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墨子 / 貴義

且主君亦嘗聞湯之説乎?昔者湯将往見伊尹,令彭氏之子御,彭氏之子半道而問曰:『君将何之?』湯曰:『将往見伊尹。』彭氏之子曰:『伊尹,天下之賤人也。君若欲見之,亦令召問焉,彼受賜矣。』湯曰:『非女所知也。今有藥於此,食之則耳加聰、目加眀,則吾必説而强食之。今伊尹之於我國也,譬之良醫善藥也,而子不欲我見伊尹,是子不欲吾善也。』因下彭氏之子,不使御。彼茍然,然後可也。」

新字:且主君亦嘗聞湯之説乎?昔者湯将往見伊尹,令彭氏之子御,彭氏之子半道而問曰:『君将何之?』湯曰:『将往見伊尹。』彭氏之子曰:『伊尹,天下之賤人也。君若欲見之,亦令召問焉,彼受賜矣。』湯曰:『非女所知也。今有薬於此,食之則耳加聰、目加明,則吾必説而强食之。今伊尹之於我国也,譬之良医善薬也,而子不欲我見伊尹,是子不欲吾善也。』因下彭氏之子,不使御。彼茍然,然後可也。」

書き下し

且つ主君も亦た嘗て湯の説を聞くか。昔者、湯、将に往きて伊尹を見んとし、彭氏の子をして御せしむ。彭氏の子、半道にして問いて曰く、「君、将に何くにか之かんとする」と。湯曰く、「将に往きて伊尹を見んとす」と。彭氏の子曰く、「伊尹は天下の賤人なり。君、若し之を見んと欲せば、亦た召して焉に問わしめよ。彼れ賜を受けん」と。湯曰く、「女の知る所に非ざるなり。今、藥、此に有り。之を食らわば則ち耳、聰を加え、目、眀を加えん。則ち吾れ必ず説びて强いて之を食らわん。今、伊尹の我が國に於けるや、之を良醫善藥に譬うるなり。而るに子、我が伊尹を見んことを欲せざるは、是れ子、吾が善からんことを欲せざるなり」と。因りて彭氏の子を下し、御せしめず。彼れ茍くも然り、然る後に可なり。

現代語訳

そのうえ、あなたも湯王の話を聞いたことがあるでしょう。むかし湯王が伊尹に会いに行こうとして、彭氏の子に馬車を御させた。彭氏の子が道の半ばで尋ねた。「君はどこへ行かれるのですか」。湯王が言った。「伊尹に会いに行くのだ」。彭氏の子が言った。「伊尹は天下の賤しい者です。もし会いたいのなら、呼びつけて尋ねさせればよい。彼にとっては恩恵でしょう」。湯王が言った。「おまえの分かることではない。いまここに薬があって、飲めば耳がよく聞こえ、目がよく見えるようになるとしたら、私は喜んで無理にでも飲むだろう。いま伊尹がわが国にとってどういう存在かといえば、良医と良薬にたとえられる。それなのにおまえが私に伊尹と会わせたくないのは、私が善くなることを望まないということだ」。そして彭氏の子を降ろし、御者をやめさせた。そこまでしてはじめて、事は成るのです。

解説

賢者を招くとき、身分の順序を持ち出す側近を、湯王はその場で降ろします。呼びつければよいという助言を、私が善くなるのを望まない言葉だと言い換えたのが鋭い。人を招く姿勢そのものが、招かれる側への評価になる。人材登用の話であると同時に、脇から入る「格が下がります」という声をどう扱うかの話でもあります。体面を守る助言が、実を失わせることがあります。

この章句が説くこと

登用姿勢賢者側近身分

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