説苑 / 指武
文王欲伐崇,先宣言曰:「予聞崇侯虎,蔑侮父兄,不敬長老,聽獄不中,分財不均,百姓力盡,不得衣食,予將來征之,唯為民乃伐崇,令毋殺人,毋壞室,毋填井,毋伐樹木,毋動六畜,有不如令者死無赦。」崇人聞之,因請降。
新字:文王欲伐崇,先宣言曰:「予聞崇侯虎,蔑侮父兄,不敬長老,聴獄不中,分財不均,百姓力尽,不得衣食,予将来征之,唯為民乃伐崇,令毋殺人,毋壊室,毋填井,毋伐樹木,毋動六畜,有不如令者死無赦。」崇人聞之,因請降。
書き下し
文王崇を伐たんと欲し、先に宣言して曰く、「予聞く崇侯虎、父兄を蔑侮し、長老を敬わず、獄を聽くこと中らず、財を分かつこと均しからず、百姓力を盡くすも、衣食を得ず、予將に來りて之を征せんとす、唯だ民の爲にして乃ち崇を伐つ、人を殺すこと毋からしめ、室を壞すこと毋からしめ、井を填むること毋からしめ、樹木を伐ること毋からしめ、六畜を動かすこと毋からしめよ、令の如くせざる者有らば死して赦す無し」と。崇人之を聞き、因りて降を請う。
現代語訳
文王は崇を討伐しようとし、先立って布告して言った、「私が聞くところでは、崇侯虎は父兄をないがしろにし侮り、長老を敬わず、訴訟の裁定は的を射ず、財産の分配は不公平で、百姓は力を尽くしても衣食にありつけずにいるという。私はこれから来てこれを征伐しようと思うが、それはただ民のためであって、崇を討伐するにあたっては、人を殺してはならない、家屋を壊してはならない、井戸を埋めてはならない、樹木を伐ってはならない、家畜を動かしてはならない。もしこの命令に従わない者があれば、死をもって決して許さない」と。崇の人々はこれを聞き、そのため降伏を願い出た。
解説
文王は攻撃を始める前に、討伐の目的が民を苦しめる崇侯虎を除くことにあり、民自体を害するものではないと明確に宣言し、殺人・破壊・略奪の禁止という具体的な行動規範まで示した。この事前の宣言そのものが、実際に戦闘を交えることなく相手の降伏を引き出す結果につながっている。武力行使に踏み切る前に、その目的と手段の限界を明確に相手や第三者に示すことが、かえって不必要な犠牲を避け、目的を早期に達成する道になるという教訓は、対立や交渉の場面全般に応用できる。
この章句が説くこと
文王崇侯虎事前の宣言
関連する章句
-
説苑・指武宋曹を圍むも、拔けず。司馬子魚君に謂いて曰く、「文王崇を伐つに、崇其の城に軍し、三旬にして降らず、退きて教を脩め、復た之を伐つに、壘に因りて降る。今君德闕くる所無きか。胡ぞ退きて德を脩め、闕くる無くして後に動かざる」と。
-
説苑・指武文王曰く、「吾兵を用いんと欲す、誰か伐つべき。密須氏我を疑う、先んじて往きて伐つべし」と。管叔曰く、「不可なり。其の君は天下の明君なり、之を伐つは不義なり」と。太公望曰く、「臣之を聞く、先王は枉を伐ちて順を伐たず、險を伐ちて易を伐たず、過ぎたるを伐ちて及ばざるを伐たずと」と。文王曰く、「善し」と。遂に密須氏を伐ち、之を滅ぼす。
-
説苑・指武武王將に紂を伐たんとす。太公望を召して之に問いて曰く、「吾戰わずして勝ちを知り、卜せずして吉を知らんと欲す、其の人に非ざるを使うに、之を為すに道有りや」と。太公對えて曰く、「道有り。王眾人の心を得て、以て不道を圖らば、則ち戰わずして勝ちを知らん。賢を以て不肖を伐たば、則ち卜せずして吉を知らん。彼之を害すれば、我之を利す。吾が民に非ずと雖も、得て使うべし」と。武王曰く、「善し」と。乃ち周公を召して之に問いて曰く、「天下の事を圖る者、皆殷を以て天子と為し、周を以て諸侯と為す、諸侯を以て天子を攻む、之に勝つに道有りや」と。周公對えて曰く、「殷信に天子たり、周信に諸侯たらば、則ち勝つの道無し、何ぞ攻むべけんや」と。武王忿然として曰く、「汝の言說有るか」と。周公對えて曰く、「臣之を聞く、禮を攻むる者は賊と為し、義を攻むる者は殘と為し、其の民を制するを失えば匹夫と為ると。王は其の民を失う者を攻むるなり、何ぞ天子を攻めんや」と。武王曰く、「善し」と。乃ち眾を起こし師を舉げ、殷と牧の野に戰い、大いに殷人を敗る。堂に上り玉を見て、曰く、「誰の玉ぞや」と。曰く、「諸侯の玉なり」と。即ち取りて之を諸侯に歸す。天下之を聞き、曰く、「武王財に廉なり」と。室に入り女を見て、曰く、「誰の女ぞや」と。曰く、「諸侯の女なり」と。即ち取りて之を諸侯に歸す。天下之を聞き、曰く、「武王色に廉なり」と。是に於て巨橋の粟を發し、鹿臺の財金錢を散じて以て士民に與え、其の戰車を黜けて乘らず、其の甲兵を弛めて用いず、馬を華山に縱ち、牛を桃林に放ち、復た用いざるを示す。天下之を聞く者、咸武王天下に義を行うと謂う、豈に大ならずや。
-
説苑・指武王孫厲楚の文王に謂いて曰く、「徐偃王仁義の道を行うを好み、漢東の諸侯三十二國盡く服せり。王若し伐たずんば、楚必ず徐に事えん」と。王曰く、「若し信に道有らば、伐つべからざるなり」と。對えて曰く、「大の小を伐ち、強の弱を伐つは、猶お大魚の小魚を吞むがごとく、虎の豚を食らうがごとし、惡んぞ其の理を得ざる有らんや」と。文王師を興して徐を伐ち、之を殘う。徐偃王將に死せんとして曰く、「吾文德に賴りて武備を明らかにせず、仁義の道を行うを好みて詐人の心を知らず、以て此に至れり」と。夫れ古の王者其れ備え有るか。
-
孟子・盡心章句下孟子曰く、「人有り曰く、『我善く陳を為し、我善く戰いを為す。』大罪なり。國君、仁を好めば、天下に敵無し。南面して征すれば、北狄怨み、東面して征すれば、西夷怨む。曰く、『奚為れぞ我を後にする。』武王の殷を伐つや、革車三百兩、虎賁三千人。王曰く、『畏るること無かれ、爾を寧んずるなり。百姓を敵とするに非ざるなり。』崩るるが若く厥角稽首す。征の言為る、正なり。各々己を正しくせんと欲せば、焉くんぞ戰いを用いん。」
-
説苑・貴德武王殷に克ち、太公を召して問ひて曰く、「将に其の士衆を奈何にせんとするか」と。太公対へて曰く、「臣聞く、其の人を愛する者は屋上の烏をも兼ね、其の人を憎む者は其の余胥をも悪む、と。厥の敵を咸く劉し、余す有ら靡からしめんこと、何如」と。王曰く、「不可なり」と。太公出でて邵公入る。王曰く、「之を奈何にせんか」と。邵公対へて曰く、「罪有る者は之を殺し、罪無き者は之を活かさん、何如」と。王曰く、「不可なり」と。邵公出でて周公入る。王曰く、「之を奈何にせんか」と。周公曰く、「各々其の宅に居らしめ、其の田を田せしめ、旧新を変ずる無く、唯だ仁のみ是れ親しめ、百姓過ち有らば、予一人に在らん」と。武王曰く、「広大なるかな、天下を平らぐるや。凡そ士君子を貴ぶ所以の者は、其の仁にして徳有るを以てなり」と。