韓非子 / 愛臣第四
故不赦死,不宥刑,赦死宥刑,是謂威淫。
書き下し
死を赦し刑を宥すは、是を威淫と謂う。
現代語訳
(重大な罪である)死罪を赦したり、刑罰を甘くしたりすることを、「威光の乱れ(威淫)」という。
解説
「重い罪を赦したり、刑罰を甘くしたりすることを、威光の行き過ぎた乱れという」という戒めです。決めたはずの重い罰を、情にほだされてうやむやにしてしまうと、一見優しい行いに見えて、実は物事の筋道を乱すことになるという教えです。組織で重大な決まり違反を見て見ぬふりをしたり、情けをかけて処分を軽くしたりすると、その場では丸く収まるように見えても、周りの人は『あの人は依怙贔屓をする』と見抜き、次第に決まりごと全体への信頼が薄れていきます。これは会社の規律に限らず、家庭でのしつけや、子どもの過ちへの向き合い方にも当てはまります。良いことと悪いことをはっきり分けて向き合う姿勢こそが、周りからの信頼を保つ土台になるのです。
この章句が説くこと
信賞必罰コンプライアンス規律温情主義権威
関連する章句
-
『韓非子』備內第十七殺しては必ず當り、罪は赦さず、則ち姦邪、其の私を容るる所無し。
-
『韓非子』內儲說上七術第三十魏の惠王ト皮に謂いて曰く、「子寡人の聲聞を聞く、亦た何如。」...對えて曰く、「臣王の慈惠なるを聞けり。」...王の功亡ぶるに至らん。...夫れ慈とは忍びずして、とは、與うるを好むなり。忍びざれば則ち過ち有るを誅せず、予うるを好めば則ち功有るを待たずして賞す。
-
『韓非子』難三第三十八桓公能く管仲の功を用いて、鉤を射るの怨みを忘る。文公能く寺人の言を聴きて、祛を斬るの罪を棄つ。... 是れ臣讎するに、而も明燭すこと能わず、多く之に資を假すに、自ら以て賢と為して戒めず。
-
『韓非子』六反第四十六故に法の道為る、前に苦しみて長く利あり。仁の道為る、偷楽しみて後窮す。聖人は其の輕重を權りて、す出づ。故に法の相忍ぶを用いて、仁人の相憐むを棄つるなり。
-
『韓非子』五蠹第四十九民は固より勢いに服す、能く義に懐くもの寡し。・・・民固より愛に驕り、威に聴くけばなり。
-
十七条憲法 第六条悪(あく)を懲(こ)らし善(ぜん)を勧(すす)むるは、古(いにしえ)の良典(りょうてん)なり。是(ここ)を以(もっ)て善人を匿(かく)すこと無く、悪を見ては必ず匡(ただ)せ。それ諂詐(てんさ)する者は、則(すなわ)ち国家(こっか)の利器(りき)、人民(じんみん)の鋒剣(ほうけん)なり。亦(また)佞媚(ねいび)する者は、上(かみ)に対(むか)いては則(すなわ)ち好(この)んで下(しも)の過(あやまち)を説(と)き、下(しも)に逢(あ)いては則(すなわ)ち上(かみ)の失(あやまち)を誹謗(ひぼう)す。それ此(か)くの如(ごと)き人は、皆(みな)君(きみ)に忠(ちゅう)無(な)く、民(たみ)に仁(じん)無し。是(こ)れ大乱(たいらん)の本(もと)なり。