臣軌 / 卷上 至忠章
蓋聞古之忠臣事其君也、盡心焉、盡力焉。稱才居位、稱能受祿。不面譽以求親、不愉悅以苟合。公家之利、知無不為。上足以尊主安國、下足以豐財阜人。內匡君之過、外揚君之美。不以邪損正、不為私害公。見善行之如不及、見賢舉之如不逮。竭力盡勞而不望其報、程功積事而不求其賞。務有益於國、務有濟於人。
新字:蓋聞古之忠臣事其君也、尽心焉、尽力焉。称才居位、称能受禄。不面誉以求親、不愉悅以苟合。公家之利、知無不為。上足以尊主安国、下足以豊財阜人。内匡君之過、外揚君之美。不以邪損正、不為私害公。見善行之如不及、見賢舉之如不逮。竭力尽労而不望其報、程功積事而不求其賞。務有益於国、務有済於人。
書き下し
蓋し聞く、古の忠臣その君に事うるや、心を尽くし、力を尽くす。才に称いて位に居り、能に称いて禄を受く。面に誉めて以て親を求めず、愉悦して以て苟合せず。公家の利、知りて為さざる無し。上は以て主を尊び国を安んずるに足り、下は以て財を豊かにし人を阜かにするに足る。内は君の過ちを匡し、外は君の美を揚ぐ。邪を以て正を損せず、私の為に公を害せず。善を見ればこれを行うこと及ばざるが如く、賢を見ればこれを挙ぐること逮ばざるが如し。力を竭くし労を尽くして其の報いを望まず、功を程り事を積みて其の賞を求めず。国に益有るに務め、人に済い有るに務む。
現代語訳
聞くところによれば、昔の忠臣が君に仕えるときは、心を尽くし、力を尽くした。才能に見合った位につき、能力に見合った禄を受けた。面と向かって褒めて取り入ろうとせず、機嫌をとって迎合しなかった。公の利益になることは、知っていて行わないことがなかった。上は君を尊び国を安んじるに足り、下は財を豊かにし人を増やすに足りた。内では君の過ちを正し、外では君の美点を揚げた。邪をもって正を損なわず、私のために公を害さなかった。善を見れば追いつけないかのように急いで行い、賢者を見れば取り逃がすまいと急いで挙げた。力を尽くし労を重ねてその報いを望まず、功を積み重ねてその賞を求めなかった。国に益あることに努め、人を救うことに努めた。
解説
この章句が説くこと
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葉隠・聞書第一或人(あるひと)覚悟の体(てい)覚書に、主君の身辺(しんぺん)勤むる者は別けて身持(みもち)覚悟慎むべきことなり。御側(おそば)の者の様子を見て、主人のたけを人が積(つも)るものなり。今は御機嫌悪し、序(つい)でになどと思うて居る内に、不図(ふと)御誤(おんあやまり)もあるべきことなり。又諫言(かんげん)は時を移さず申し上ぐべきことなり。仰せ出(いで)済みて後も、其の者に理を附け、少しづつもよき様に云いなせば、帰参(きさん)も早きものなり。又仕合せ(しあわせ)よき人には、無音(ぶいん)しても苦しからず、侍の義理なり。又科人(とがにん)をわろく云うは不義理の事なり。落ちぶれたる者には随分不憫(ふびん)を加え、何とぞ立ち直す様に致すべきこと、侍の義理なりと、これあり候。
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葉隠・聞書第一御縁組(ごえんぐみ)の時、何某(なにがし)一分(いちぶん)を申し達し候。この事、若き衆(しゅう)よく心得(こころえ)置くべき事なり。その身(み)気味(きみ)よく思うて、云(い)ふべき事を云うて腹切(はらき)りても本望(ほんもう)と思ふべし。よくよく了簡(りょうけん)候へ、何の益(えき)にも立たぬ事なり。我(われ)かやうの事を云うて腹切りても本望と思ふは、なるほど聞(きこ)えたり。曲者(くせもの)などと思ふは以(もっ)ての外(ほか)なる取違(とりちが)ひなり。まづ申し出でたる事その詮(せん)なく、我が身は引き取り、御養育(ごよういく)も仕(つかまつ)らず、追付(おっつ)け御死去(ごしきょ)なされ候に、御看病(ごかんびょう)も仕らず、残念千万(ざんねんせんばん)なり。気過(きす)ぎなる人は多分(たぶん)誤(あやま)る所なり。総(そう)じてその位(くらい)に至らずして諫言(かんげん)するは却(かえ)つて不忠(ふちゅう)なり。誠(まこと)の者ならば、我が存(ぞん)じ寄りたる事を似合(にあ)ひたる人に潜(ひそ)かに内談(ないだん)して、その人の思ひ寄りにさせて云へば、その事調(ととの)はるなり。これ忠節(ちゅうせつ)なり。もし、内談にてその人請(う)け合はずば、また外(ほか)の人にも内談し、とかく色々心遣(こころづか)ひをして、その事さへ調はるる様にすれば、大忠節(だいちゅうせつ)も知れぬ様にして居るものなり。幾人(いくにん)に内談しても、埒(らち)明かざる時は力に及ばず、その分(ぶん)にて打ち過ぎ、または起こし立て起こし立てすれば、多分叶(かな)ふものなり。我こそ曲者と云はるる名聞(みょうもん)ばかりにて、我が手柄(てがら)にするゆゑ調はざるなり。申し出でたる事益には立たず、人に難(なん)ぜられ、我が身を崩(くず)したる人数多(あまた)これあるなり。畢竟(ひっきょう)真(しん)の志(こころざし)なきゆゑなり。我が身を一向(いっこう)に捨て捨てて、主君の上(うえ)どうなりとも好き様にとさへ思へば、紛(まぎ)るる事はこれなく候なり。
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葉隠・聞書第一主人に諫言(かんげん)をするに色々あるべし。志(こころざし)の諫言は、脇(わき)に知れぬ様にするなり。御気(おんき)にさからわぬ様にして御癖(おんくせ)を直し申すものなり。細川頼之(ほそかわよりゆき)が忠義などなり。昔、御道中にて、御年寄(おとしより)何某(なにがし)承り、「某(それがし)、一命を捨てて申し上ぐべく候。段々御延引(ごえんいん)の上に脇寄(わきよ)りなど遊ばされ候節(せつ)、以ての外(ほか)然(しか)るべからず候。」と、諸人(しょにん)に向かい、「御暇乞(おいとまごい)仕り候。」と詞(ことば)を渡し、行水(ぎょうずい)、白帷子(しろかたびら)下着(したぎ)にて御前(ごぜん)へ罷出(まかりい)でられ、追付(おっつけ)退出、また諸人に向かい、「拙者(せっしゃ)申し上げ候儀、聞召(きこしめ)し分けられ本望至極(ほんもうしごく)、皆様へ一度御目に懸(かか)り候儀、不思議の仕合(しあわ)せ。」など広言(こうげん)申され候。これ皆、主人の非を顕(あらわ)し、我が忠を揚げ、威勢(いせい)を立つる仕事なり。多分、他国者(たこくもの)にこれあるなり。
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葉隠・聞書第一諫言(かんげん)の道に、我(われ)其の位(くらい)にあらずば、其の位の人に言はせて、御誤(おあやまり)直(なお)る様にするが大忠(たいちゅう)なり。此の階(かい)の為に諸人(しょにん)と懇意(こんい)する所なり。我が為にすれば追従(ついしょう)なり。一方(いっぽう)は我等(われら)荷(にな)ひ申す心入(こころいれ)からなり。成程(なるほど)なるものなり。
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