商君書 / 墾令
無得為罪人請於吏而饟食之、則姦民無主。姦民無主、則為姦不勉。為姦不勉、則姦民無樸。姦民無樸、則農民不敗。農民不敗、則草必墾矣。
書き下し
罪人の為に吏に請いてこれに饟食するを得る無くんば、則ち姦民に主無し。姦民に主無ければ、則ち姦を為すも勉めず。姦を為すも勉めざれば、則ち姦民に樸無し。姦民に樸無ければ、則ち農民は敗れず。農民敗れざれば、則ち草必ず墾かれん。
現代語訳
罪人のために役人に取りなしを頼み、食べ物を差し入れることを認めなければ、悪事を働く民には頼れる後ろ盾がなくなる。後ろ盾がなくなれば、悪事に励む気も起きない。悪事に励まなければ、悪事を働く民に元手がなくなる。元手がなくなれば、農民は損なわれない。農民が損なわれなければ、荒地は必ず開墾される。
解説
墾令二十条の最後は、罪を犯した者への口利きと差し入れの禁止である。狙いは罰の厳しさそのものではなく、「後ろ盾」の切断にある。悪事が続くのは、捕まっても誰かが取りなしてくれるという見込みがあるからだ、と。ルールが機能しなくなるのは、たいてい罰が軽いからではなく、例外的に助けてもらえる筋道が残っているからである。誰かの一声で処分が緩む前例が一つできると、そのルールは以後ずっと交渉の対象になる。二十条を通して読むと、商君書が繰り返し攻撃しているのは怠惰ではなく、この「抜け道」だと分かる。
この章句が説くこと
罪人の為に請う無し後ろ盾を断つ抜け道例外の前例信賞必罰
関連する章句
-
『韓非子』備內第十七殺しては必ず當り、罪は赦さず、則ち姦邪、其の私を容るる所無し。
-
『韓非子』愛臣第四死を赦し刑を宥すは、是を威淫と謂う。
-
『韓非子』初見秦第一賞を言うも則ち與えず、罰を言うも則ち行わず、賞罰信ならず、故に士民死せざるなり。
-
『韓非子』姦劫弒臣第十四故に善く主為る者は、賞を明らかにし利を設けて以て之を勧め、...刑を嚴にし罰を重くして以て之を禁じ...
-
『韓非子』有度第六過ちを刑するに大臣をも避けず、善を賞するに匹夫をも遺れず。
-
『韓非子』內儲說上七術第三十魏の惠王ト皮に謂いて曰く、「子寡人の聲聞を聞く、亦た何如。」...對えて曰く、「臣王の慈惠なるを聞けり。」...王の功亡ぶるに至らん。...夫れ慈とは忍びずして、とは、與うるを好むなり。忍びざれば則ち過ち有るを誅せず、予うるを好めば則ち功有るを待たずして賞す。