説苑 / 指武
將帥受命者,將帥入,軍吏畢入,皆北面再拜稽首受命。天子南面而授之鉞,東行,西面而揖之,示弗御也。故受命而出忘其國,即戎忘其家,聞枹鼓之聲,唯恐不勝忘其身,故必死。必死不如樂死,樂死不如甘死,甘死不如義死,義死不如視死如歸,此之謂也。故一人必死,十人弗能待也;十人必死,百人弗能待也;百人必死,千人不能待也;千人必死,萬人弗能待也;萬人必死,橫行乎天下,令行禁止,王者之師也。
新字:将帥受命者,将帥入,軍吏畢入,皆北面再拝稽首受命。天子南面而授之鉞,東行,西面而揖之,示弗御也。故受命而出忘其国,即戎忘其家,聞枹鼓之声,唯恐不勝忘其身,故必死。必死不如楽死,楽死不如甘死,甘死不如義死,義死不如視死如帰,此之謂也。故一人必死,十人弗能待也;十人必死,百人弗能待也;百人必死,千人不能待也;千人必死,万人弗能待也;万人必死,横行乎天下,令行禁止,王者之師也。
書き下し
將帥命を受くる者、將帥入り、軍吏畢く入り、皆北面再拜稽首して命を受く。天子南面して之に鉞を授け、東行し、西面して之に揖し、御せざるを示すなり。故に命を受けて出づれば其の國を忘れ、戎に即けば其の家を忘れ、枹鼓の聲を聞けば、唯だ勝たざるを恐れて其の身を忘る、故に必ず死す。必死は樂死に如かず、樂死は甘死に如かず、甘死は義死に如かず、義死は死を視ること歸するが如きに如かず、此を之れ謂うなり。故に一人必死すれば、十人待つ能わず。十人必死すれば、百人待つ能わず。百人必死すれば、千人待つ能わず。千人必死すれば、萬人待つ能わず。萬人必死すれば、天下に橫行し、令行われ禁止まる、王者の師なり。
現代語訳
将帥として任命を受ける者は、将帥自身と軍吏がすべて参内し、皆北を向いて再拝し頭を下げて命令を受ける。天子は南を向いてその者に鉞(まさかり、統帥権の象徴)を授け、東を向いて歩み、また西を向いて一礼し、以後は将帥の裁量に任せて口出ししないことを示す。だから将帥は命令を受けて出陣すれば自分の国を忘れ、戦場に臨めば自分の家を忘れ、太鼓の音を聞けばただ勝てないことだけを恐れて自分の身をも忘れる、だから必ず死を覚悟する。ただ必ず死ぬだけでは死を楽しむ境地には及ばず、死を楽しむだけでは死を甘んじる境地には及ばず、死を甘んじるだけでは義のために死ぬ境地には及ばず、義のために死ぬだけでは死を家に帰るように見る境地には及ばない、というのはこのことを言っている。だから一人が必死の覚悟を決めれば十人がかりでも敵わず、十人が必死の覚悟を決めれば百人がかりでも敵わず、百人が必死の覚悟を決めれば千人がかりでも敵わず、千人が必死の覚悟を決めれば万人がかりでも敵わない。万人が必死の覚悟を決めれば天下を思うがままに進み、命令すれば行われ禁令すれば止む。これが王者の軍である。
解説

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『長短経』出軍夫れ将なる者は、国の輔なり、人の司命なり。故に曰く、将兵を知らざれば、其の主を以て敵に与う。君将を択ばざれば、其の国を以て敵に与う。将既に兵を知り、主既に将を択ばば、天子は正殿に居りて之を召して曰く「社稷の安危は、一に将軍に在り。今、某国臣たらず。願わくは将軍を煩わして之に応ぜん」と。乃ち太史をして卜斎して日を択ばしめ、授くるに斧鉞を以てす。君は太廟に入り、西面して立つ。将軍は北面して立つ。君親ら鉞を操り、其の首を持ち、其の柄を授けて曰く「是より以上天に至るまでは、将軍之を制せよ」と。乃ち復た柄を操り、刃を授与して曰く「是より以下淵に至るまでは、将軍之を制せよ」と。将既に命を受け、拝して報じて曰く「臣聞く、国は外より理むべからず、軍は中より御すべからず。二心は以て君に事うべからず、疑志は以て敵に応ずべからず。臣既に命を受け、斧鉞の威を専らにす。臣敢えて還るを請わず」と。乃ち辞して行き、凶門を鑿ちて出づ。故に司馬法に曰く「進退は唯だ時のみ、寡人と曰うこと無かれ」と。孫子曰く「将軍に在りては、君命も受けざる所有り」と。古語に曰く「閫以内は、寡人之を制し、閫以外は、将軍之を制す」と。漢書に曰く「唯だ将軍の命を聞き、天子の詔を聞かず」と。
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『剣徴』・一人必死、千人を懼れしむ呉子励士篇に「今、一死賊をして曠野に伏せしめ、千人之を追はば、梟視狼顧せざる莫し。何となれば、其の暴かに起こりて己を害せんことを恐るればなり。是を以て一人命を投ずれば、千夫を懼れしむるに足る」とあり、言心は、一人の死賊、曠野の広き原中に隠れ伏んに、千人の多勢これを追者梟視とうろつき、狼顧と驚く者は何ぞや、必死に決定したる賊の暴かに出て切てかゝらんとを恐るゝ也、然れば一人必死になれば千人の衆を懼れしむると也、此に由て考見れば、況や一人と一人との勝負に、かたく〱必死になりたらば、敵を挫かんこと枯木を折るよりもたやすかるべし、一人は切り勝て功名とせんと思ひ、一人は脚下則我が墓所と心得て、無二無三に踏込む、其相隔阻すると、殆んど天淵也、尉繚子制談篇に「一武、剣を仗りて市に撃てば、万人之を避けざる者無し。臣謂へらく、一人の独り勇なるに非ず、万人皆不肖なるなり。何となれば、必死と必生と、図ること倅ならざればなり」とあり、韓非子初見に「一人死を奮へば以て十に対すべく、十は以て百に対すべく、百は以て千に対すべく、千は以て万に対すべく、万は以て天下を尉(やす)んずべし」とあり、呂子論威篇に「持叙(聶政か)、必死を田侯に誓ひて斉国皆懼れ、予譲、必死を襄子に致して趙氏皆恐れ、成荊、死を韓王に致して周人皆畏る」とあるも、俱に其の義也、
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司馬法・嚴位凡そ戦いの道は、道義を等しくし、卒伍を立て、行列を定め、縦横を正し、名実を察す。立ちて進むには俯し、坐して進むには跪く。畏るれば則ち密にし、危うければ則ち坐す。遠き者は之を視れば則ち畏れず、邇(ちか)き者は視ること勿ければ則ち散ぜず。位下れば、左右下り、甲坐し、誓いて徐(おもむろ)に之を行う。位は徒甲に逮(およ)び、籌(はか)るに軽重を以てし、馬を振るい徒甲を譟(さわ)がしめ、畏るれば亦た之を密にす。跪坐坐伏すれば、則ち膝行して寛(ゆる)やかに之に誓う。起ちて譟ぎ鼓して進めば、則ち鐸を以て之を止む。枚を御(ふく)み糗(きゅう)を誓い、坐して膝行して之を推し、戮を執りて顧みるを禁じ、譟ぎて以て之に先んず。若し畏るること太甚しければ、則ち戮殺すること勿く、示すに顔色を以てし、之に告ぐるに生くる所を以てし、其の職を循(めぐ)り省みよ。凡そ三軍、人戒むること分日、人禁ずること息(や)まざれば、以て食を分かつべからず、其の疑惑に方(あた)りては、師とすべく服せしむべし。凡そ戦いは、力を以て久しく、気を以て勝つ。固きを以て久しく、危うきを以て勝つ。本心固く、新気勝ち、甲を以て固く、兵を以て勝つ。凡そ車は密なるを以て固く、徒は坐するを以て固く、甲は重きを以て固く、兵は軽きを以て勝つ。
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『長短経』教戦卒服習し、器用利なれば、将軍乃ち旄を秉り衆を麾きて之に誓う〔有虞氏は国に誡め、夏后氏は軍に誓い、殷は軍門の外に誓う。周は将に刃を交えんとして之に誓う。誓う所同じからず、吾は周に従う。之に誓いて曰く「嗚呼、溥天の下、王土に非ざる莫く、率土の浜、王臣に非ざる莫し。今、某国は五行を威侮し、三正を怠棄す。我が有衆をして、恭しく天討を行わしむ。命を用うる者は、賞時を踰えず。逗撓する者は、誅列を遷さず。死生富貴、此の一挙に在り。嗟、爾庶士、各々乃の心を勉めよ」と〕。是に於て気は青雲を厲まし、湯に赴き火を蹈むと雖も、可なり。此れ教戦の法なり。
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尉繚子・戰威奪ふとは、心の機なり。令とは、衆心を一にするなり。衆審らかならざれば、則ち数々変ず。数々変ずれば、則ち令出づと雖も、衆信ぜず。故に之に令するの法は、小過は更むる無く、小疑は中(あ)つる無し。故に上に疑令無ければ、則ち衆は二聴せず。動くに疑事無ければ、則ち衆は二志せず。未だ其の心を信ぜずして、能く其の力を得る者有らざるなり。未だ其の力を得ずして、能く其の死戦を致す者有らざるなり。故に国に必ず礼・信・親・愛の義有れば、則ち饑を以て飽に易(か)ふべし。国に必ず孝・慈・廉・恥の俗有れば、則ち死を以て生に易ふべし。古の民を率ゐるは、必ず礼信を先にして爵禄を後にし、廉恥を先にして刑罰を後にし、親愛を先にして其の身を律す。故に戦ふ者は、心は身を率ゐて以て衆士を励ますに本づき、心の四肢を使ふが如し。志励まざれば、則ち士は節に死せず。士節に死せざれば、則ち衆戦はず。士を励ますの道は、民の生、厚くせざるべからざるなり。爵列の等、死喪の親、民の営む所、顕らかにせざるべからざるなり。必ずや民の生ずる所に因りて之を制し、民の営む所に因りて之を顕らかにし、田禄の実、飲食の親、郷里相勧め、死喪相救ひ、兵役相従ふ、此れ民の励む所なり。什伍をして親戚の如く、卒伯をして朋友の如くならしめ、止まれば堵牆の如く、動けば風雨の如く、車は轍を結ばず、士は踵を旋らさず、此れ本戦の道なり。地は民を養ふ所以なり、城は地を守る所以なり、戦ひは城を守る所以なり。故に耕に務むる者は、民饑ゑず。守りに務むる者は、地危ふからず。戦ひに務むる者は、城囲まれず。三者は、先王の本務なり。本務なる者は、兵最も急なり。故に先王は兵に専らにすること、五つ有り。委積多からざれば、則ち士行かず。賞禄厚からざれば、則ち民勧まず。武士選ばざれば、則ち衆強からず。器用備はらざれば、則ち力壮ならず。刑罰中らざれば、則ち衆畏れず。此の五者に務むれば、静かなれば能く其の固むる所を守り、動けば能く其の欲する所を成す。夫れ居を以て出づるを攻むるには、則ち居は重きを欲し、陳は堅きを欲し、発するは畢(ことごと)くなるを欲し、闘ふは斉しきを欲す。王国は民を富まし、覇国は士を富まし、僅かに存するの国は大夫を富まし、亡国は倉府を富ます。所謂上満ちて下漏れ、患ひ救ふ所無し。故に曰く、
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『文武訓』武訓下一古人の出陣は、喪の礼を以て是を行ふ。軍の命下る日は、士皆泣きて涙を流す。父母兄弟にわかれん事をかなしめばなり。戦をなすこと必死の道なれば、かくのごとくすること、むべならずや。一良将の兵を用ひて戦ふには、士卒のこころを同じくし力を一にして、一同に進み一同に退かしむ。勇者も一人すすまず、一同に下知にしたがひて進ましむ。怯き者も独退かしめず。退くべき時は、下知にしたがひて一同に退かしむ。一人ぬけがけしさきがけすれば、陣法みだれて、軍の勢わかれ弱くなる。呉子が、ぬけがけして首を取りたる勇士を切りたるも、此意なり。