呻吟語 / 内篇・修身・道德の實を潛かに修む
文名、才名、藝名、勇名,人盡讓得過,惟是道德之名,則妒者眾矣;無文、無才、無藝、無勇,人盡謙得起,惟是無道德之名,則愧者眾矣。君子以道德之實潛修,以道德之名自掩。
新字:文名、才名、芸名、勇名,人尽譲得過,惟是道徳之名,則妒者眾矣;無文、無才、無芸、無勇,人尽謙得起,惟是無道徳之名,則愧者眾矣。君子以道徳之実潜修,以道徳之名自掩。
書き下し
文名・才名・藝名・勇名は、人盡く讓り得過ぐ。惟だ是れ道德の名は、則ち妒む者眾し。文無く才無く藝無く勇無きは、人盡く謙り得起こる。惟だ是れ道德の名無きは、則ち愧づる者眾し。君子は道德の實を以て潛かに修め、道德の名を以て自ら掩ふ。
現代語訳
文の名、才の名、技芸の名、勇の名は、人はみな譲ることができます。ただ道徳の名だけは妬む者が多い。文が無く才が無く技芸が無く勇が無いことは、人はみな謙遜できます。ただ道徳の名が無いことだけは、恥じる者が多い。だから君子は道徳の実を人知れず修め、道徳の名は自分から覆い隠します。
解説
道徳という一項目だけが、他の評価と性質が違うことを突きます。文才や腕前なら人は素直に譲れるのに、人格の評判だけは妬まれる。逆に、才が無いとは笑って言えるのに、人格が無いとは言えない。だからこそ、実を密かに修め、名のほうは隠せと言うのです。善い評判が身を危うくするという、鋭い観察に基づく処世です。善い評判そのものが身を危うくするという、冷えた観察です。
この章句が説くこと
道徳名声嫉妬隠す実
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・修身・身を愛する者は赫赫の名を貴ばず蝸は涎を以て覓めらる、蟬は身を以て黏せらる、螢は光を以て獲らる。故に身を愛する者は、赫赫の名を貴ばず。
-
『墨子』修身彊からざれば智達せず、言信ならざる者は行果たさず。財に據りて以て人に分かつ能わざる者は、與に友とするに足らず。道を守ること篤からず、物に徧きこと博からず、是非を辯ずること察かならざる者は、與に遊ぶに足らず。本固からざる者は末必ず㡬うく、雄にして脩めざる者は其の後必ず惰る。源濁れば流れ清からず、行い信ならざれば名必ず耗る。名は徒らに生ぜず、而して譽は自ら長ぜず。功成り名遂ぐるも、名譽は虚假す可からず、之を身に反す者なり。言を務めて行を繁くすれば、辯なりと雖も必ず聴かれず。力多くして功を伐れば、勞すと雖も必ず圖られず。慧き者は心辯にして繁説せず、力多くして功を伐らず。此を以て名譽、天下に揚がる。言は多きを為すを務めずして智を為すを務め、文を為すを務めずして察を為すを務む。故に彼の智、察無く、身に在りて情、其の路に反する者なり。善、心に主たること無き者は留まらず、行、身に辯たること無き者は立たず。名は簡にして成る可からざるなり、譽は巧みにして立つ可からざるなり。君子は身を以て行を戴く者なり。利を思うこと尋ぎ、名を忘るること忽やかにして、以て天下に士為る可き者は、未だ嘗て有らざるなり。
-
『呻吟語』内篇・修身・名心盛んなる者は必ず偽を作す名心盛んなる者は必ず偽を作す。
-
史記 伯夷列伝「君子は世を没して名の称せられざるを疾む」。賈子曰く、「貪夫は財に徇じ、烈士は名に徇じ、夸者は権に死し、衆庶は生を馮む」と。「同明は相ひ照らし、同類は相ひ求む。雲は龍に従ひ、風は虎に従ふ。聖人作りて万物覩はる」。伯夷・叔斉は賢なりと雖も、夫子を得て名益々彰はる。顔淵は篤学なりと雖も、驥尾に附して行ひ益々顕はる。巌穴の士、趣舎此くの若き時有り、類名堙滅して称せられざるは、悲しいかな。閭巷の人、行ひを砥ぎ名を立てんと欲する者は、青雲の士に附くに非ずんば、悪んぞ能く後世に施かんや。
-
孫子・形篇勝を見ること衆人の知る所に過ぎざるは、善の善なる者に非ず。戦い勝ちて天下善と曰うも、善の善なる者に非ず。故に秋毫を挙ぐるも多力と為さず、日月を見るも明目と為さず、雷霆を聞くも聡耳と為さず。
-
『呻吟語』内篇・修身・人の知らざる所の隱惡人の共に知る所の顯名無きを患へずして、人の知らざる所の隱惡有るを患ふ。顯名は遠邇に著はると雖も、隱惡は神明に罪を獲る。躬を省みる者之を懼る。