墨子 / 節用上
然人有可倍也。昔聖王為法曰:「丈夫年二十,毋敢不處家。女子年十五,毋敢不事人。」此聖王之法也。聖王既沒,於民次也。其欲蚤處家者,有所二十年處家;其欲晩處家者,有所四十年處家。以其蚤與其晩相踐,後聖王之法十年,若純三年而字,子生可以二三計矣。此惟不使民蚤處家而可以倍與?且不然已。
新字:然人有可倍也。昔聖王為法曰:「丈夫年二十,毋敢不処家。女子年十五,毋敢不事人。」此聖王之法也。聖王既没,於民次也。其欲蚤処家者,有所二十年処家;其欲晩処家者,有所四十年処家。以其蚤与其晩相践,後聖王之法十年,若純三年而字,子生可以二三計矣。此惟不使民蚤処家而可以倍与?且不然已。
書き下し
然れども人も倍す可きこと有るなり。昔、聖王、法を為りて曰く、「丈夫、年二十にして、敢えて家に處らざる毋かれ。女子、年十五にして、敢えて人に事えざる毋かれ」と。此れ聖王の法なり。聖王、既に沒して、民の次に於てす。其の蚤く家に處らんと欲する者は、二十年にして家に處る所有り。其の晩く家に處らんと欲する者は、四十年にして家に處る所有り。其の蚤きと其の晩きとを以て相い踐めば、後れて聖王の法に十年なり。若し純ら三年にして字めば、子の生まるること以て二三を計る可し。此れ惟だ民をして蚤く家に處らしめずして、以て倍す可きか。且つ然らざるのみ。
現代語訳
しかし人も倍にできることはある。むかし聖王が法を定めて言った。「男は二十歳になったら、必ず家を構えよ。女は十五歳になったら、必ず人に嫁げ」。これが聖王の法である。聖王が亡くなってからは、民の思うままになった。早く家を構えたい者は二十歳で構え、遅く構えたい者は四十歳で構える。早い者と遅い者を平均すれば、聖王の法より十年遅い。もし三年ごとに子を育てるとすれば、生まれる子は二人三人と数えられる。これは、民に早く家を構えさせないことによって倍にできないでいる、ということではないか。まさにその通りである。
解説
人口を増やす方法として、婚姻年齢の平均を下げることを挙げます。二十歳と四十歳の平均は三十歳で、法より十年遅い。その十年が子の数の差になる、という算術です。現代の価値観からは受け入れがたい議論ですが、注目すべきは方法で、平均値のずれが累積効果として何を生むかを数字で追っている点です。制度が個人の選択に委ねられたとき、平均がどう動くかを計算する発想は、いまの人事制度の設計にも通じます。
この章句が説くこと
平均累積制度と裁量人口算術
関連する章句
-
『韓非子』難勢第四十吾が勢を言うを為す所以の者は、中なり。中は、上は堯・舜に及ばずして、下は亦た桀・紂為らず。法を抱き勢に處らば則ち治まり、法に背き勢を去らば則ち亂る。
-
『墨子』節用上聖人、一國に政を為さば、一國、倍す可きなり。之を大にして天下に政を為さば、天下、倍す可きなり。其の之を倍するは、外に地を取るに非ざるなり。其の國家に因りて、其の無用を去れば、以て之を倍するに足る。聖王の政を為すや、其の令を發し事を興し、民を便にし財を用うるや、用を加えずして為す者無し。是の故に財を用うるに費えず、民の徳、勞せずして、其の利を興すこと多し。
-
『墨子』節葬下以て人民を衆くせんと欲するは、意う者、可なるか。其の説、又た不可なり。今、惟だ厚葬久喪を以て政を為す無し。君、死すれば之を喪すること三年、父母、死すれば之を喪すること三年、妻と後子と死する者は、皆な之を喪すること三年。然る後に伯父・叔父・兄弟・孽子は其れ、族人は五月、姑・姊・甥・舅は皆な月數有り。則ち毁瘠、必ず制有らん。面目をして陷らしめ顔色を黧黑ならしめ、耳目、聰明ならず、手足、勁强ならず、用う可からざらしむ。又た曰く、上士の喪を持するや、必ず扶けられて能く起ち、杖つきて能く行く。此を以て三年を共にす、と。若の法、若の言のごとくし、若の道を行いて、茍くも其の飢約、又た此くの若くんば。是の故に百姓、冬は寒に忍びず、夏は暑に忍びず、疾を作して病死する者、勝げて計う可からざるなり。此れ其の男女の交を敗ること多し。此を以て衆きを求むるは、譬うるに猶お人をして劍を負わしめて其の夀を求むるがごときなり。衆の説、得可き無し。是の故に以て人民を衆くせんことを求むるも、既に以て不可なり。
-
『墨子』辭過凡そ天地の間に周く、四海の内に包まるる、天壤の情、隂陽の和は、有らざる莫し。至聖と雖も更むる能わざるなり。何を以て其の然るを知る。聖人に傳有り。天地なるは、則ち上下と曰う。四時なるは、則ち隂陽と曰う。人情なるは、則ち男女と曰う。禽獸なるは、則ち牝牡雄雌と曰うなり。真に天壤の情、先王有りと雖も、更むる能わざるなり。上世の至聖と雖も、必ず私を蓄うるも以て行を傷らず、故に民に怨み無し。宫に拘女無し、故に天下に寡夫無し。内に拘女無く、外に寡夫無し、故に天下の民衆し。今の君に當たりては、其の私を蓄うるや、大國は女を拘すること累千、小國は累百。是を以て天下の男は多く寡にして妻無く、女は多く拘われて夫無し。男子、時を失う、故に民少なし。君、實に民の衆きを欲して其の寡きを惡まば、當に私を蓄うるは節せざる可からず。
-
『墨子』節用上其の甲盾五兵を為るは何を以て為すか。以て冦亂盜賊を圉ぐ。若し冦亂盜賊有らば、甲盾五兵有る者は勝ち、有ること無ければ勝たざる。是の故に聖人、作りて甲盾五兵を為る。凡そ甲盾五兵を為るは、皆な輕くして以て利く、堅くして折れ難き者は芋䱉、加えざる者は之を去る。其の舟車を為るは何を以て為すか。車は以て陵陸を行き、舟は以て川谷を行き、以て四方の利に通ず。凡そ舟車を為るの道、輕きを加えて以て利き者は芋䱉、加えざる者は之を去る。凡そ其の此の物を為すや、用を加えずして為す者無し。是の故に財を用うるに費えず、民の徳、勞せずして、其の利を興すこと多く、大人の珠玉・鳥獸・犬馬を好み聚むるを去りて、以て衣裳・宫室・甲盾五兵・舟車の數を益すこと有り。數倍に於てせんか。若くば則ち難からず。故に孰れをか倍し難しと為す。惟だ人のみ倍し難しと為す。
-
『墨子』節用上今、天下の政を為す者、其の人を寡くする所以の道、多し。其の民を使うこと勞し、其の籍斂、厚く、民の財、足らず、凍餓して死する者、勝げて數う可からざるなり。且つ大人、唯だ師を興して以て鄰國を攻伐する毋くんばあらず。久しき者は年を終え、速やかなる者は數月なり。男女、久しく相い見ず。此れ人を寡くする所以の道なり。居處の安からず、飲食の時ならず、疾を作して病死する者と、侵して槖に就き、城を攻め野に戰いて死する者と有りて、勝げて數う可からず。此れ今の政を為す者の人を寡くする所以の道、數術にして起こるに非ざるか。聖人の政を為すは特に此れ無し。聖人の政を為すや、其の人を衆くする所以の道も亦た數術にして起こるか。故に子墨子曰く、無用の務めを去り、聖王の道を行うは、天下の大利なり。