修身要領 / 第九条
結婚は人生の重大事なれば、配偶の撰択は最も慎重ならざる可らず。一夫一婦終身同室、相敬愛して、互いに独立自尊を犯さゞるは、人倫の始なり。
書き下し
結婚は人生の重大事なれば、配偶の選択は最も慎重ならざるべからず。一夫一婦終身同室、相敬愛して、たがいに独立自尊を犯さざるは、人倫の始めなり。
現代語訳
結婚は人生の重大事ですから、配偶者の選択はもっとも慎重でなければなりません。一夫一婦が生涯同じ家で暮らし、たがいに敬い愛して、相手の独立自尊を侵さないことが、人としての道の始まりです。
解説
結婚についての条です。一夫一婦、終身同室といった表現には、1900年当時の家族観が表れており、離婚や多様な家族の形が当たり前になった今とは前提が異なります。それでも、結婚相手を慎重に選ぶこと、そして相手の独立自尊を侵さないことという二点は、今も通じる考えです。当時は親が縁談を決める慣行も強く、選択の重さを説くこと自体が主張でした。パートナーでも同僚でも、近しい関係ほど、相手の考えや生き方を自分のものにしてしまう誘惑が働きます。親しさと尊重を両立させる姿勢が問われます。

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本の中身を見るこの章句が説くこと
結婚配偶の選択一夫一婦敬愛独立自尊人倫
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福沢諭吉小品集・修身要領・第2段第九条 結婚は人生の重大事なれば、配偶の撰択は最も慎重ならざる可らず。一夫一婦終身同室、相敬愛して、互いに独立自尊を犯さゞるは、人倫の始なり。 第十条 一夫一婦の間に生るゝ子女は、其父母の他に父母なく、其子女の他に子女なし。親子の愛は真純の親愛にして、之を傷けざるは一家幸福の基なり。 第十一条 子女も亦独立自尊の人なれども、其幼時に在ては、父母これが教養の責に任ぜざる可らず。子女たるものは、父母の訓誨に従て孜々勉励、成長の後、独立自尊の男女として世に立つの素養を成す可きものなり。 第十二条 独立自尊の人たるを期するには、男女共に、成人の後にも、自から学問を勉め、知識を開発し、徳性を修養するの心掛を怠る可らず。 第十三条 一家より数家、次第に相集りて、社会の組織を成す。健全なる社会の基は、一人一家の独立自尊に在りと知る可し。 第十四条 社会共存の道は、人々自から権利を護り幸福を求むると同時に、他人の権利幸福を尊重して、苟も之を犯すことなく、以て自他の独立自尊を傷けざるに在り。 第十五条 怨を構へ仇を報ずるは、野蛮の陋習にして卑劣の行為なり。恥辱を雪ぎ名誉を全うするには、須らく公明の手段を択むべし。 第十六条 人は自から従事する所の業務に忠実ならざる可らず。其大小軽重に論なく、苟も責任を怠るものは、独立自尊の人に非ざるなり。 第十七条 人に交るには信を以てす可し。己れ人を信じて人も亦己れを信ず。人々相信じて始めて自他の独立自尊を実にするを得べし。 第十八条 礼儀作法は、敬愛の意を表する人間交際上の要具なれば、苟めにも之を忽にす可らず。只その過不及なきを要するのみ。 第十九条 己れを愛するの情を拡めて他人に及ぼし、其疾苦を軽減し其福利を増進するに勉むるは、博愛の行為にして、人間の美徳なり。 第二十条 博愛の情は、同類の人間に対するに止まる可らず。禽獣を虐待し又は無益の殺生を為すが如き、人の戒む可き所なり。 第二十一条 文芸の嗜は、人の品性を高くし精神を娯ましめ、之を大にすれば、社会の平和を助け人生の幸福を増すものなれば、亦是れ人間要務の一なりと知る可し。
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福沢諭吉小品集・日本男子論・第9段然らば即ち敬愛は夫婦の徳にして、この徳義を修めてこれを今日の実際に施すの法如何と尋ぬるに、夫婦利害を共にし苦楽喜憂を共にするは勿論、あるいは一方の心身に苦痛の落ち来ることもあれば、人力の届く限りはその苦痛を分担するの工風を運らさざるべからず。いわんや己れの欲せざる所を他の一方に施すにおいてをや。ゆめゆめあるまじき事にして、徹頭徹尾、恕の一義を忘れず、形体こそ二個に分かれたれども、その実は一身同体と心得て、始めて夫婦の人倫を全うするを得べし。故に夫婦家に居るは人間の幸福快楽なりというといえども、本来この夫婦は二個の他人の相合うたるものにして、その心はともかくも、身の有様の同じかるべきにあらず。夫婦おのおのその親戚を異にし、その朋友を異にし、これらに関係する喜憂は一方の知らざる所なれども、既に一身同体とあれば、その喜憂を分かたざるを得ず。また平生の衣食住についても、おのおの好悪する所なきを期すべからずといえども、互いに忍んでその好悪に従わざるべからず。またあるいは一方の病気の如き、固より他の一方に痛痒なけれども、あたかもその病苦を自分の身に引受くるが如くして、力のあらん限りにこれを看護せざるべからず。良人五年の中風症、死に至るまで看護怠らずといい、内君七年のレウマチスに、主人は家業の傍らに自ら薬餌を進め、これがために遂に資産をも傾けたるの例なきにあらず。
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福沢諭吉小品集・修身要領・第1段文明日新の修身処世法は、如何なる主義に依り如何なる方向に進む可きやとは、今の青年学生の大に惑ふ所にして、先輩に対して屡質問を起すものあり。福沢先生これに答ふる為めにとて、生等に嘱して文案を草せしむ。即ち先生平素の言行に基き、其大要を述べて、先生の閲覧を乞ひ、之を修身要領と名け、学生に示すこと左の如し。 明治三十三年二月紀元節 慶応義塾社中某々誌 凡そ日本国に生々する臣民は、男女老少を問はず、万世一系の帝室を奉戴して、其恩徳を仰がざるものある可らず。此一事は、満天下何人も疑を容れざる所なり。而して今日の男女が今日の社会に処する道を如何す可きやと云ふに、古来道徳の教、一にして足らずと雖も、徳教は人文の進歩と共に変化するの約束にして、日新文明の社会には自から其社会に適するの教なきを得ず。即ち修身処世の法を新にするの必要ある所以なり。 第一条 人は人たるの品位を進め、智徳を研き、ます/\其光輝を発揚するを以て、本分と為さざる可らず。吾党の男女は、独立自尊の主義を以て修身処世の要領と為し、之を服膺して、人たるの本分を全うす可きものなり。 第二条 心身の独立を全うし、自から其身を尊重して、人たるの品位を辱めざるもの、之を独立自尊の人と云ふ。 第三条 自から労して自から食ふは、人生独立の本源なり。独立自尊の人は自労自活の人たらざる可らず。 第四条 身体を大切にし健康を保つは、人間生々の道に欠く可らざるの要務なり。常に心身を快活にして、苟めにも健康を害するの不養生を戒む可し。 第五条 天寿を全うするは人の本分を尽すものなり。原因事情の如何を問はず、自から生命を害するは、独立自尊の旨に反する背理卑怯の行為にして、最も賤む可き所なり。 第六条 敢為活溌堅忍不屈の精神を以てするに非ざれば、独立自尊の主義を実にするを得ず。人は進取確守の勇気を欠く可らず。 第七条 独立自尊の人は、一身の進退方向を他に依頼せずして、自から思慮判断するの智力を具へざる可らず。 第八条 男尊女卑は野蛮の陋習なり。文明の男女は同等同位、互に相敬愛して各その独立自尊を全からしむ可し。