呻吟語 / 外篇・治道・名利兩つながら得たり
西門疆尹河西,以賞勸民。道有遺羊,值五百,一人守而待。失者謝之,不受。疆曰:「是義民也。」賞之千。其人喜,他日謂所知曰:「汝遺金,我拾之以還。」所知者從之。以告疆曰:「小人遺金一兩,某拾而還之。」疆曰:「義民也。」賞之二金。其人愈益喜。曰:「我貪,每得利則失名,今也名利兩得,何憚而不為?」
新字:西門疆尹河西,以賞勧民。道有遺羊,值五百,一人守而待。失者謝之,不受。疆曰:「是義民也。」賞之千。其人喜,他日謂所知曰:「汝遺金,我拾之以還。」所知者従之。以告疆曰:「小人遺金一両,某拾而還之。」疆曰:「義民也。」賞之二金。其人愈益喜。曰:「我貪,毎得利則失名,今也名利両得,何憚而不為?」
書き下し
西門疆河西に尹たり、賞を以て民を勸む。道に遺羊有り、五百に値す。一人守りて待つ。失ふ者之を謝するも、受けず。疆曰く、「是れ義民なり」と。之に千を賞す。其の人喜び、他日所知に謂ひて曰く、「汝金を遺せ、我之を拾ひて以て還さん」と。所知者之に從ふ。以て疆に告げて曰く、「小人金一兩を遺し、某拾ひて之を還す」と。疆曰く、「義民なり」と。之に二金を賞す。其の人愈いよ益ます喜ぶ。曰く、「我貪なり。每に利を得れば則ち名を失ふ。今や名利兩つながら得たり。何ぞ憚りて為さざらんや」と。
現代語訳
西門疆が河西の長官となり、賞で民を励ましました。道に落ちた羊があり、五百の値打ちでした。一人が見張って待ちました。落とし主が礼をしようとしましたが受けません。疆は言いました。これは義しい民だ。千を賞しました。その人は喜び、後日知り合いに言いました。お前が金を落とせ、私が拾って返そう。知り合いは従いました。そして疆に告げました。この者が金一両を落とし、某が拾って返しました。疆は言いました。義しい民だ。二両を賞しました。その人はいっそう喜んで言いました。私は貪欲だ。利を得るたびに名を失っていた。今は名も利も両方得られる。何を憚ってやらないことがあろうか。
解説
賞で善を勧めた結果が、逆転する話です。最初の行いは本物でしたが、賞を得た人はすぐ仕組みに気づきます。知り合いと組んで落とし物を演出すれば、名と利が同時に手に入る。本人が自分を貪欲だと認めているのが皮肉で、賞が善を装う動機になっています。前に出てきた、賞で感動を煽るのが最下段だという段の、具体的な失敗例です。
この章句が説くこと
賞逆効果演出名利動機
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