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呻吟語 / 内篇・修身・眾皆な之を悅ぶも、其の士爲る者之を笑ふ

不難天下相忘,只怕一人竊笑。夫舉世之不聞道也久矣,而聞道者未必無人。苟為聞道者所知,雖一世非之可也;苟為聞道者所笑,雖天下是之,終非純正之學。故曰:眾皆悅之,其為士者笑之,有識之君子必不以眾悅博一笑也。

新字:不難天下相忘,只怕一人竊笑。夫舉世之不聞道也久矣,而聞道者未必無人。苟為聞道者所知,雖一世非之可也;苟為聞道者所笑,雖天下是之,終非純正之学。故曰:眾皆悅之,其為士者笑之,有識之君子必不以眾悅博一笑也。

書き下し

天下相忘るるを難しとせず、只だ一人の竊かに笑ふを怕る。夫れ舉世の道を聞かざるや久し。而して道を聞く者未だ必ずしも人無からず。苟しくも道を聞く者の知る所と為らば、一世之を非とすと雖も可なり。苟しくも道を聞く者の笑ふ所と為らば、天下之を是とすと雖も、終に純正の學に非ず。故に曰く、眾皆な之を悅ぶも、其の士爲る者之を笑ふと。識有るの君子は、必ず眾の悅ぶを以て一笑に博せざるなり。

現代語訳

天下の人に忘れられるのは難しくありません。ただ一人がひそかに笑うのが恐ろしいのです。世を挙げて道を聞かなくなって久しいものです。それでも道を聞いた者が一人もいないとは限りません。もし道を聞いた者に認められるなら、世じゅうが非難しても構いません。もし道を聞いた者に笑われるなら、天下が正しいと言っても、結局は純正の学ではありません。だから、大勢は喜んでいるが、士たる者はそれを笑う、と言うのです。見識ある君子は、大勢の喜びと引き換えに一人の笑いを買うことはしません。

解説

評価の重みを、数ではなく質で測る一段です。天下の非難より、分かっている一人の忍び笑いのほうが恐ろしい。しかもその一人がいるかどうかは分からないので、常にいると想定して振る舞うことになります。前に出てきた、誰が承服していないかを見よという段の、より切迫した形です。大勢に受け入れられたときこそ、この問いが要ります。

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