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正法眼蔵随聞記 / 巻六

示して云く、唐の太宗の時、異國より千里の馬を獻ぜり、帝これを得て喜ばずして自ら謂へらく、縦ひ我れ獨り千里の馬に乘て千里を行とも、隨ふ臣なくんば其の詮なきなりと、故に魏徵を召して此を問ひ玉へば、徵云く、帝の心と同じと、依て彼の馬に金帛をおほせて返さしむ、世間の帝王だにも無用のものをば畜へたまはずしてかへせり、況や衲子は衣鉢の外は決定して無用なり、無用の物是を貯てなにゝかせん、

新字:示して云く、唐の太宗の時、異国より千里の馬を献ぜり、帝これを得て喜ばずして自ら謂へらく、縦ひ我れ独り千里の馬に乗て千里を行とも、随ふ臣なくんば其の詮なきなりと、故に魏徴を召して此を問ひ玉へば、徴云く、帝の心と同じと、依て彼の馬に金帛をおほせて返さしむ、世間の帝王だにも無用のものをば畜へたまはずしてかへせり、況や衲子は衣鉢の外は決定して無用なり、無用の物是を貯てなにゝかせん、

書き下し

示して云く、唐の太宗の時、異国より千里の馬を献ぜり、帝これを得て喜ばずして自ら謂へらく、縦ひ我れ独り千里の馬に乗て千里を行とも、随ふ臣なくんば其の詮なきなりと、故に魏徴を召して此を問ひ玉へば、徴云く、帝の心と同じと、依て彼の馬に金帛をおほせて返さしむ、世間の帝王だにも無用のものをば畜へたまはずしてかへせり、況や衲子は衣鉢の外は決定して無用なり、無用の物是を貯てなにゝかせん、

現代語訳

示して言われた。唐の太宗の時、異国から千里を走る馬を献上した。帝はこれを得ても喜ばず、自ら思われた、たとえ自分独りが千里の馬に乗って千里を行っても、従う臣がなければその甲斐がないのである、と。それゆえ魏徴を召してこれを問われたところ、魏徴は言った、帝のお心と同じです、と。よって、その馬に金銀の絹をも負わせて返させた。世間の帝王でさえ、無用のものは蓄えずに返された。まして雲水は、衣と鉢のほかは決定して無用である。無用の物を貯えて何になろうか。

解説

名馬を返した太宗の話を、無用の物を持たない例として引く。独りだけ速く走れても意味がないという理由づけが面白く、価値の高さではなく、自分の役目に要るかどうかで判断されている。しかも返す時に金帛を添えるところに、断り方の作法まで示されている。要らない物を断るのにも、手間をかけているということである。断り方が雑になれば、次から声も掛からなくなる。

この章句が説くこと

無用衣鉢分太宗断持ち物

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