呻吟語 / 外篇・人情・其の難言の情を識る
人之情,有言然而意未必然,有事然而意未必然者,非勉強於事勢,則束縛於體面。善體人者要在識其難言之情,而不使其為言與事所苦。此聖人之所以感人心,而人樂為之死也。
新字:人之情,有言然而意未必然,有事然而意未必然者,非勉強於事勢,則束縛於体面。善体人者要在識其難言之情,而不使其為言与事所苦。此聖人之所以感人心,而人楽為之死也。
書き下し
人の情は、言然りと雖も意未だ必ずしも然らざる有り、事然りと雖も意未だ必ずしも然らざる者有り。事勢に勉強するに非ずんば、則ち體面に束縛せらる。善く人を體する者は、要は其の難言の情を識りて、其れをして言と事とに苦しむ所と為らしめざるに在り。此れ聖人の人心を感ぜしめて、人樂しみて之が為に死する所以なり。
現代語訳
人の情には、言葉はそうでも意はそうとは限らないものがあり、事はそうでも意はそうとは限らないものがあります。事の勢いに無理をしているのでなければ、体面に縛られているのです。上手に人を汲む者は、その言いにくい情を見分けて、その人が言葉と事に苦しめられないようにすることにあります。これが聖人が人の心を動かし、人が喜んでそのために死ぬ理由です。
解説
言葉や行いと本心がずれる理由を、二つ挙げます。事の勢いへの無理と、体面の束縛。どちらも本人の意ではありません。だから汲むべきは言いにくい情です。そして目標が示されます。その人が自分の言葉と行いに苦しめられないようにすること。前に出てきた、言う前と言葉に出ないところで工夫するという段の、具体的な中身になっています。

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見るこの章句が説くこと
言行本心体面難言汲む
関連する章句
-
『学問のすゝめ』十六編・心事と働きと相当すべきの論・功に食ましめて志に食ましめず言行齟齬するとは、議論に言うところと実地に行なうところと一様ならずということなり。「功に食ましめて志に食ましめず」とは、「実地の仕事次第によりてこそ物をも与うべけれ、その心になんと思うとも形もなき人の心事をば賞すべからず」との義なり。また俗間に、「某の説はともかくも、元来働きのなき人物なり」とてこれを軽蔑することあり。いずれも議論と実業と相当せざるを咎めたるものならん。
-
『墨子』耕柱子夏の徒、子墨子に問いて曰く、「君子に鬬有りや」と。子墨子曰く、「君子に鬭無し」と。子夏の徒曰く、「狗狶すら猶お鬬有り。惡んぞ士有りて鬬無からんや」と。子墨子曰く、「傷ましいかな。言えば則ち湯・文に稱し、行えば則ち狗狶に譬う。傷ましいかな」と。
-
『呻吟語』内篇・修身・何れの時か是れ足る萬般の好事說きて為すとするも、終日為さず。百種の貪心足るを要するも、何れの時か是れ足る。
-
『墨子』貴義子墨子曰く、言、以て行いを遷すに足る者は、之を常とす。以て行いを遷すに足らざる者は、常とする勿かれ。以て行いを遷して之を常とするは、是れ口を蕩かすなり。
-
『学問のすゝめ』十二編・人の品行は高尚ならざるべからざるの論・医師の不養生、論語読みの論語知らず畢竟この輩の学者といえども、その口に講じ、眼に見るところの事をばあえて非となすにはあらざれども、事物の是を是とするの心と、その是を是としてこれを事実に行なうの心とは、まったく別のものにて、この二つの心なるものあるいは並び行なわるることあり、あるいは並び行なわれざることあり。「医師の不養生」といい、「論語読みの論語知らず」という諺もこれらの謂ならん。ゆえにいわく、人の見識、品行は玄理を談じて高尚なるべきにあらず、また聞見を博くするのみにて、高尚なるべきにあらざるなり。
-
『呻吟語』内篇・修身・今の言行は皆な亂りに矢を放つなり吾射に觀て、言行を知れり。夫れ射は審らかにして而る後に發す、定見有ればなり。滿ちて而る後に發す、定力有ればなり。夫れ言能く審らかに滿たば、則ち言中らざる無し。行能く審らかに滿たば、則ち行得ざる無し。今の言行は皆な亂りに矢を放つなり。即ち中るも、幸ひなるのみ。