商君書 / 徠民
臣竊以王吏之明為過見、此其所以弱。不奪三晉民者、愛爵而重復也。其說曰:「三晉之所以弱者、其民務樂而復爵輕也。秦之所以強者、其民務苦而復爵重也。今多爵而久復、是釋秦之所以彊、而為三晉之所以弱也。」此王吏重爵愛復之說也、而臣竊以為不然。
新字:臣竊以王吏之明為過見、此其所以弱。不奪三晉民者、愛爵而重復也。其説曰:「三晉之所以弱者、其民務楽而復爵軽也。秦之所以強者、其民務苦而復爵重也。今多爵而久復、是釈秦之所以彊、而為三晉之所以弱也。」此王吏重爵愛復之説也、而臣竊以為不然。
書き下し
臣竊かに王吏の明を以て過見と為す。これその弱き所以なり。三晉の民を奪わざるは、爵を愛しみて復を重んずればなり。その說に曰く、「三晉の弱き所以の者は、その民は樂を務めて復爵の輕ければなり。秦の強き所以の者は、その民は苦を務めて復爵の重ければなり。今、爵を多くして久しく復せば、これ秦の彊き所以を釋てて、三晉の弱き所以を為すなり」と。これ王吏の爵を重んじ復を愛しむの說なり。而して臣竊かに以て然らずと為す。
現代語訳
私はひそかに、王の役人たちの見識を誤りだと思う。これこそが秦の弱いところである。三晋の民を奪い取らないのは、爵位を惜しみ免税を重く見ているからだ。その言い分はこうである。「三晋が弱いのは、その民が楽をすることに努め、免税と爵位が軽く扱われているからだ。秦が強いのは、その民が苦労に努め、免税と爵位が重く扱われているからだ。いま爵位を多く出し長く免税すれば、それは秦が強い理由を捨てて、三晋が弱い理由を招き入れることになる」と。これが役人たちの、爵位を重んじ免税を惜しむ言い分である。しかし私はひそかに、そうではないと考える。
解説
人を招くために爵位と免税を大盤振る舞いしたら、秦が強い理由そのものを失うのではないか——役人側の反対論が、まず正確に紹介される。この反対論には筋がある。厳しさで強くなった組織が、人を集めるために条件を緩めれば、強さの源が消えるのではないか。待遇を上げて採用を進めたい経営者が、必ず一度は突き当たる問いでもある。商君書はこの反論を切り捨てず、次の段で正面から答える。反対意見を正確に述べてから論駁するという、更法篇と同じ構えである。
この章句が説くこと
爵を愛しみ復を重んず反対論を先に述べる待遇と強さ三晋
関連する章句
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『商君書』徠民夫れ民を苦しめて兵を彊くする所以の者は、將に以て敵を攻めて欲する所を成さんとすればなり。兵法に曰く、「敵弱くして兵彊し」と。これ吾が攻むる所以を失わずして、敵はその守る所を失うを言うなり。今、三晉、秦に勝たざること四世なり。魏襄より以來、野戰に勝たず、守城は必ず拔かる。小大の戰い、三晉の秦に亡う所の者は、勝げて數うべからざるなり。此くの若くして服せざるは、秦は能くその地を取るも、而してその民を奪う能わざればなり。
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『商君書』徠民秦の鄰と與にする所の者は、三晉なり。兵を用いんと欲する所の者は、韓魏なり。彼は土狹くして民眾く、その宅は參居して并處し、その賓萌は賈息す。民は上に通名無く、下に田宅無くして、姦に恃み末作を務めて以て處る。人の陰陽澤水に復する者、半ばを過ぐ。これその土のその民を生かすに足らざるなり、秦の民のその土を實たすに足らざるに過ぐる有るに似たり。意うに民の情、その欲する所の者は、田宅なり。而して晉のこれ有る無きは信なり、秦の餘り有るは必なり。此くの如くして民の西せざるは、秦の士は戚みて民は苦しめばなり。
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『商君書』徠民曩者、臣言いて曰く、「意うに民の情、その欲する所の者は田宅なり。晉のこれ有る無きは信なり、秦の餘り有るは必なり。此くの若くして民の西せざるは、秦の士は戚みて民は苦しめばなり」と。今、その田宅を利し、これを復すること三世。これ必ずその欲する所を與えて、その惡む所を行わしめざるなり。然らば則ち山東の民、西せざる者無からん。且つ直だ言うの謂いなり。然らずんば、夫れ曠虛を實たし、天寶を出だし、而して百萬、本を事とせば、その益する所は多し。豈に徒だその攻むる所以を失わざるのみならんや。
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『商君書』徠民夫れ秦の患うる所の者は、兵を興して伐てば、則ち國家は貧しく、安居して農せば、則ち敵は休息を得。これ王の兩つながら成すこと能わざる所なり。故に四世戰い勝ちて、天下は服せず。今、故秦を以て敵を事とし、而して新民をして本を作さしめば、兵は百たび外に宿すと雖も、境內は須臾の時をも失わず。これ富強兩つながら成るの效なり。
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『商君書』弱民民弱ければ國は強く、民強ければ國は弱し。故に道有るの國は、務め民を弱くするに在り。樸なれば則ち強く、淫なれば則ち弱し。弱ければ則ち軌り、淫なれば則ち志を越ゆ。弱ければ則ち用有り、志を越ゆれば則ち強し。故に曰く、「強を以て強を去る者は弱く、弱を以て強を去る者は強し」と。民、これを善くすれば則ち和し、これを利すれば則ち用いらる。用いらるれば則ち任有り、和すれば則ち匱し。任有らば乃ち政に富む。上、法を舍てて、民の善しとする所に任ず、故に姦多し。民貧しければ則ち富を力め、民富めば則ち淫す。淫すれば則ち蝨有り。故に民富みて用いられざれば、則ち民をして食を以て爵を出でしむ。爵は必ずその力を以てすれば、則ち農は偷まず。農偷まざれば、六蝨は萌す無し。故に國富みて民治まれば、重ねて強し。
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『商君書』徠民且つ周軍の勝、華軍の勝、長平の勝、秦の民を亡う所の者は幾何ぞ、民客の兵にして本を事とするを得ざる者は幾何ぞ。臣竊かに以て數うべからずと為すなり。假使し王の群臣に、能くこれを用うる有りて、此れの半ばを費やして、晉を弱め秦を強くすること、三戰の勝の若き者あらば、王は必ず大賞を加えん。今、臣の言う所は、民に一日の繇無く、官に數錢の費無くして、その晉を弱め秦を強くすること三戰の勝に過ぐる有り。而るに王は猶お以て不可と為さば、則ち臣愚にして知る能わざるのみ。