墨子 / 天志下
今天下之諸侯,將猶皆侵凌攻伐兼幷,此為殺一不辜人者數千萬矣;此為踰人之牆垣、格人之子女者,與角人府庫、竊人金玉蚤絫者,數千萬矣;踰人之欄牢、竊人之牛馬者,與入人之塲園、竊人之桃李薑者,數千萬矣,而自曰義也。故子墨子言曰:是蕡我者,則豈有以異是蕡黒白甘苦之辨者哉?今有人於此,少而示之黒謂之黒,多示之黒謂白,必曰:「吾目亂,不知黒白之别。」今有人於此,能少嘗之甘謂甘,多嘗謂苦,必曰:「吾口亂,不知其甘苦之味。」今王公大人之政也,或殺人,其國家禁之,此蚤越有能多殺其隣國之人,因以為文義。此豈有異蕡白黒甘苦之别者哉?
新字:今天下之諸侯,将猶皆侵凌攻伐兼幷,此為殺一不辜人者数千万矣;此為踰人之牆垣、格人之子女者,与角人府庫、竊人金玉蚤絫者,数千万矣;踰人之欄牢、竊人之牛馬者,与入人之塲園、竊人之桃李薑者,数千万矣,而自曰義也。故子墨子言曰:是蕡我者,則豈有以異是蕡黒白甘苦之弁者哉?今有人於此,少而示之黒謂之黒,多示之黒謂白,必曰:「吾目乱,不知黒白之別。」今有人於此,能少嘗之甘謂甘,多嘗謂苦,必曰:「吾口乱,不知其甘苦之味。」今王公大人之政也,或殺人,其国家禁之,此蚤越有能多殺其隣国之人,因以為文義。此豈有異蕡白黒甘苦之別者哉?
書き下し
今、天下の諸侯、將に猶お皆な侵凌攻伐兼幷せんとす。此れ一の不辜の人を殺す者と為ること數千萬なり。此れ人の牆垣を踰え、人の子女を格する者と、人の府庫を角し、人の金玉蚤絫を竊む者と為ること、數千萬なり。人の欄牢を踰え、人の牛馬を竊む者と、人の塲園に入り、人の桃李薑を竊む者と、數千萬なり。而るに自ら義なりと曰う。故に子墨子言いて曰く、是れ我を蕡う者は、則ち豈に是れ黒白甘苦の辨を蕡う者に異なる有らんや。今、人此に有り、少なくして之に黒を示せば之を黒と謂い、多く之に黒を示せば白と謂わば、必ず曰わん、「吾が目、亂れて、黒白の别を知らず」と。今、人此に有り、能く少しく之を嘗めて甘しとし、多く嘗めて苦しと謂わば、必ず曰わん、「吾が口、亂れて、其の甘苦の味を知らず」と。今、王公大人の政や、或いは人を殺せば、其の國家、之を禁ず。此れ蚤越して能く多く其の隣國の人を殺せば、因りて以て文義と為す有り。此れ豈に白黒甘苦の别を蕡うに異なる有らんや。
現代語訳
いま天下の諸侯はみな侵略し攻め伐ち併呑しようとしている。これは罪の無い一人を殺す者としては数千万にあたる。人の塀を越えて子女を捕らえる者、蔵をこじあけて金玉や真珠を盗む者としては数千万にあたる。家畜小屋を越えて牛馬を盗む者、畑に入って桃李や生姜を盗む者としては数千万にあたる。それでいて自ら義だと言う。だから墨子が言った。これで私を惑わせようというのは、白黒や甘苦の区別を惑わせるのと何が違うのか。いまここに人がいて、少しの黒を見せれば黒と言い、多くの黒を見せれば白と言えば、必ずこう言うだろう。「私の目が乱れて、白黒の区別が分からない」。いまここに人がいて、少し味わって甘いとし、多く味わって苦いと言えば、必ずこう言うだろう。「私の口が乱れて、甘さと苦さの味が分からない」。いま王公大人の政治では、人を殺せばその国家が禁じる。ところが国境を越えて隣国の人を多く殺せば、それを文であり義だとする。これが白黒や甘苦の区別を惑わせるのと、何が違うのか。
解説
この章句が説くこと
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『韓非子』內儲說上七術第三十韓の昭侯爪を握りて、佯りて一爪を亡い、之を求むること甚だ急なり。左右因て其の爪を割きて之を效す。昭侯此を以て左右の誠か不かを察せり。
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『墨子』非攻上今、人此に有り、少しの黒を見て黒と曰い、多くの黒を見て白と曰わば、則ち此の人を以て白黒の辨を知らずと為さん。少しの苦きを嘗めて苦しと曰い、多くの苦きを嘗めて甘しと曰わば、則ち必ず此の人を以て甘苦の辯を知らずと為さん。今、小さく非を為せば、則ち知りて之を非とす。大いに非を為して國を攻むれば、則ち知らずして非とし、從いて之を譽め、之を義と謂う。此れ義と不義との辨を知ると謂う可けんや。是を以て天下の君子の、義と不義とを辨ずるの亂れたるを知るなり。
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『墨子』天志下故に子墨子は天志を置立して以て儀法と為す。輪人の規有り、匠人の矩有るが若きなり。今、輪人は規を以てし、匠人は矩を以てす。此を以て方圜の别あり。是の故に子墨子は天志を置立して以て儀法と為す。吾れ此を以て天下の士君子の義を去ること逺きを知るなり。何を以て天下の士君子の義を去ること逺きを知るや。今の大國の君と為る寛然たる者は曰く、「吾れ大國に處りて、小國を攻めずんば、吾れ何を以て大と為さんや」と。是を以て爪牙の士を差論し、其の舟車の卒を比列して、以て罪無きの國を攻伐す。其の溝境に入り、其の禾稼を刈り、其の樹木を斬り、其の城郭を殘して以て其の溝池を汙し、其の祖廟を焚燒し、其の犧牷を攘殺す。民の格る者は則ち勁いて之を拔き、格らざる者は則ち繫ぎ操りて歸る。大夫は以て僕圉胥靡と為し、婦人は以て舂酋と為す。
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『墨子』非攻上今、一人有り、人の園圃に入りて、其の桃李を竊む。衆、聞けば則ち之を非とし、上の政を為す者、得れば則ち之を罰す。此れ何ぞや。人を虧きて自ら利するを以てなり。人の犬豕雞豚を攘む者に至りては、其の不義、又た人の園圃に入りて桃李を竊むより甚だし。是れ何の故ぞや。人を虧くこと愈いよ多きを以て、其の不仁、兹いよ甚だしく、罪、益いよ厚し。人の欄廏に入りて、人の馬牛を取る者に至りては、其の不仁義、又た人の犬豕雞豚を攘むより甚だし。此れ何の故ぞや。其の人を虧くこと愈いよ多きを以てなり。茍くも人を虧くこと愈いよ多ければ、其の不仁、兹いよ甚だしく、罪、益いよ厚し。不辜の人を殺し、其の衣裘を褫ぎ、戈劍を取る者に至りては、其の不義、又た人の欄廏に入りて人の馬牛を取るより甚だし。此れ何の故ぞや。其の人を虧くこと愈いよ多きを以てなり。茍くも人を虧くこと愈いよ多ければ、其の不仁、兹いよ甚だしく、罪、益いよ厚し。此に當たりて、天下の君子は皆な知りて之を非とし、之を不義と謂う。今、大いに國を攻むるを為すに至りては、則ち之を非とせず、從いて之を譽め、之を義と謂う。此れ義と不義との别を知ると謂う可けんや。
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『墨子』魯問子墨子、魯陽文君に謂いて曰く、「世俗の君子は、皆な小物を知りて大物を知らず。今、人、此に有り。一犬一彘を竊まば則ち之を不仁と謂い、一國一都を竊まば則ち以て義と為す。譬うれば猶お小しく白を視れば之を白と謂い、大いに白を視れば則ち之を黒と謂うがごとし。是の故に世俗の君子、小物を知りて大物を知らざる者は、此の言の謂の若きなり」と。
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『墨子』非攻下子墨子言いて曰く、今、天下の善しと譽むる所の者は、其の説、將に何為れぞ其れ上は天の利に中り、中は鬼の利に中り、下は人の利に中る、故に之を譽むるか。譽むる意、上は天の利に中り、中は鬼の利に中り、下は人の利に中るを為さざるは無く、故に之を譽むるか。下の愚人をして必ず曰わしむと雖も、「將に其れ上は天の利に中り、中は鬼の利に中り、下は人の利に中るを為さんとす、故に譽むるなり」と。今、天下の義を同じくする所の者は、聖王の法なり。今、天下の諸侯、將に猶お多く皆な攻伐并兼に勉むれば、則ち是れ義を譽むるの名有りて、其の實を察せざるなり。此れ譬うるに猶お盲者の人と白黒の名を命ずるを同じくして、其の物を分かつ能わざるがごとし。則ち豈に别有りと謂わんや。