武訓 / 下・第30段
敵陣にむかつては、進むべくして進み、退くべくして退く、是、和語に、かゝるも引くもをりによるといふがごとし。戰の道、進退によき節あり。勇者は、進むべからずして進み、退くべくして退かず。是、軍法の禁ずる所なり。大過とす。進むべくして進まず、退くべからずして退くは、是、怯者のしわざなり。不及とす。これ亦軍法の禁ずる所なり。進むべからずして進み、退くべくして退かず。進むべくして進まず、退くべからずして退く。此四のものは、勇怯同じからざれども、ともに軍法に害あり。軍法にしたがひては、勇者もひとり進まず。怯者もひとり退かず。皆、力を一にするは、良將の兵なり。
新字:敵陣にむかつては、進むべくして進み、退くべくして退く、是、和語に、かゝるも引くもをりによるといふがごとし。戦の道、進退によき節あり。勇者は、進むべからずして進み、退くべくして退かず。是、軍法の禁ずる所なり。大過とす。進むべくして進まず、退くべからずして退くは、是、怯者のしわざなり。不及とす。これ亦軍法の禁ずる所なり。進むべからずして進み、退くべくして退かず。進むべくして進まず、退くべからずして退く。此四のものは、勇怯同じからざれども、ともに軍法に害あり。軍法にしたがひては、勇者もひとり進まず。怯者もひとり退かず。皆、力を一にするは、良将の兵なり。
書き下し
敵陣にむかつては、進むべくして進み、退くべくして退く、是、和語に、かゝるも引くもをりによるといふがごとし。戰の道、進退によき節あり。勇者は、進むべからずして進み、退くべくして退かず。是、軍法の禁ずる所なり。大過とす。進むべくして進まず、退くべからずして退くは、是、怯者のしわざなり。不及とす。これ亦軍法の禁ずる所なり。進むべからずして進み、退くべくして退かず。進むべくして進まず、退くべからずして退く。此四のものは、勇怯同じからざれども、ともに軍法に害あり。軍法にしたがひては、勇者もひとり進まず。怯者もひとり退かず。皆、力を一にするは、良將の兵なり。
現代語訳
敵陣に向かっては、進むべきときに進み、退くべきときに退く。これは和語に「かかるも引くも折による」というのと同じである。戦の道には、進退によい節目がある。勇者は、進むべきでないのに進み、退くべきなのに退かない。これは軍法の禁ずるところで、大過とする。進むべきなのに進まず、退くべきでないのに退くのは、臆病者のしわざで、不及とする。これもまた軍法の禁ずるところである。進むべからずして進み、退くべくして退かず。進むべくして進まず、退くべからずして退く。この四つは、勇と怯は同じでないが、ともに軍法に害がある。軍法に従えば、勇者もひとり進まず、臆病者もひとり退かない。皆が力を一つにするのが、良将の兵である。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『文武訓』武訓下一左伝に、晋の随武子が曰く、可を見て進む。難を知りて退く。軍の善政なり。凡兵を用ふるに、進も退も度あり。度を失へばやぶる。進むべからずして進み、退くべからずして退くは、度を失ふなり。進むべくして進まず、退くべくして退かず。是亦度をうしなふなり。一敵陣にむかつては、進むべくして進み、退くべくして退く、是和語に、かかるも引くも折によるといふが如し。戦の道、進退によき節あり。勇者は進むべからずして進み、退くべくして退かず。是軍法の禁ずる所なり。大過とす。進むべくして進まず、退くべからずして退くは、是怯者のしわざなり、不及とす。是亦軍法の禁ずる所なり。進むべからずして進み、退くべくして退かず、進むべくして進まず、退くべからずして退く。此四のものは勇怯同じからざれども、ともに軍法に害あり。軍法にしたがひては、勇者もひとり進まず、怯者もひとり退かず。皆力を一にするは、良将の兵なり。一かかるにはさきにすすむを勇とし、引くにはあとにおくるるを勇とす。されども進むに先にあるは猶もやすし。退くにあとにあるは甚かたし。
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『武訓』下・第28段良將の兵を用ひて戰ふには、士卒のこゝろを同じくし、力を一にして、一同に進み、一同に退かしむ。勇者も一人すゝまず、一同に、下知にしたがひて進ましむ。怯き者も獨退かしめず。退くべき時に、下知にしたがひて、一同に退かしむ。一人ぬけがけし、さきがけすれば、陣法みだれて、軍の勢わかれ、よわくなる。吳子が、ぬけがけして首を取りたる勇士を切りたるも、此の意なり。
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『慎思録』巻之六左伝に晋の随武子曰く、可を見て進み、難きを知りて退くは、軍の善政なりと。蓋し兵を用ゐるの道は、進退に度有り。度を失へば則ち不可なり。夫れ進むべからずして進み、退くべくして退かざるは、是れ勇者の事、太過と為すべし。我が国俗の貴ぶ所なり。然り而して法の禁ずる所なり。軍に利あらざるに由るなり。進むべくして進まず、退くべからずして退く者は、是れ怯者の事、不及と為すべし。国俗の賤しむ所、是れ亦法の禁ずる所にして、戦ひに利あらず。四者は勇怯同じからずと雖も、然れども兵を用ゐるに害有るは則ち一なり。
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『武訓』下・第29段左傳に、晉の隨武子が曰、見可而進、知難而退、軍之善政也。凡、兵を用ふるに、進も退も度あり。度を失へばやぶる。進むべからずして進み、進くべからずして退くは、度を失ふなり。進むべくして進まず、退くべくして退かず。是亦、度をうしなふなり。
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『武訓』下・第31段かゝるには、さきにすゝむを勇とし、引くには、あとにおくるゝを勇とす。されども、進むに先にあるは、猶もやすし。退くにあとにあるは、甚かたし。
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『文武訓』武訓下一敵と戦ふに、勝ち過しては、敵取つて返してつよく戦ふものなれば、必ずはじめの勝にて早くやめて、少し手ぬるきやうなるが後の禍なし。匹夫の寄合ひ口論するも、悪口をしすごし、人に勝ち過せば、其人堪忍せずして、つよくしかへせば、おくれを取ることあり。古の良将の兵法、大に勝たず又大に負くることなし。是良将の兵法なり。兵を知らざる将は、幸にして大に勝つことあり、又大に負くること多し。是、良将の兵を用ふる法にあらず。さきがけをするも此心得あるべし。我一人深入すれば、幸にして手がらをすることあり。又やみやみと敵にうたるること多し。
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