説苑 / 權謀
下蔡威公閉門而哭,三日三夜,泣盡而繼以血,旁鄰窺牆而問之。曰:「子何故而哭,悲若此乎?」對曰:「吾國且亡。」曰:「何以知也?」應之曰:「吾聞病之將死也,不可為良醫;國之將亡也,不可為計謀;吾數諫吾君,吾君不用,是以知國之將亡也。」於是窺牆者聞其言,則舉宗而去之楚。居數年,楚王果舉兵伐蔡。窺牆者為司馬,將兵而往來,虜甚眾。問曰:「得無有昆弟故人乎?」見威公縛在虜中,問曰:「若何以至於此?」應曰:「吾何以不至於此?且吾聞之也,言之者行之役也,行之者言之主也。汝能行我言,汝為主,我為役,吾亦何以不至於此哉?」窺牆者乃言之於楚王,遂解其縛,與俱之楚。故曰:「能言者未必能行,能行者未必能言。」
新字:下蔡威公閉門而哭,三日三夜,泣尽而継以血,旁鄰窺牆而問之。曰:「子何故而哭,悲若此乎?」対曰:「吾国且亡。」曰:「何以知也?」応之曰:「吾聞病之将死也,不可為良医;国之将亡也,不可為計謀;吾数諫吾君,吾君不用,是以知国之将亡也。」於是窺牆者聞其言,則舉宗而去之楚。居数年,楚王果舉兵伐蔡。窺牆者為司馬,将兵而往来,虜甚眾。問曰:「得無有昆弟故人乎?」見威公縛在虜中,問曰:「若何以至於此?」応曰:「吾何以不至於此?且吾聞之也,言之者行之役也,行之者言之主也。汝能行我言,汝為主,我為役,吾亦何以不至於此哉?」窺牆者乃言之於楚王,遂解其縛,与俱之楚。故曰:「能言者未必能行,能行者未必能言。」
書き下し
下蔡の威公門を閉ぢて哭す。三日三夜、泣盡きて繼ぐに血を以てす。旁鄰牆を窺ひて之を問ふ。曰く、「子何の故ありて哭し、悲しむこと此くの若きや」と。對へて曰く、「吾が國且に亡びんとす」と。曰く、「何を以て之を知るや」と。之に應へて曰く、「吾聞く、病の將に死せんとするや、良醫爲すべからず。國の將に亡びんとするや、計謀爲すべからずと。吾數〻吾が君を諫むるも、吾が君用ゐず。是を以て國の將に亡びんとするを知るなり」と。是に於て牆を窺ふ者其の言を聞き、則ち宗を舉げて之を楚に去る。居ること數年、楚王果して兵を舉げて蔡を伐つ。牆を窺ふ者司馬と爲り、兵を將ゐて往來し、虜甚だ衆し。問ひて曰く、「昆弟故人有ること無きか」と。威公の縛せられて虜中に在るを見て、問ひて曰く、「若何を以て此に至れる」と。應へて曰く、「吾何を以て此に至らざらんや。且つ吾之を聞く、言ふ者は行ふ者の役なり、行ふ者は言ふ者の主なり。汝能く吾が言を行はば、汝主爲り、我役爲り。吾亦た何を以て此に至らざらんや」と。牆を窺ふ者乃ち之を楚王に言ひ、遂に其の縛を解き、與に俱に楚に之く。故に曰く、「能く言ふ者は未だ必ずしも能く行はず、能く行ふ者は未だ必ずしも能く言はず」と。
現代語訳
下蔡の威公は門を閉ざして泣き続けた。三日三晩、涙が尽きると血の涙が続いた。隣人が塀越しにのぞいてその理由を尋ねた。「あなたはなぜそんなに悲しんで泣いているのか」と。威公は答えた。「わが国はまさに滅びようとしている」と。「どうしてそれが分かるのか」と問うと、威公は答えた。「私はこう聞いている。病が死に至ろうとするとき、名医でも手の施しようがない。国が滅びようとするとき、いかなる計略も効き目がない、と。私は何度も主君を諫めたが、主君は聞き入れてくれなかった。だからわが国が滅びようとしていると分かるのだ」と。それを聞いた隣人は、一族を挙げて楚に去った。数年後、楚王は本当に兵を挙げて蔡を討った。塀越しにのぞいていた者は司馬(軍の長官)となり、兵を率いて戦場を往来し、たいへん多くの捕虜を得た。彼は「兄弟や旧友はいないか」と尋ね、威公が縛られて捕虜の中にいるのを見つけ、「あなたはどうしてこんな目に遭っているのか」と尋ねた。威公は答えた。「私がこうならないでいられようか。それに私はこう聞いている、言葉を発する者は行動する者に仕える立場にあり、行動する者こそ言葉の主人である、と。あなたが私の言葉を実行できたのなら、あなたが主人であり、私はその従者だ。私もまた、こうならずにいられようか」と。塀越しにのぞいていた者はそこで楚王にこのことを話し、ついに威公の縄を解いて共に楚へ連れて行った。だから言う、「よく言葉を語る者が必ずしもよく行動できるとは限らず、よく行動する者が必ずしもよく語れるとは限らない」と。
解説
この章句が説くこと
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易経・繋辞上子曰く、「君子其の室に居りて、其の言を出だすに、善なれば則ち千里の外も之に応ず。況んや其の邇(ちか)き者をや。其の室に居りて、其の言を出だすに善ならざれば、則ち千里の外も之に違(たが)う。況んや其の邇き者をや。言は身より出でて、民に加わり、行いは邇きより発して、遠きに見(あら)わる。言行は君子の枢機(すうき)なり。枢機の発するは、栄辱の主なり。言行は、君子の天地を動かす所以なり。慎まざるべけんや」と。
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説苑・說叢君子の言は寡くして實あり、小人の言は多くして虛あり。君子の學や、耳に入り、心に藏し、之を行うに身を以てす。君子の治や、見るに足らざるに始まり、及ぶべからざるに終わる。君子は福を慮ること及ばず、禍を慮ること之を百にす。君子は人を擇びて取り、人を擇ばずして與う。君子は實なること虛の如く、有ること無きが如し。
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