商君書 / 農戦
今世主皆憂其國之危而兵之弱也、而彊聽說者。說者成伍、煩言飾辭、而無實用。主好其辯、不求其實。說者得意、道路曲辯、輩輩成群。民見其可以取王公大人也、而皆學之。夫人聚黨與說議於國、紛紛焉小民樂之、大人說之。
新字:今世主皆憂其国之危而兵之弱也、而彊聴説者。説者成伍、煩言飾辞、而無実用。主好其弁、不求其実。説者得意、道路曲弁、輩輩成群。民見其可以取王公大人也、而皆学之。夫人聚党与説議於国、紛紛焉小民楽之、大人説之。
書き下し
今、世主は皆なその國の危うくして兵の弱きを憂う、而して彊いて說く者を聽く。說く者は伍を成し、言を煩わし辭を飾りて、實用無し。主はその辯を好みて、その實を求めず。說く者は意を得て、道路に曲辯し、輩輩として群を成す。民はその以て王公大人を取るべきを見て、皆なこれを學ぶ。夫れ人、黨與を聚めて國に說議すれば、紛紛焉として小民はこれを樂しみ、大人はこれを說ぶ。
現代語訳
いま世の君主はみな、自分の国が危うく兵が弱いことを憂えている。それでいて無理にでも弁士の話を聞こうとする。弁士は隊列をなすほど大勢いて、言葉を並べ立て表現を飾るが、実際の役には立たない。君主はその弁舌を好み、実質を求めない。弁士は得意になって道端で理屈をこね、次々と群れをなす。民は、それで王公や大人に取り入れるのを見て、みなそれを学ぶ。人々が仲間を集めて国じゅうで議論をすれば、あたりは騒がしくなり、庶民はそれを楽しみ、身分の高い者はそれを喜ぶ。
解説
「主はその辯を好みて、その實を求めず」——上が話のうまさを好み、中身を確かめない。それを見た人々が、うまく話す技術を学び始める。組織で何が学ばれるかは、教育制度ではなく、上が何に反応したかで決まる、という指摘である。しかも厄介なのは、この状態が上にとって快適なことだ。「大人はこれを説ぶ」——立派な議論を聞くのは気持ちがいい。危機を憂えていると口では言いながら、実質を確かめる面倒より、よくできた説明を聞く快さを選んでしまう。商君書はそこを容赦なく突いてくる。
この章句が説くこと
説く者伍を成す煩言飾辞実を求めず上が反応したものが学ばれる
関連する章句
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『商君書』農戦今、國を為むる者は要無きこと多し。朝廷の治を言うや、紛紛焉として相い易うるを務む。是を以てその君は說に惛く、その官は言に亂れ、その民は惰りて農せず。故にその境內の民、皆な化して辯を好み學を樂しみ、商賈に事え、技藝を為し、農戰を避く。此の如くんば則ち亡國遠からず。國に事有れば、則ち學民は法を惡み、商民は化を善くし、技藝の民は用いられず。故にその國破り易きなり。
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『商君書』農戦故にその民、農する者寡くして、游食する者眾し。眾ければ則ち農する者は怠り、農する者怠れば則ち土地は荒る。學ぶ者俗を成せば、則ち民は農を舍てて、談說に從事し、高言偽議し、農を舍てて游食し、而して言を以て相い高しとす。故に民、上を離れて臣とせざる者、群を成す。これ國を貧しくし兵を弱くするの教えなり。夫れ國、民を庸うに言を以てすれば、則ち民は農に畜えられず。故に惟だ明君のみ言を好むの以て兵を彊くし土を闢くべからざるを知る。惟だ聖人の國を治むるや、壹を作し、これを農に摶むるのみ。
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『商君書』君臣上の與うる所に在り——上、功勞を以て與うれば、則ち民は戰い、上、詩書を以て與うれば、則ち民は學問す。民の利に於けるや、水の下に於けるがごときなり、四旁に擇ぶ無し。民の徒だ以て利を得べくしてこれを為す者は、上のこれに與うればなり。目を瞋らせ腕を扼して勇を語る者は得、衣裳を垂れて談說する者は得、日を遲くし久しきを曠しくして勞を私門に積む者は得。この三者を尊び向えば、功無くして皆な以て得べし。民は農戰を去りてこれを為し、或いは談議してこれを索め、或いは便辟に事えてこれを請い、或いは勇を以てこれを爭う。故に農戰の民は日に寡なくして、游食する者は愈々眾し。則ち國は亂れて地は削られ、兵は弱くして主は卑し。この然る所以の者は、法制を釋てて名譽に任ずればなり。
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