つる君子のそしりも恥づべからず。中華の文字をよみ、義理の學のため書を作らん事、中華の先正の說、すでに明らかにして備れり。わが輩愚不肖のつくれる書は、かへつて無用の贅言なるべし。
新字:一わが輩の作り出せるつたなきふみは、漢字も国字もあさはかなれば、人の見るめも恥しけれど、もとより天地の御めぐみ、殊にふかくかうぶりぬれば、其万一をむくい奉らんとするも、おほけなくてそらおそろしけれど、字を知らぬ人と、小児のともがらのために、かゝるよしなしごとを書きつゞけ侍り。凡、人と生れては、官位の高下、財禄の多少によらず、諸人のために、益となることをつとめなすべし。もしわが名をとらんとて、人に益なきことをすゝむるは、世のたからをつひやし、人の補とならず、わが輩恥づべし。もし、民用の助にだにならば、鄙事小説をしるしあらはすとも、いやしみて益なしとすべからず。道学の名を立つる君子のそしりも恥づべからず。中華の文字をよみ、義理の学のため書を作らん事、中華の先正の説、すでに明らかにして備れり。わが輩愚不肖のつくれる書は、かへつて無用の贅言なるべし。
書き下し
一わが輩の作り出せるつたなきふみは、漢字も国字もあさはかなれば、人の見るめも恥しけれど、もとより天地の御めぐみ、殊にふかくかうぶりぬれば、其万一をむくい奉らんとするも、おほけなくてそらおそろしけれど、字を知らぬ人と、小児のともがらのために、かかるよしなしごとを書きつづけ侍り。凡、人と生れては、官位の高下、財禄の多少によらず、諸人のために、益となることをつとめなすべし。もしわが名をとらんとて、人に益なきことをすすむるは、世のたからをつひやし、人の補とならず、わが輩恥づべし。もし、民用の助にだにならば、鄙事小説をしるしあらはすとも、いやしみて益なしとすべからず。道学の名を立つる君子のそしりも恥づべからず。中華の文字をよみ、義理の学のため書を作らん事、中華の先正の説、すでに明らかにして備れり。わが輩愚不肖のつくれる書は、かへつて無用の贅言なるべし。
現代語訳
私の作り出した拙い書物は、漢字も仮名も浅はかなので、人に見られるのも恥ずかしいのですが、もとより天地の御恵みをとくに深く受けているので、その万分の一でも報い奉ろうとするのも、身の程知らずで空恐ろしいのですが、字を知らない人や子どもたちのために、このようなとりとめのないことを書き続けています。およそ人と生まれたからには、官位の高い低い、財禄の多い少ないによらず、人々のために益となることを努めなすべきです。もし自分の名を取ろうとして、人に益のないことを勧めるのは、世の宝を費やし、人の助けにもならず、我々は恥ずべきです。もし民の暮らしの助けにさえなるなら、卑近なことや小説を記しあらわしても、卑しんで益なしとしてはいけません。道学の名を立てる君子のそしりも恥じる必要はありません。中国の文字を読み、義理の学問のために書を作ることは、中国の先儒の説がすでに明らかで備わっています。私のような愚かで不肖の者が作る書は、かえって無用の贅言でしょう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『十善法語』巻第五・不綺語戒執政大臣ノ楽ハ。上一人ヲ輔ケテ自ラ専ニセヌ。中百官ヲ率テ心常ニ謙遜ス。下万民ヲ保ンシテ共ニ太平ヲ楽ム。此位ハ人臣ノ極リ。此威勢ハ大君ニ等シ。一タヒ回顧スレハ万国色ヲ変ス。一タヒ言ヘハ率土奉行スル。徳海内ニ加ツテ自ラ其功ニ居ラス。恩禽獣ニ及ンテ其能ニホコラス。余ハ大君ノ楽ニ同スルシヤ。其楽糸竹管絃ノ及フ所ナラス。マシテ狂言綺語酒宴遊興ニ比スヘキコトテハナキシヤ。総シテ上ニ命ヲ受ル所アルヲ一ノ楽トス。天命ニ順スルシヤ。下ニ恵ム民有ヲ一ノ楽トス。人道行ハルルシヤ。天命ニ順スル故家門永ク其福ヲ受ク。人道ヲ行フ故子孫常ニ賢才徳者ヲ得ト云コトシヤ。
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『五常訓』巻之四・礼一礼は謙遜をたつとぶ。謙はへりくだる也。ほこると裏表なり。ほこるは我が才力権位功名にほこるの類なり。謙は自満せざるを云ふ。我が身に才徳権位功業あれどもほこらず。是天下の美徳なり。遜はゆづるなり。善事を君父にゆづり、人にゆづりて、自ら居らざるを云ふ。
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『呻吟語』内篇・修身・謙も禮に中らざれば損する所亦た多し或るひと問ふ、「傲は凶德と為らば、則ち謙は吉德なるか」と。曰く、「謙は真に是れ吉なり。然れども謙も禮に中らざれば、損する所亦た多し」と。上に在る者非禮の謙を為さば、則ち名份を亂し紀網を紊し、久しければ法令行はれず。下に在る者非禮の謙を為さば、則ち賤辱を取り氣節を喪ひ、久しければ廉恥地を掃ふ。君子の人に接するは未だ嘗て謹飭ならずんばあらず、身を持するは未だ嘗て正大ならずんばあらず。孔子曰く、「恭にして禮無ければ則ち勞す」と。又た曰く、「巧言令色足恭は、某も亦た之を恥づ」と。
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『夜船閑話』本文少焉、幽眼を開いて熟々視て、徐々として告げて曰く、我は是山中半死の陳人、櫨栗を拾ひ食ひ、麋鹿に伴つて睡る。此外更に何をか知らんや。自ら愧づ、遠く上人の来望を労することを、予即ち転々咨叩して休まず。
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『呻吟語』内篇・修身・損ずるは甚の體ぞ今人苦だ謙るを肯んぜず。只だ架子を拿へ得て定まり、以て體を存すと為す。夫子子張に政に從ふを告ぐるに、小大と無く眾寡と無く敢へて慢る無きを以て驕らずと為す。而して周公相と為りて、吐握して白屋に下ること甚だし。父師有道の君、知らず甚の體をか損ぜしや。若し名分の在る所ならば、自ら是れ貶損し得ず。
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『呻吟語』内篇・存心・自家の好き處は幾分を掩藏す自家の好き處は幾分を掩藏す、這れ是れ涵蓄して以て深きを養ふなり。別人の好からざる處は幾分を掩藏せんことを要す、這れ是れ渾厚にして以て大なるを養ふなり。
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