初学訓 / 巻之二
此四恩は人の本なり。人たる者、つねに尊びて忘るべからず。身を終るまで務めて、其恩を必ず報ずべきことなり。四恩に限らず、人倫には、必ず恩をうくる人あり。忘るべからず。一今の世に生るゝ人、亂世にあはず、治世に住めるは、大なる幸なり。是、世を治め給ふ大君の御めぐみなり。大君は、たとへば、天地を大父母とするが如し。主君の上なる大主君なり。其御威德によりて、世をさまり、わが身安樂に此世に住めれば、是亦、四民ともに、大恩をかうぶれり。其御めぐみを仰ぎて、忘るべからず。
新字:此四恩は人の本なり。人たる者、つねに尊びて忘るべからず。身を終るまで務めて、其恩を必ず報ずべきことなり。四恩に限らず、人倫には、必ず恩をうくる人あり。忘るべからず。一今の世に生るゝ人、乱世にあはず、治世に住めるは、大なる幸なり。是、世を治め給ふ大君の御めぐみなり。大君は、たとへば、天地を大父母とするが如し。主君の上なる大主君なり。其御威徳によりて、世をさまり、わが身安楽に此世に住めれば、是亦、四民ともに、大恩をかうぶれり。其御めぐみを仰ぎて、忘るべからず。
書き下し
此四恩は人の本なり。人たる者、つねに尊びて忘るべからず。身を終るまで務めて、其恩を必ず報ずべきことなり。四恩に限らず、人倫には、必ず恩をうくる人あり。忘るべからず。一今の世に生るる人、乱世にあはず、治世に住めるは、大なる幸なり。是、世を治め給ふ大君の御めぐみなり。大君は、たとへば、天地を大父母とするが如し。主君の上なる大主君なり。其御威徳によりて、世をさまり、わが身安楽に此世に住めれば、是亦、四民ともに、大恩をかうぶれり。其御めぐみを仰ぎて、忘るべからず。
現代語訳
この四つの恩は人の本です。人である者は、常に尊んで忘れてはいけません。生涯務めて、その恩に必ず報いるべきです。四恩に限らず、人の間には必ず恩を受ける人があります。忘れてはいけません。今の世に生まれた人が、乱世にあわず、治まった世に住んでいるのは、大きな幸いです。これは世を治めておられる大君(将軍)のお恵みです。大君は、たとえていえば、天地を大父母とするようなものです。主君の上にいる大主君です。その御威徳によって世が治まり、わが身が安楽にこの世に住めるので、これもまた士農工商ともに大恩を受けているのです。そのお恵みを仰いで、忘れてはいけません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『初学訓』巻之二一人倫に交るには、始終あつくすべし、うすくすべからず。或は、始に厚けれど、をはりに薄くするは、人に交る道を失へるなり。君子の交は、久しくしていよいよあつし。凡、人に交るに、四恩あり。又、四本とす。天地の恩、父母の恩、主君の恩、聖人の恩なり。天地は、生の初なり、我を生み、我をやしなひ給ふ大本なり。父母は、生の本なり、主君は、養の本なり、聖人は、教の本なり。天地にあらざれば、生養のはじめなし。父母にあらざれば生れず、主君にあらざれば養はれず、聖人にあらざれば、教なくして人の道を知らず。書をよみ、学問する人は、ことさら聖人の恩あつし。書を読まざる人も、おやには孝すべく、君には忠すべきことを知り、兄弟の愛、夫婦の別を知れるは、天性の良知なれど、又、しかしながら、聖人の教、あまねく我日の本まで伝はれる故なれば、無学の人も、聖人の恩深きことを思ふべし。
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『初学訓』巻之二一いにしへの乱世の時を聞くに、力ある者は、つねに干戈を事として、しばしば戦にのぞみ、力なき者は、粮をつつみて、時々山林に逃げかくる。一日も、安堵の思ひなし。これを思ひて、今の太平の御代の、安穏にして無事なるを楽むべし。農工商は、君に仕へずといへども、又、其国郡を治め給ふ君恩を忘るべからず。大君の御めぐみによりて、かかる太平の楽を享くることを喜ぶべし。
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『初学訓』巻之一一およそ、人は恩を知るべし。恩を知るを以て人とす。恩を知らざれば、鳥獣に同じ。君に忠し、親に孝するも、君父の恩を報ずる道なり。此故に、恩を知れる人は、必ず親に孝あり、君に忠あり。恩を知らざる人は、忠孝なし。忠孝なければ、人たるの道を失ふ。いはんや人として、天地の大恩を忘るるは、天地のために、不孝の子なり、人道の本意を失へり。
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『大和俗訓』巻之六・躬行上一人に四恩あり。天地の恩、父母の恩、主君の恩、聖人の恩。此四恩わするべからず。天地は人の大父母なり。父母の気は、即天地の気なり。人は天地の気より生る。又むまれて後は、天地の養をうけて身をたつ。故に天地の恩は、広大にしてきはまりなし。何を以てか、其恩をむくいんや。天地の御心にしたがひて背かざる、是天地につかへ奉りて、孝をつくし、其恩の万一を報ずる道なり。天地の御心にしたがふとは何ぞや。人たるものは、天地の、万物を産みやしなひ給ふ、其御心をうけて心とす。是仁なり。仁とはあはれみの心なり。仁を失はざるは、天地の心にしたがふなり。仁を行ふ道、いかん。天地は、其産める所の人をあつく愛し、次には万物を愛し給ふ。
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『大和俗訓』巻之六・躬行上一およそ天地、父母、主君、聖人の恩、相ならびて至ておもし。此四恩をわすれそむくは、人にあらずと思ふべし。報いずんばあるべからず。これを報いんと思はば、道を学びて行ふにあり。他の道あるべからず。一今の世に、道を教ふる師は有りがたし。もし有らば貴び仕ふべし。道の教をうけたる師は、其恩深きこと君父にひとし。又書を読みならひたる師を、句読の師と云ふ。其労はなはだし。芸術の師は、又其次なり。是等は、君父聖人の恩にはならべ難しといへども、其苦労の恩わするべからず。此外、人の生涯には、恩を受くること多し。およそ人の恩を受けば、心に銘して忘るべからず。一言の情をも感じ、一事の志をも心にかけて思ふべし。人の情あれども感ぜず、人の志をもむなしくするは、無下に心なきなり。
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『初学訓』巻之一一およそ人となれる者は、父母これを生めりといへども、其本をたづぬれば、天地の生理をうけて生る。故に、天下の人は皆天地のうみ給ふ子なれば、天地を以て大父母とす。尚書にも天地は万物の父母といへり。父母はまことにわが父母なり。天地は天下万民の大父母なり。其上、うまれて後、父母の養を得て生長し、君恩をうけて身を養ふも、其本をたづぬれば、皆天地の生ずる物を用ひて食とし衣とし家とし、器として、身をやしなふ故に、およそ人となれる者は、はじめ天地の生理をうけて生るるのみならず、うまれて後身を終るまで、天地の養をうけて身をたもてり。然れば、人は万物にすぐれて、天地のきはまりなき大恩をうけたり。ここを以て、人のつとめてなすべきことわざは、わが父母につかへて力をつくすは云ふに及ばず、一生の間、つねに天地につかへ奉りて、其大恩を報じ奉らんことを思ふべし。是なん、人となりて、常に心にかくべきことにぞあるべき。
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