墨子 / 非命上
是故子墨子言曰:「今天下之士君子,中實欲天下之富而惡其貧,欲天下之治而惡其亂,執有命者之言,不可不非,此天下之大害也。」
新字:是故子墨子言曰:「今天下之士君子,中実欲天下之富而悪其貧,欲天下之治而悪其乱,執有命者之言,不可不非,此天下之大害也。」
書き下し
是の故に子墨子言いて曰く、「今、天下の士君子、中に實に天下の富を欲して其の貧を惡み、天下の治を欲して其の亂を惡まば、有命を執る者の言、非とせざる可からず。此れ天下の大害なり」と。
現代語訳
だから墨子が言った。「いま天下の士君子が、心の底から天下が富むことを望んで貧しさを憎み、天下が治まることを望んで乱れを憎むなら、運命はあると主張する者の言葉を否定しないわけにいかない。これは天下の大害である」。
解説
非命上の結びです。望むもの(富・治)と憎むもの(貧・乱)を先に置き、それが本心なら有命の説は否定せざるを得ない、と結論だけを短く言い切ります。墨子の各篇はこの型——冒頭で判定基準を立て、事例と文献で当て、最後に一行で結ぶ——を繰り返します。主張を短い一文に畳める形で持っておくことは、それ自体が議論の武器になります。
この章句が説くこと
結論一行非命大害望み
関連する章句
-
『墨子』非命上子墨子言いて曰く、「古者、王公大人、國家に政を為す者は、皆な國家の富み、人民の衆く、刑政の治まるを欲す。然り而して富を得ずして貧を得、衆を得ずして寡を得、治を得ずして亂を得るは、則ち是れ本より其の欲する所を失いて、其の惡む所を得るなり。是れ故に何ぞや」と。子墨子言いて曰く、「有命を執る者の民間に雜わる者衆し。有命を執る者の言に曰く、『命に富めば則ち富み、命に貧しければ則ち貧しく、命に衆ければ則ち衆く、命に寡なければ則ち寡なく、命に治まれば則ち治まり、命に亂るれば則ち亂れ、命に夀ければ則ち夀く、命に夭ければ則ち夭す。命は、……强勁なりと雖も何の益あらんや』と。上は以て王公大人に説き、下は以て百姓の従事を沮む。故に有命を執る者は不仁なり。故に有命を執る者の言に當りては、眀辯せざる可からず」と。
-
『墨子』非命下是の故に子墨子言いて曰く、今、天下の士君子、中に實に将に天下の利を興し、天下の害を除かんことを求め欲せば、有命者の言に當るや、曰く、命なる者は、暴王の作す所、窮人の術ぶる所にして、仁者の言に非ざるなり。今の仁義を為す者、将に察して强いて之を非とせざる可からざる者は此れなり。
-
『墨子』非命上然らば則ち何を以て命の暴人の道為るを知るや。昔、上世の窮民、飲食を貪り、従事に惰る。是を以て衣食の財、足らずして、饑寒凍餒の憂い至る。「我れ罷れ不肖にして、従事、疾からず」と曰うを知らず、必ず「我が命、固より且に貧しからんとす」と曰う。苦だ上世の暴主、其の耳目の淫、心意の辟を忍ばず、其の親戚に順わず、遂に以て國家を亡失し、社稷を傾覆す。「我れ罷れ不肖にして、政を為すこと善からず」と曰うを知らず、必ず「吾が命、固より之を失う」と曰う。
-
『墨子』非命上仲虺之誥に曰く、「我れ夏人に聞く、天命を矯めて命を下に布く。帝、式て是れを惡み、用て厥の師を爽う」と。此れ湯の桀の有命を執るを非とする所以を言うなり。太誓に曰く、「紂、夷して處り、上帝鬼神に事うるを肯んぜず、厥の先の神祇を禍いして祀らず、乃ち曰く『吾が民に命有り、廖まし排屚すること無し』と。天も亦た之を縦ちて棄てて葆せず」と。此れ武王の紂の有命を執るを非とする所以を言うなり。今、有命を執る者の言を用うれば、則ち上は聴治せず、下は従事せず。上、聴治せざれば則ち刑政亂れ、下、従事せざれば則ち財用足らず。上は以て粢盛酒醴を共え、上帝鬼神を祭祀し、天下の賢可の士を降綏する無く、外は以て諸侯の賔客に應待する無く、内は以て饑えたるに食わせ寒きに衣せ、老弱を将養する無し。故に命は、上は天に利あらず、中は鬼に利あらず、下は人に利あらず。而も强いて此を執る者は、此れ凶言の自ら生ずる所を持し、而して暴人の道なり。
-
『墨子』非儒下强いて有命を執りて以て説議する有りて曰く、「夀夭貧富、安危治亂は、固より天命有り、損益す可からず。窮逹賞罰、幸否に極有り、人の知力、焉を為す能わず」と。羣吏、之を信ずれば、則ち分職に怠り、庶人、之を信ずれば、則ち従事に怠る。治まらざれば則ち亂れ、農事、緩ければ則ち貧し。貧しく且つ亂るるは政の本なるに、而して儒者、以て道教と為すは、是れ天下の人を賤しむ者なり。
-
『墨子』非命上是の故に入りては則ち親戚に慈孝ならず、出でては則ち鄉里に治長ならず、坐處に度あらず、出入に節無く、男女に辨無し。是の故に官府を治むれば則ち盜竊し、城を守れば則ち崩叛し、君に難有れば則ち死せず、出亡すれば則ち送らず。此れ上の罰する所、百姓の非毁する所なり。有命を執る者、言いて曰く、「上の罰する所は、命、固より且に罰せんとす、暴なるが故に罰するに非ざるなり。上の賞する所は、命、固より且に賞せんとす、賢なるが故に賞するに非ざるなり」と。此を以て君と為れば則ち不義、臣と為れば則ち不忠、父と為れば則ち不慈、子と為れば則ち不孝、兄と為れば則ち不良、弟と為れば則ち不弟なり。而も强いて此を執る者は、此れ凶言の自ら生ずる所を持し、而して暴人の道なる者なり。