墨子 / 非樂上
今天下之士君子以吾言不然,然即姑嘗數天下分事,而觀樂之害。王公大人蚤朝晏退,聴獄政,治此其分事也。士君子竭股肱之力,亶其思慮之智,内治官府,外收歛關市、山林、澤梁之利,以實倉廪府庫,此其分事也。農夫蚤出暮入,耕稼樹藝,多聚升粟,此其分事也。婦人夙興夜寐,紡績織絍,多治麻絲葛緒,細布縿,此其分事也。
新字:今天下之士君子以吾言不然,然即姑嘗数天下分事,而観楽之害。王公大人蚤朝晏退,聴獄政,治此其分事也。士君子竭股肱之力,亶其思慮之智,内治官府,外収歛関市、山林、沢梁之利,以実倉廪府庫,此其分事也。農夫蚤出暮入,耕稼樹芸,多聚升粟,此其分事也。婦人夙興夜寐,紡績織絍,多治麻糸葛緒,細布縿,此其分事也。
書き下し
今、天下の士君子、吾が言を以て然らずと為さば、然らば即ち姑く嘗みに天下の分事を數えて、樂の害を觀ん。王公大人は蚤に朝し晏く退き、獄を聴き政を治む。此れ其の分事なり。士君子は股肱の力を竭くし、其の思慮の智を亶くし、内は官府を治め、外は關市・山林・澤梁の利を收歛して、以て倉廪府庫を實たす。此れ其の分事なり。農夫は蚤に出で暮に入り、耕稼樹藝して、多く升粟を聚む。此れ其の分事なり。婦人は夙に興き夜に寐ね、紡績織絍して、多く麻絲葛緒を治め、布縿を細くす。此れ其の分事なり。
現代語訳
いま天下の士君子が私の言葉を違うというなら、しばらく天下のそれぞれの持ち場を数え上げて、音楽の害を見てみよう。王公大人は朝早く朝廷に出て遅く退き、訴訟を聞き政務を治める。これがその持ち場である。士君子は手足の力を尽くし思慮の智を尽くし、内は役所を治め、外は関所や市場、山林、沼沢の利を集めて、倉と蔵を満たす。これがその持ち場である。農夫は朝早く出て日暮れに帰り、耕し植えて、多くの穀物を集める。これがその持ち場である。女は朝早く起き夜遅く寝て、糸を紡ぎ布を織り、麻や絹や葛を多く扱い、布を細やかに仕上げる。これがその持ち場である。
解説
「分事」——それぞれの持ち場。四つの階層について、労働時間と業務内容を具体的に書き出します。誰が何をしているかを一覧にしてから、そこに音楽が入るとどこが止まるかを見る。影響を論じる前に現状の業務一覧を作る、という手順です。組織への施策の影響を測るときも、まず誰が何をしているかを書き出すところから始まります。
この章句が説くこと
分事持ち場業務一覧手順影響評価
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『墨子』非樂上今、惟だ王公大人に在りて樂を説びて之を聴かば、即ち必ず蚤に朝し晏く退き、獄を聴き政を治むる能わず。是の故に國家亂れて社稷危うし。今、惟だ士君子に在りて樂を説びて之を聴かば、即ち必ず股肱の力を竭くし、其の思慮の智を亶くし、内は官府を治め、外は關市・山林・澤梁の利を收歛して、以て倉廪府庫を實たす能わず。是の故に倉廪府庫、實たず。今、惟だ農夫に在りて樂を説びて之を聴かば、即ち必ず蚤に出で暮に入り、耕稼樹藝して、多く升粟を聚むる能わず、足らず。今、惟だ婦人に在りて樂を説びて之を聴かば、即ち必ず夙に興き夜に寐ね、紡績織絍して、多く麻絲葛緒を治め、布縿を細くせず。是の故に布縿、興らず。曰く、孰か大人の聴治を為して國家の従事を廢するか。曰く、樂なり。是の故に子墨子曰く、樂を為すは非なり、と。
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『墨子』非樂上今、大鍾・鳴鼓・琴瑟・竽笙の聲、既已に具われり。大人、鏽然として奏して獨り之を聴かば、将に何の樂しみをか焉に得んや。其の説は將に必ず賤人と與にせんとす。君子と與にせず。之を聴くこと君子と之を聴かば、君子の聴治を廢す。賤人と之を聴かば、賤人の従事を廢す。今、王公大人、惟だ樂を為すこと毋くんばあらず。民の衣食の財を虧き奪いて以て樂を拊つこと、此くの如く多きなり。是の故に子墨子曰く、樂を為すは非なり、と。
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『墨子』非樂上今、王公大人、惟だ髙臺厚榭の上に處りて之を視ること無くんばあらず。鍾は猶お是れ延鼎のごときなり。撞擊せずんば、将に何の樂しみをか焉に得んや。其の説は将に必ず之を撞擊せんとす。惟だ撞擊する勿くんば、将に必ず老と遲き者とを使わざらんとす。老と遲き者とは、耳目、聰眀ならず、股肱、畢く强からず、聲、和調せず、眀、轉朴ならず。将に必ず壯年を使わんとす。其の耳目の聰眀、股肱の畢く强き、聲の和調、眀の轉朴に因る。文夫をして之を為さしめば、丈夫の耕稼樹藝の時を廢す。婦人をして之を為さしめば、婦人の紡績織絍の事を廢す。今、王公大人、惟だ樂を為すこと毋くんばあらず。民の衣食の時を虧き奪いて以て樂を拊つこと、此くの如く多きなり。是の故に子墨子曰く、樂を為すは非なり、と。
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『墨子』非命下今や卿大夫の股肱の力を竭くし、其の思慮の知を殫くし、内は官府を治め、外は關市・山林・澤梁の利を斂め、以て官府を實たして、敢えて怠倦せざる所以の者は、何ぞや。曰く、彼れ以為えらく强ければ必ず貴く、强からざれば必ず賤しく、强ければ必ず榮え、强からざれば必ず辱めらると。故に敢えて怠倦せず。今や農夫の蚤く出で暮に入り、耕稼樹藝に强め、多く升粟を聚めて、敢えて怠倦せざる所以の者は、何ぞや。曰く、彼れ以為えらく强ければ必ず富み、强からざれば必ず貧しく、强ければ必ず飽き、强からざれば必ず饑うと。故に敢えて怠倦せず。今や婦人の夙に興き夜に寐ね、紡績織絍に强め、多く麻統葛緒を治め、布縿を捆ちて、敢えて怠倦せざる所以の者は、何ぞや。曰く、彼れ以為えらく强ければ必ず富み、强からざれば必ず貧しく、强ければ必ず煖かく、强からざれば必ず寒しと。故に敢えて怠倦せず。
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『墨子』非樂上是の故に子墨子の樂を非とする所以の者は、大鍾・鳴鼓・琴瑟・竽笙の聲を以て樂しからずと為すに非ざるなり。刻鏤華文章の色を以て美ならずと為すに非ざるなり。犓豢・煎炙の味を以て甘からずと為すに非ざるなり。髙臺・厚榭・䆳野の居を以て安からずと為すに非ざるなり。身、其の安きを知り、口、其の甘きを知り、目、其の美を知り、耳、其の樂しきを知ると雖も、然れども上、之を度るに聖人の事に中らず、下、之を度るに萬民の利に中らず。是の故に子墨子曰く、樂を為すは非なり、と。
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『墨子』非樂上是の故に子墨子曰く、今、天下の士君子、請に将に天下の利を興し、天下の害を除かんことを求め欲せば、當に樂の物為るに在りては、将に禁じて止めざる可からざるなり。