呻吟語 / 内篇・修身・四つの愆を自ら負ふ
有問密語者囑曰:「望以實心相告!」余笑曰:「吾內有不可瞞之本心,上有不可欺之天日,在本人有不可掩之是非,在通國有不容泯之公論,一有不實,自負四愆矣。何暇以貌言誑門下哉?」
新字:有問密語者囑曰:「望以実心相告!」余笑曰:「吾内有不可瞞之本心,上有不可欺之天日,在本人有不可掩之是非,在通国有不容泯之公論,一有不実,自負四愆矣。何暇以貌言誑門下哉?」
書き下し
密語を問ふ者有りて囑して曰く、「望むらくは實心を以て相告げよ」と。余笑ひて曰く、「吾に內は瞞す可からざるの本心有り、上は欺く可からざるの天日有り、本人に在りては掩ふ可からざるの是非有り、通國に在りては泯ぼすを容れざるの公論有り。一たび實ならざる有らば、自ら四愆を負はん。何ぞ貌言を以て門下を誑くに暇あらんや」と。
現代語訳
内密の話を尋ねた人が頼んで言いました。どうか本当の心で話してください。私は笑って言いました。私には内に欺けない本心があり、上には欺けない天日があり、当人には覆い隠せない是非があり、国じゅうには消しようのない世論があります。一つでも本当でなければ、四つの咎を負うことになります。どうして上辺の言葉であなたを欺いている暇があるでしょうか。
解説
本音で話してほしいという依頼に、嘘をつけない理由を四つ並べて答えます。本心、天日、当人、世論。内から外へ順に広がり、どこにも逃げ場がありません。嘘をつかないという誓いではなく、嘘が成り立たない構造の説明になっているのが巧みです。笑いながら答えるという場面描写も、この段を軽やかにしています。誓いではなく、嘘が成り立たない構造の説明になっています。
この章句が説くこと
誠実嘘天日世論逃げ場
関連する章句
-
孟子・離婁章句下孟子曰く、「言に實無きは不祥なり。不祥の實は、賢を蔽う者之に當る。」 <解説> この節は分かりにくい。朱注に云う、「或いは曰く、天下の言實に不祥なる者有る無し、惟れ賢を蔽い不祥の實を為すと、或いは曰く、言にして實無き者は不祥なり、故に賢を蔽い不祥の實を為す、二説同じからず、未だ孰れが是なるか知らず、疑うらくは或いは闕文有らん。」私は後説を採用し、かなり強引な解釈をした。やはり朱子の言うように闕分が有るのだろうか。
-
尚書・周官德を作せば心逸んじて日々休く、偽を作せば心勞して日々拙し。
-
論語・為政篇子曰く、詩三百、一言以て之を蔽えば、曰く、思い邪(よこしま)無しと。
-
孟子・離婁章句上孟子曰く、「下位に居りて、上に獲られざれば、民得て治む可からざるなり。上に獲らるるに道有り。友に信ぜられずんば、上に獲られず。友に信ぜらるるに道有り。親に事えて悅ばれずんば、友に信ぜられず。親に悅ばるるに道有り。身に反して誠ならずんば、親に悅ばれず。身を誠にするに道有り。善に明らかならずんば、其の身に誠ならず。是の故に誠は、天の道なり。誠を思うは、人の道なり。至誠にして動かざる者は、未だ之れ有らざるなり。誠ならずして、未だ能く動かす者有らざるなり。」
-
徒然草・第233段万の科あらじと思はば、何事にも誠ありて、人を分かず恭しく、言葉すくなからむには如かじ。男女老少みなさる人こそよけれども、殊に若くかたちよき人の、言うるはしきは、忘れがたく思ひつかるゝものなり。よろづのとがは、馴れたるさまに上手めき、所得たるけしきして、人をないがしろにするにあり。
-
尚書・君陳至治は馨香にして、神明に感ず。黍稷は馨と非ず、明德のみ惟れ馨し。