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正法眼蔵随聞記 / 巻一

夜話に云く若し人來て用事を云ふ中に、或は人にものをこひ、或は訴訟等のことをも云んとて、一通の狀をも所望すること出て來ること有んに、其の時我は非人なり、遁世籠居の身なれば、在家等の人に非分のことを云んは非なりとて、眼前の人の所望をかなへずば、實に非人の法には似たれども、其の心中をさぐるに、猶我れは遁世非人なり、非分のことを人に云はヾ、人定めてわるく思ひけんと云ふ道理を思ふて聽かずんば、なを是れ我執名聞なり、

新字:夜話に云く若し人来て用事を云ふ中に、或は人にものをこひ、或は訴訟等のことをも云んとて、一通の状をも所望すること出て来ること有んに、其の時我は非人なり、遁世籠居の身なれば、在家等の人に非分のことを云んは非なりとて、眼前の人の所望をかなへずば、実に非人の法には似たれども、其の心中をさぐるに、猶我れは遁世非人なり、非分のことを人に云はヾ、人定めてわるく思ひけんと云ふ道理を思ふて聴かずんば、なを是れ我執名聞なり、

書き下し

夜話に云く若し人来て用事を云ふ中に、或は人にものをこひ、或は訴訟等のことをも云んとて、一通の状をも所望すること出て来ること有んに、其の時我は非人なり、遁世籠居の身なれば、在家等の人に非分のことを云んは非なりとて、眼前の人の所望をかなへずば、実に非人の法には似たれども、其の心中をさぐるに、猶我れは遁世非人なり、非分のことを人に云はヾ、人定めてわるく思ひけんと云ふ道理を思ふて聴かずんば、なを是れ我執名聞なり、

現代語訳

夜話に言われた。もし人が来て用事を言う中で、あるいは人に物を乞い、あるいは訴訟などのことを言おうとして、一通の手紙をも所望することが出てくるとする。そのとき、自分は非人である、遁世して籠居する身であるから、在家などの人に分に過ぎたことを言うのは非である、といって目の前の人の願いをかなえないならば、まことに非人の作法には似ているけれども、その心中を探ってみると、やはり自分は遁世の非人である、分に過ぎたことを人に言えば、人はきっと悪く思うだろうという道理を思って聞き入れないのであるから、なおこれは我執であり名聞である。

解説

頼みを断る理由が、遁世の身だからという正しそうな名分になっている。しかしその内側を探ると、悪く思われたくないという計算がある。作法としては非人らしく見えるふるまいが、動機の側では我執と名聞だという見立てで、正しい理由ほど動機を隠しやすいという指摘になっている。次の条で、ではどうすべきかが述べられる。

この章句が説くこと

我執名聞遁世依頼動機

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