呻吟語 / 内篇・存心・才かに睡らんと說けば、便ち睡り著かず
才要說睡,便睡不著;才說要忘,便忘不得。
新字:才要説睡,便睡不著;才説要忘,便忘不得。
書き下し
才かに睡らんと說けば、便ち睡り著かず。才かに忘れんと說けば、便ち忘れ得ず。
現代語訳
眠ろうと思ったとたん、眠れなくなります。忘れようと思ったとたん、忘れられなくなります。
解説
意識すればするほど遠のく二つが並べられます。眠りと忘却です。どちらも自分の意志で直接には手が届かないもので、努力が逆効果になる典型です。わずか二十字ですが、心の働きには力ずくが効かない領域があると示しています。前に出てきた、助長するのは心が有りすぎる病だ、という一段とも響き合う観察です。直接には手が届かないものがあると知ることが、無駄な力みを止める第一歩になります。
この章句が説くこと
睡眠忘却逆効果意志限界
関連する章句
-
『呻吟語』外篇・治道・名利兩つながら得たり西門疆河西に尹たり、賞を以て民を勸む。道に遺羊有り、五百に値す。一人守りて待つ。失ふ者之を謝するも、受けず。疆曰く、「是れ義民なり」と。之に千を賞す。其の人喜び、他日所知に謂ひて曰く、「汝金を遺せ、我之を拾ひて以て還さん」と。所知者之に從ふ。以て疆に告げて曰く、「小人金一兩を遺し、某拾ひて之を還す」と。疆曰く、「義民なり」と。之に二金を賞す。其の人愈いよ益ます喜ぶ。曰く、「我貪なり。每に利を得れば則ち名を失ふ。今や名利兩つながら得たり。何ぞ憚りて為さざらんや」と。
-
『呻吟語』内篇・應務・人を曉すは當に是の如くなるべきか固より之をして愧ぢしむ可きに、乃ち之をして怨ましむ。固より之をして悔いしむ可きに、乃ち之をして怒らしむ。固より之をして感ぜしむ可きに、乃ち之をして恨ましむ。人を曉すは當に是の如くなるべきか。
-
『墨子』節葬下是の故に子墨子曰く、郷に吾が本と言えらく、意うに亦た其の言をして、其の謀を用いて、厚葬久喪を計るに、誠に以て貧を富まし、寡を衆くし、危を定め、亂を治む可からんか。則ち仁なり、義なり、孝子の事なり。人の為に謀る者は、勸めざる可からざるなり。意うに亦た其の言に法り、其の謀を用いて、人の若きの厚葬久喪、實に以て貧を富まし、寡を衆くし、危を定め、亂を治む可からざらんか。則ち仁に非ざるなり、義に非ざるなり、孝子の事に非ざるなり。人の為に謀る者は、沮まざる可からざるなり。是の故に以て國家を富まさんことを求むるも、甚だ貧を得たり。以て人民を衆くせんと欲するも、甚だ寡を得たり。以て刑政を治めんと欲するも、甚だ亂を得たり。以て大國の小國を攻むるを禁止せんことを求むるも、既已に不可なり。以て上帝鬼神の福を千めんと欲するも、又た禍を得たり。上、之を堯舜禹湯文武の道に稽うるに、政、之に逆らう。下、之を桀紂幽厲の事に稽うるに、猶お節を合わするがごとし。若し此を以て觀れば、則ち厚葬久喪は、其れ聖王の道に非ざるなり。
-
論語・雍也篇冉求曰く、「子の道を説ばざるに非ず、力足らざるなり。」子曰く、「力足らざる者は、中道にして廃す。今女は画れり。」
-
『墨子』尚同下天子、其の知力を以て未だ獨り天下を治むるに足らずと為す。是を以て其の次を選擇し、立てて三公と為す。三公も又た其の知力を以て未だ獨り天子を左右するに足らずと為す。是を以て國を分かちて諸侯を建つ。諸侯も又た其の知力を以て未だ獨り其の四境の内を治むるに足らずと為す。是を以て其の次を選擇し、立てて卿の宰と為す。卿の宰も又た其の知力を以て未だ獨り其の君を左右するに足らずと為す。是を以て其の次を選擇し、立てて鄉長家君と為す。是の故に古者、天子の三公・諸侯・卿の宰・鄉長家君を立つるは、特に富貴游佚にして之を擇ぶに非ざるなり。將に亂を治め刑政するを助けしめんとするなり。故に古者、國を建て都を設け、乃ち后王君公を立て、奉ずるに卿士師長を以てするは、此れ説を用いんと欲するに非ず。唯だ辯じて天民を治むるを助けしむるなり。
-
『呻吟語』外篇・治道・簿書十分の九を裁す簿書は奸を防ぐ所以なり。簿書愈いよ多くして奸愈いよ黠なるは、何ぞや。千冊萬簿、何の官か眼を經ん。左右の為に打點の門を開き、刁難の計を廣むるに過ぎず。下司の為に紙筆の孽を增し、百姓の為に需索の名を添ふ。舉世昏迷し、了に意を經ず、以て當然と為す。一たび細かに之を思へば、大笑を為す可し。識有る者は簿書十分の九を裁して上下相ひ安んじ、弊端自ら清まらん。