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墨子 / 兼愛中

今諸侯獨知愛其國,不愛人之國,是以不憚舉其國以攻人之國;今家主獨知愛其家,而不愛人之家,是以不憚舉其家以簒人之家;今人獨知愛其身,不愛人之身,是以不憚舉其身以賊人之身。是故諸侯不相愛,則必野戰;家主不相愛,則必相簒;人與人不相愛,則必相賊;君臣不相愛,則不惠忠。父子不相愛,則不慈孝;兄弟不相愛,則不和調。天下之人皆不相愛,强必執弱,富必侮貧,貴必傲賤,詐必欺愚。凡天下禍簒怨恨,其所以起者,以不相愛生也,是以仁者非之。

新字:今諸侯独知愛其国,不愛人之国,是以不憚舉其国以攻人之国;今家主独知愛其家,而不愛人之家,是以不憚舉其家以簒人之家;今人独知愛其身,不愛人之身,是以不憚舉其身以賊人之身。是故諸侯不相愛,則必野戦;家主不相愛,則必相簒;人与人不相愛,則必相賊;君臣不相愛,則不恵忠。父子不相愛,則不慈孝;兄弟不相愛,則不和調。天下之人皆不相愛,强必執弱,富必侮貧,貴必傲賤,詐必欺愚。凡天下禍簒怨恨,其所以起者,以不相愛生也,是以仁者非之。

書き下し

今、諸侯は獨り其の國を愛するを知りて、人の國を愛せず。是を以て其の國を舉げて以て人の國を攻むるを憚らず。今、家主は獨り其の家を愛するを知りて、人の家を愛せず。是を以て其の家を舉げて以て人の家を簒うを憚らず。今、人は獨り其の身を愛するを知りて、人の身を愛せず。是を以て其の身を舉げて以て人の身を賊うを憚らず。是の故に諸侯、相い愛せざれば、則ち必ず野戰す。家主、相い愛せざれば、則ち必ず相い簒う。人と人と相い愛せざれば、則ち必ず相い賊う。君臣、相い愛せざれば、則ち惠忠ならず。父子、相い愛せざれば、則ち慈孝ならず。兄弟、相い愛せざれば、則ち和調ならず。天下の人、皆な相い愛せざれば、强は必ず弱を執え、富は必ず貧を侮り、貴は必ず賤を傲り、詐は必ず愚を欺く。凡そ天下の禍簒怨恨、其の起こる所以の者は、相い愛せざるを以て生ずるなり。是を以て仁者は之を非とす。

現代語訳

いま諸侯は自分の国を愛することだけを知って、他人の国を愛さない。だから国を挙げて他人の国を攻めることをためらわない。いま家の主は自分の家を愛することだけを知って、他人の家を愛さない。だから家を挙げて他人の家を奪うことをためらわない。いま人は自分の身を愛することだけを知って、他人の身を愛さない。だから身を挙げて他人の身を害することをためらわない。だから諸侯が互いに愛さなければ必ず野で戦い、家の主が互いに愛さなければ必ず奪い合い、人と人が互いに愛さなければ必ず害し合い、君臣が互いに愛さなければ恵みと忠を欠き、父子が互いに愛さなければ慈と孝を欠き、兄弟が互いに愛さなければ和を欠く。天下の人がみな互いに愛さなければ、強い者は必ず弱い者を捕らえ、富む者は必ず貧しい者を侮り、貴い者は必ず賤しい者に驕り、狡い者は必ず愚かな者を欺く。およそ天下の禍・簒奪・怨み・恨みが起こる原因は、互いに愛さないことから生じる。だから仁ある者はこれを否とする。

解説

「强必執弱、富必侮貧、貴必傲賤、詐必欺愚」——四つの対句が並びます。ここで使われるのは「必」の字で、可能性ではなく必然として書かれています。条件が揃えば必ずそうなる、という機械的な見方です。だからこそ処方も個人の心がけではなく、条件のほうを変えることになる。次章で提示される「兼相愛・交相利」が、心情論ではなく制度論として読める理由がここにあります。

この章句が説くこと

必然力の差条件対句仕組み

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