孫子 / 行軍篇
凡地有絕澗,遇天井、天牢、天羅、天陷、天隙,必亟去之,勿近也。
新字:凡地有絶澗,遇天井、天牢、天羅、天陥、天隙,必亟去之,勿近也。
書き下し
凡そ地に絶澗有り、天井・天牢・天羅・天陥・天隙に遇わば、必ず亟やかにこれを去り、近づくこと勿かれ。
現代語訳
険しく切り立った谷、四方を囲まれた窪地(天井)、逃げ場のない牢のような地(天牢)、身動きの取れない網状の地(天羅)、落ち込む陥没地(天陥)、狭い裂け目(天隙)——こうした危険な地に出くわしたら、速やかに離れ、決して近づいてはならない。
解説
行軍篇で、避けるべき「死地形」を列挙した一節です。孫子は、逃げ場のない窪地や身動きの取れない険しい地形を「天井・天牢・天羅」などと名づけ、そこに近づくことすら禁じます。いったん入り込めば、敵に囲まれて壊滅しかねないからです。危険な地は、戦う前に「避ける」のが最善だ、というのです。仕事でも、そもそも足を踏み入れるべきでない「罠のような状況」があります。抜け出せない契約、身動きの取れない体制、逃げ場のない依存関係——入ってから対処するより、近づかないのが賢明です。危険を察知したら、戦わずに離れる。勇気とは突っ込むことではなく、避けるべきを避けること。危地には近づかないという慎重さの価値を、この一節は教えます。
この章句が説くこと
分割行軍連絡危地を避ける近づかない勇気リスク
関連する章句
-
うひ山ぶみ・第三十二段然れども初学のほどには、件の書どもを、すみやかに読ミわたすことも、たやすからざれば、巻数多き大部の書共は、しばらく後へまはして、短き書どもより先ヅ見んも、宜しかるべし、
-
孫子・行軍篇水を絶てば必ず水に遠ざかる。客水を絶ちて来たらば、之を水内に迎うる勿かれ。半ば済らしめて之を撃つは利なり。戦わんと欲する者は、水に附きて客を迎うる無かれ。生を視て高きに処り、水流を迎うる無かれ。此れ水上に処るの軍なり。
-
孫子・九地篇是の故に諸侯の謀を知らざる者は、予め交わること能わず。山林・険阻・沮沢の形を知らざる者は、軍を行ること能わず。郷導を用いざる者は、地の利を得ること能わず。
-
孫子・行軍篇凡そ軍は高きを好みて下きを悪み、陽を貴びて陰を賤しみ、生を養いて実に処る。軍に百疾無し、是を必勝と謂う。
-
孫子・虚実篇千里を行きて労せざる者は、人なき地を行くなり。
-
孫子・行軍篇孫子曰く、凡そ軍を処き敵を相るに、山を絶つには谷に依り、生を視て高きに処り、隆きに戦うには登ること無かれ。此れ山に処るの軍なり。