商君書 / 農戦
百姓曰:「我疾農、先實公倉、收餘以事親、為上忘生而戰、以尊主安國也、倉虛、主卑、家貧、然則不如索官!」親戚交游合、則更慮矣。豪傑務學詩書、隨從外權、要靡事商賈、為技藝:皆以避農戰。民以此為教、則粟焉得無少、而兵焉得無弱也!
新字:百姓曰:「我疾農、先実公倉、収余以事親、為上忘生而戦、以尊主安国也、倉虚、主卑、家貧、然則不如索官!」親戚交游合、則更慮矣。豪傑務学詩書、随従外権、要靡事商賈、為技芸:皆以避農戦。民以此為教、則粟焉得無少、而兵焉得無弱也!
書き下し
百姓曰く、「我れ農に疾み、先ず公倉を實たし、餘を收めて以て親に事え、上の為に生を忘れて戰い、以て主を尊び國を安んずるなり。倉は虛しく、主は卑しく、家は貧し。然らば則ち官を索むるに如かず」と。親戚交游合すれば、則ち更に慮らん。豪傑は務めて詩書を學び、外權に隨從し、要靡は商賈に事え、技藝を為す。皆な以て農戰を避く。民これを以て教えと為さば、則ち粟焉んぞ少なきこと無きを得ん、而して兵焉んぞ弱きこと無きを得んや。
現代語訳
民は言う。「私は農業に励み、まず公の蔵を満たし、残りを収めて親に仕え、上のために命を惜しまず戦い、そうして君主を尊び国を安んじてきた。それなのに蔵は空で、君主の地位は低く、我が家は貧しい。ならば官職を求めたほうがましだ」と。親戚や友人が集まって相談すれば、いよいよ別の道を考える。優秀な者は詩書の学問に励んで外の有力者に取り入り、要領のいい者は商人に仕え技芸を身につける。みな農業と戦いを避けるためだ。民がこれを手本として学ぶなら、穀物がどうして減らずにいられよう、兵がどうして弱くならずにいられようか。
解説
まじめにやった者が報われないという訴えを、農民自身の言葉で書き留めている。国のために働き、命をかけて戦い、それでも家は貧しい。ならば官職を取りに行くほうがましだ——この一言で人材の流れが変わる。そして決定的なのが次の一行だ。「親戚交游合すれば、則ち更に慮らん」。人は一人で転職を決めるのではなく、身内が集まって話した席で決める。制度の失敗は、統計に出るより先に、その集まりの会話の中で先に確定している。まじめな社員が黙って別の道を考え始める瞬間を、上は最後まで知らない。
この章句が説くこと
倉は虚しく主は卑しまじめが報われない親戚交游合す人材の流出
関連する章句
-
『商君書』農戦故にその民、農する者寡くして、游食する者眾し。眾ければ則ち農する者は怠り、農する者怠れば則ち土地は荒る。學ぶ者俗を成せば、則ち民は農を舍てて、談說に從事し、高言偽議し、農を舍てて游食し、而して言を以て相い高しとす。故に民、上を離れて臣とせざる者、群を成す。これ國を貧しくし兵を弱くするの教えなり。夫れ國、民を庸うに言を以てすれば、則ち民は農に畜えられず。故に惟だ明君のみ言を好むの以て兵を彊くし土を闢くべからざるを知る。惟だ聖人の國を治むるや、壹を作し、これを農に摶むるのみ。
-
『商君書』農戦凡そ人主の民を勸むる所以の者は、官爵なり、國の興る所以の者は、農戰なり。今民の官爵を求むるは、皆な農戰を以てせずして、巧言虛道を以てす。これを勞民と謂う。勞民なる者は、その國必ず力無し。力無き者は、その國必ず削らる。
-
『商君書』農戦夫れ農する者寡くして、遊食する者眾し、故にその國は貧しく危うし。今夫れ螟螣蚵蠋は春に生じ秋に死す、一たび出づれば民は數年食に乏し。今一人耕して、百人これを食らう、これその螟螣蚼蠋為ること亦た大なり。詩書有りと雖も、鄉に一束、家に一員あるも、獨り治に益無きなり、これを反すの術に非ざるなり。故に先王はこれを農戰に反す。
-
『商君書』農戦善く國を為むる者は、その民を教うるや、皆な壹空より官爵を得しむ。是の故に農戰を以てせざれば、則ち官爵無し。國言を去れば則ち民は樸、民樸なれば則ち淫せず。民、上の利の壹空より出づるを見れば、則ち壹を作す、壹を作せば則ち民は偷まず。民偷まず淫せざれば則ち力多く、力多ければ則ち國は彊し。今境內の民、皆な曰く、「農戰は避くべくして、官爵は得べきなり」と。是の故に豪傑は皆な業を變じ、務めて詩書を學び、外權に隨從す。上は以て顯を得べく、下は以て官爵を得べし。要靡は商賈に事え、技藝を為す。皆な以て農戰を避く。具に備わるは、國の危うきなり。民これを以て教えと為す者は、その國必ず削らる。
-
『商君書』農戦今、國を為むる者は要無きこと多し。朝廷の治を言うや、紛紛焉として相い易うるを務む。是を以てその君は說に惛く、その官は言に亂れ、その民は惰りて農せず。故にその境內の民、皆な化して辯を好み學を樂しみ、商賈に事え、技藝を為し、農戰を避く。此の如くんば則ち亡國遠からず。國に事有れば、則ち學民は法を惡み、商民は化を善くし、技藝の民は用いられず。故にその國破り易きなり。
-
『商君書』外内民の內事は、農より苦しきは莫し。故に輕治は以てこれを使うべからず。奚をか輕治と謂う。その農は貧しくして商は富み、故にその食賤しき者は錢重し。食賤しければ則ち農は貧しく、錢重ければ則ち商は富む。末事禁ぜられざれば、則ち技巧の人は利ありて、游食する者眾きの謂いなり。故に農の力を用うること最も苦しく、商賈技巧の人に如かず。苟くも能く商賈技巧の人をして繁からしむる無くんば、則ち國の富む無きを欲するも、得べからざるなり。